bogus-simotukareさんの記事を読んでいて、また興味深い記事を知りました。国家基本問題研究所のHPにある次のコーナーです。
>書籍のご案内
【自著自賛】国民の憲法
国基研副理事長 田久保忠衛
この組織のHPを読んでいる人なら、このようなページを設置しなくても、内容への賛否はともかく(私のような、この組織に批判的な人間も読んでいます)、この本の存在と内容の趣旨くらいならたいてい理解しているんじゃないんですかね。それで興味を持てばたぶん手に取るなりしているでしょう。こんなコーナーをわざわざ設ける意味合いが低いように思うんですけど。つまりは、仲間内くらいしかこの本を相手にしてくれないということでしょう。それなりに話題になっていれば、いまさらこんなコーナーを設けてまで宣伝する必要もないでしょう。
そもそもこの本は産経新聞社の出版です。産経新聞の本というのは、たぶんあんまり取り次ぎなんかもいい顔はしないんじゃないんですかね? 文藝春秋とか小学館あたりほどの営業力もないでしょう。ほかの出版社が引き受けなかったのは、やはり内容に難があるのかもしれませんね。このあたりはなんともいえませんが。
その件と関連してですが、田久保はこんなことまで書いています(ていうか、愚痴をこぼしているというところでしょうか)。
>私は憲法がらみで、次の三点に異常を感じている。第一は、党首全員のテレビ討論で、各人が同じ持ち時間を与えられているせいか、改憲論は極く少数論であるかのような画面になってしまう。第二は、書店で憲法のコーナーには圧倒的に多数の護憲論が並び、改憲論が極く少ない。第三は、改憲の手続きを改めて国民が主権を行使し易くしようとする自民党の憲法第96条改正問題で反対論が賛成論を上回っている。世論調査の結果、国民の大多数が改憲賛成との結果が出ているにもかかわらず、それに逆行する3つの社会現象はどう説明したらいいのか。
最初の党首の話については政党の頭数だけでいえば、改憲に賛成する政党が多くないっていうことでしょう。2つ目は、つまりそれって、憲法に関する本を読むような人は護憲派が多く、実際売れるから書店も護憲の本を目立つように並べているというだけの話でしょうし、たぶん取次ぎもそのあたりを意識しているということでしょうし、改憲論の本は内容はともかく少なくとも出版点数、部数ともにあまりかんばしくないということであって、文句があるのなら売れる改憲の本を書いて出版しろという以上の話じゃないでしょう。3つ目は、すくなくとも現段階では国民は96条改正について賛成じゃないっていうだけの話じゃないの。もし田久保の話が正しければそういうことです。
ていうか、今の日本の憲法学者って、その多くは護憲派であり、あるいは改憲派であってもすくなくとも産経新聞や国家基本問題研究所や自民党の現改憲案には賛成じゃないでしょう(たとえば慶応大の小林節教授)。国家基本問題研究所や産経新聞に登場する憲法学者が百地章と西修らばかりなのは、けっきょくのところ彼らくらいしか自分たちに賛同してくれる、あるいはブレーンにできる憲法学者がいないっていうことでしょう。そして百地も西も、憲法学会は論外、世間にだってぜんぜん影響力のある憲法学者じゃないしね(笑)。
ところで憲法学者の影響力というと、改憲派国会議員の雄(?)片山さつきが、東京大学法学部在学中における芦部信喜教授(当時。故人)との関係を自慢げに吹聴していましたね(笑)。芦部さんて護憲派憲法学者の第一人者であり、お前みたいな人間がそんなことうれしそうに話をしてどうするというものですが、芦部氏の影響力が没後も絶大であると同時に、まあ片山なんてその程度の人間なんでしょう。安倍晋三にいたっては、芦部のことすらろくに知らないようですから論外の極致です(wikipediaの芦部の記事参照)。
さてさて、安倍とか片山なんかどうでもいいですが、櫻井よしこがトップである「民間憲法臨調」なるものがありまして(つまり国家基本問題研究所と同じような組織です)、その役員・運営委員に大原康男の名があります(呆)。大原以外にも、「なんだ、こいつ」という人間がめだちますが。運営委員ていうことは、名前だけ貸しているのでなく、中心メンバーと解釈していいんでしょうね。それにしても大原って神道学者でしょう。そんな人間に憲法なんてお呼びじゃないでしょう(笑)。いくら彼の専攻が
>専門は宗教行政・政教問題
であっても(wikipediaより)、彼のような神道の当事者にこのような場で発言させては話がちがうってもんでしょう。
そもそも大原は、国家基本問題研究所の「理事」でして、これも変な話です。この組織は、その設立の趣旨に
>国家が直面する基本問題を見詰め直そうとの見地から、国家基本問題研究所(国基研・JINF)を設立いたしました。
とうたっています。それなら、神道学者に限らず宗教学者はその任じゃないでしょう。キリスト教でも仏教でもイスラム教でも、その他さまざまな宗教の学者でも、それは役割がちがうというものです。bogus-simotukareさんはこの件について
>要するに「憲法の政教分離原則を思い切り弱めて首相の靖国参拝を可能にしよう」とか「女帝制度批判」とかそういう話で大原が出てくるんでしょうが。
と指摘されています。私もそう思いますが、憲法の政教分離についての議論をするのなら、憲法学者以外に宗教学者を呼ぶとすれば、基本的には宗教社会学者とかに意見を求めるしかありません。たくさんの宗教の中で神道学者のみ呼ぶというのもへんな話だし、ましてや狂信者といえる大原みたいな人物を呼ぶなんて常軌を逸しているの類でしょう。皇室典範についても神道学者の出る幕はありませんよね。もっともまともな宗教学者(神道学者をふくむ)なら、誘われてもばかばかしくてはじめからこんなものに参加はしないでしょうが。
あ、誤解を招きたくないのでお断りしておきます。私は神道学者を軽んじるとかそういう意図はありませんよ。ただ憲法を考える上で、意見を聞くというのでなく改憲案の主要スタッフに神道学者を入れるなんてのはどうかしているし、まともな神道学者ならそんなものは引き受けないんじゃないのと考えるわけです。
しかし何をいまさらの話ですが、政治シンクタンクを自称していて、大原みたいな人間を「理事」にする「国家基本問題研究所」ってひどいところだよね(苦笑)。このブログで前にも書いたように、「国家基本問題研究所」を検索サイトで調べると、上のほうで私の記事がヒットします。拙ブログ程度の読者数のサイトの記事が上で引っかかるというのは、つまりはこの組織が世間からあまり相手にされていないということでしょう、って自分で書くのもなんですが、そういうことだと思います。それは大変よいことですが、こういう非常識なことをしていればそれも当然でしょう。国家基本問題研究所がそういった非常識なところを改めるのならともかく、そうでなくてこの組織が世間に受け入れられるようになったら、これはけっこう怖いと思います。なお私個人は、現状その可能性は低いとは予想しています。まあ麻生太郎が問題発言をするにふさわしい組織ではあります(麻生のwikipediaの「問題視された発言とその批判」の2013年7月29日の発言を参照)。
今回もbogus-simotukareさんに感謝を申し上げます。あ、それから本はAmazonにはリンクしないのでご容赦ください。