Quantcast
Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
Viewing all articles
Browse latest Browse all 4143

自衛隊による拉致被害者奪還という幼稚なデマを嬉々として流す巣食う会、産経新聞

$
0
0

毎度おなじみの内容ですが、産経新聞にこんな内容の記事が出ました。

>2017.2.25 09:46
【北朝鮮拉致】
拉致被害者救出へ「自衛隊活用」の具体策検討 全国でシンポ開催

 北朝鮮による拉致被害者救出の具体策を詳細に検討した「自衛隊幻想 拉致問題から考える安全保障と憲法改正」(産経新聞出版)の著者で「予備役ブルーリボンの会」代表の荒木和博氏らが各地でシンポジウムを開き、「拉致は根本的に安全保障の最重要課題。自衛隊が拉致被害者を救出できる現実を知ってほしい」などと提言を行っている。

 同書は朝鮮半島有事を想定し救出へ自衛隊がどのような活動ができるかなどをシミュレーション。憲法や法制度の課題もあぶり出した。国防の根本へメスを入れる内容に「自分の国は自分たちで守らねば。今の法で日本は大切な人を守れない」(福岡県の30代女性)、「憲法改正しなければ拉致被害者は永久に帰還できない」(長野県の50代男性)などと、幅広い世代から反響が寄せられている。

 シンポは荒木氏と、共著者で同会幹事長の伊藤祐靖氏、幹事の荒谷卓氏らが参加。現場の実情を踏まえた豊富な資料や動画などで分かりやすく解説する。26日に名古屋市、4月15日に北海道旭川市、同29日には秋田市で開催。詳細は同会ホームページ(http://www.yobieki-br.jp/)。

>拉致被害者救出へ「自衛隊活用」の具体策検討

産経は前にこのような記事を発表しているんですけどねえ。

>2015.8.8 05:01

【主張】日朝外相会談 政府の「本気」が問われる

(前略)

安全保障関連法案をめぐる国会審議で、朝鮮半島有事の際の拉致被害者について問われた安倍晋三首相は、「米国が拉致被害者を救出することが可能な状況が生じた場合も想定しながら、被害者の情報を提供し、安全確保をお願いしている」と答弁した。

 悲しいかな、これが現実である。自衛隊は拉致被害者を救出することはできない。交渉による奪還を急ぐしかないのだ。

(後略)

この社説は、拙記事発表時点でまだ削除されていません。

てめえら、どんだけデタラメなんだよ!!!

といいつつ、まあそんなもんだろうなと考える私がいるわけですが。ただ昨年3月の時点で早くも産経はこのような記事を出しています。

【北朝鮮拉致】自衛隊は拉致被害者を救出できないのか? ドイツの事例を参考に元自衛官らが訴える「奪還シナリオ」の必要性

【直球&曲球】葛城奈海 自衛隊による拉致被害者救出を議論せよ

上のような社説を書いておいて半年強で平気でこのような記事を出す産経新聞というのもなかなか度胸のある新聞です。だいたい記事に出てくる「ドイツの事例」というのはアルバニアでの話ですが、それって監禁されている人質を救出する作戦ではないわけで、次元が全然違うんですが(笑&呆れ)。

これらの記事の批判として、次の記事を私は書いています。

産経新聞は、拉致被害者の自衛隊による救出はできないと書いていたじゃないか

それで今回の記事も、つまりは産経新聞出版の書籍を宣伝する記事なのですが、

>自衛隊が拉致被害者を救出できる現実を知ってほしい

ってどういうことなんですかね?

拉致被害者の所在をどうやって特定するのか、という根本的な問題からしてきわめて困難なのが目に見えていますが、inti-solさんの指摘を引用させていただけば、

>拉致被害者の居場所をどうやって特定し、そこにどうやって、どの程度の規模の特殊部隊員を送り込み、当然予想される北朝鮮側の反撃を排除して「救出」して、どうやって撤収するのか、どの程度の部隊規模と装備と計画なのか、「現実」というなら、是非具体的に提示していただきたいものです。

当然のことながら、すべての拉致被害者が今なお一箇所に集められて生活している、なんてことはあり得るはずもなく、北朝鮮のあちこちに分散して生活※しているはずです。仮にその居場所が突き止められたとしても(実際には、突き止められるわけがないけど)、それを同時に襲撃して救出することなど、いかに考えても不可能という以外の答えはありません。

※生きているなら、ですがね。政治的イデオロギーの左右にかかわらず、不当に拉致された親族が死んだと認めたくない、生きていると思いたい、という気持ちは分かります。だけど、客観的に判断して、もう生きいるはずがない。個人の心情として「まだ生きている」と思いたいのは理解できますが、それに基づいて政府が、明らかに生きてはいない人の「救出作戦」などという失敗確実の博打を行うことなど、あり得ないでしょう。

ということです。

それで私も、どのようにして拉致被害者を自衛隊によって救出するのかというのが非常に興味があったので(さすがに買う気はしなかったので)立ち読みしてみました。そうしたら、なぜか拉致被害者が清津にいるとか(そう報じられたからだそうですが、なぜ平壌や平安南道その他内陸、黄海側じゃないんですかね?)、北朝鮮が騒乱状態になっているとか、きわめて現実性の乏しいさまざまな都合のいい仮定を重ねている代物です。しかも全員の救出でなく、騒乱時に北朝鮮に入った多国籍軍がたまたま日本人らしき人を見つけて日本政府に連絡して、それで自衛隊が救出に向かうとかいう話でした。そんなことが本当にあったら、自衛隊なんか呼ぶまでもなく多国籍軍がその人を保護するでしょう(苦笑)。いずれにせよ、さすがに平時に自衛隊が北朝鮮に突入して、拉致被害者全員を救出するというようなチャレンジャーというか荒唐無稽な計画ではないようです。

でもさあ、そんな話現実性ないよね(笑)。だいたい「混乱時」なんて話をよく連中はしますけど、本当に混乱しているときは、とてもとても拉致被害者など発見・確認できないし、事実米軍もいつだって混乱しているイスラム国からの人質救出に失敗しています。いままで軍事的に人質を救出した作戦というと有名なのがたとえばエンテベ空港でのイスラエルの作戦ですが、これらの人質救出を成し遂げた作戦は、

人質の所在が分かっている(わからなければ作戦を遂行できません)

多くの場合敵地ではない(敵地であれば作戦成功の可能性は極小です。エンテベ空港は例外)

危急の状態である(だから危険な強硬作戦がありうるのです)

というような条件があります。イランの米国大使館人質事件救出作戦は、まさに敵地テヘランで遂行した作戦でしたから、無様な失敗に終わったわけです。それで北朝鮮拉致被害者は、人質の所在(生死も)不明、敵地、主に1970年代の拉致で現在危急の状態ではありません。このような悪条件では、とてもとても拉致被害者救出などできません。

だいたいエンテベ空港の事例だって、エンテベ空港の建設をイスラエルの建設会社が請け負っていたので図面があって、詳細な計画や準備を可能としたというきわめて強い幸運があったわけだし、イスラエルだっていつもこのような強硬措置で人質を救出しているわけではない。かの岡本公三氏(昨日の記事でも取り上げました)は、イスラエルの刑務所に長きにわたって収監されていましたが、捕虜交換で出獄、日本赤軍に合流することができたわけです。あのような作戦がそうそういつも成功するわけでは(当然)ない。

そもそも自衛隊員がよく読む朝雲新聞が、そのようなことはできない旨の記事を発表していたわけです。以前拙記事でもご紹介しましたが、inti-solさんの同じ記事から引用します。

>過激派組織「イスラム国」による日本人人質事件は残念な結果となった。悔しい気持ちはわかるが、自衛隊が人質を救出できるようにすべきとの国会質問は現実味に欠けている。
人質救出は極めて困難な作戦だ。米軍は昨年、イスラム国に拘束されている二人のジャーナリストを救出するため、精鋭の特殊部隊「デルタフォース」を送り込んだが、居場所を突き止められずに失敗した。
作戦に際し、米軍はイスラム国の通信を傍受し、ハッキングもしていたに違いない。さらに地元の協力者を確保し、方言を含めて中東の言語を自在に操れる工作員も潜入させていたはずだ。もちろん人質を救出するためであれば、米軍の武力行使に制限はない。それでも失敗した。
国会質問を聞いていると、陸上自衛隊の能力を強化し、現行法を改正すれば、人質救出作戦は可能であるかのような内容だ。国民に誤解を与える無責任な質問と言っていい。
これまで国会で審議してきた「邦人救出」は、海外で発生した災害や紛争の際に、現地政府の合意を得たうえで、在外邦人を自衛隊が駆け付けて避難させるという内容だ。今回のような人質事件での救出とは全く異なる。
政府は、二つの救出の違いを説明し、海外における邦人保護には自ずと限界があることを伝えなければならない。私たちは、日本旅券の表紙の裏に記され、外務大臣の印が押された言葉の意味を、いま一度考えてみる必要がある。(2015年2月12日付『朝雲』より)

荒木その他に、この「朝雲」の記事についてどう思うか聞いたらどうお答えいただけますかね。まともな回答が返ってくるとも思いませんが、なんとも無様で無残な光景です。

さらにinti-solさんが2015年の記事でご指摘になっていることを引用すれば、

>特殊部隊の奇襲による人質奪還を実現するためには何重もの高いハードルがあります。そのハードルがクリアできることなど、滅多にないのです。
最も重要なのは相手国政府の承認です。他国の領土で特殊部隊が作戦行動を行うのですから、相手国の承認がなければ侵略です。純軍事的に見ても、相手国の協力、せめて行動の自由の保障がなければ、そんな作戦が成功するはずもありません。相手国政府が、該当地域を実効支配しているか否かも問題です。政府の実効支配が及んでいなければ、政府の承認も空手形と同じですから。
当然、人質を取っている集団が、その国の政府、あるいは実効支配している勢力にとっても犯罪者集団と見られていなければ、行動の承認も協力も得られるわけがありません。
そして、人質がどこに身柄を拘束されているか、どこの建物のどこの部屋まで、ある程度正確に分かっている必要があります。相手が「特殊部隊が突入してきた」と悟ってから、人質に危害を加えられるまで、よくても数分、下手をすれば数秒の時間の猶予しかないので、人質の居場所に向かって瞬時になだれ込まなくてはならないからです。

ということです。だいたい人質救出を仮に成功させたところで、これもinti-solさんのお書きになっていることを引用すれば、

>純軍事的な面に限ってもそうですが、それに加えて、やった場合は国際政治上の後始末が極めて高くつくことになるでしょう。

今回の記事はinti-solさんの複数の記事を参考にしました。感謝を申し上げます。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 4143

Trending Articles