最近見た映画で、題名と内容がちょっとそぐわなすぎるといわざるを得ない映画をご紹介します。
最初は「92歳のパリジェンヌ」です。
読者の方々は、この題名でどのような映画を想像しますかね。パリ在住の老人が、さまざまな困難がありながらも独力で人生がんばる、みたいな映画を想像しませんかね。
実際はこの映画はぜんぜんそんな映画ではありません(苦笑)。つまりリオネル・ジョスパン元フランス首相の母親をモデルにした話で、彼の母親は長きにわたって助産婦(助産師)をしていましたが、老齢となり生きていくうえで不自由なことが増えたので、家族に向かって自殺すると宣言するという映画です。
映画の題名は、たしかに主人公(厳密には、この映画の主人公は、サンドリーヌ・ボネールの演じる彼女の娘でしょうが)のことを表現していますが、映画の内容にそぐうものとは全く思えません。
私は予告編を見ていましたから、映画の内容はわかっていましたが、あんまり確認しないで見たら、だいぶ困惑するんじゃないのという気はします。ちょっとこれは、題名を考えてくれなければ困ります。上の題名は、コメディ、あるいは明白なハッピーエンド系の映画の題名でしょう。
もう1本が「未来を花束にして」です。これは第一次世界大戦直前の時代における英国での女性参政権問題を扱った映画ですが・・・。
これも、とてもこんな甘い題名で済む映画ではありません(苦笑)。この映画に出てくる参政権運動家たちは、ショーウィンドーを石で割り気勢を上げ、さらに警官隊によって容赦なく殴られます。男ならもっとひどくやられるのでしょうが、女だからといって暴力を振るわないでくれるようなものではありません。
主人公は洗濯工場で働いていますが、労働条件も悪い。運動に参加しますが、夫から家を追い出され、子どもは夫が養子に出す始末。また自分をクビにした雇用主に復讐したりします。
主人公は逮捕されたり警察からスパイになれといわれたりします。それで仲間たちとポストを爆破したり電話線を切断します。さらには、ロイド・ジョージの空いている別荘を爆破します。
それ完全なテロじゃんと思うし、実際そうなんですが、逮捕された主人公は監獄でハンストをして、むりやり栄養を取らされます。それで仲間と英国王にダービーの会場で直訴しようということとなり、直訴できなかった仲間は馬に身を投げて、自分の意思を知らしめようとします。
メリル・ストリープ(この映画にも出演しています)はこの映画について
>すべての娘たちはこの歴史を知るべきであり、すべての息子たちはこの歴史を心に刻むべきである
とのコメントをしたとのことですが、彼女の言う
>この歴史
というのは、上のような行動のことです。ちょっとやそっとの行動ではないわけです。そういう行動を描いた映画が
>未来を花束にして
というのでは、これも全く題名とそぐわないですよね。「未来」と言っても、彼女ら活動家たちは、まさに自分たちの未来を犠牲にしてでも未来へ向かおうとしたわけで、まさに捨て身、肉を切らせて骨を断つということを文字通りにしたわけです。革命(あるいはそれに類するもの)というものはそういうことでしょうが、いずれにせよ彼女らの行動は、とても花束なんていえたものではありません。仮に花束だとしたら、それは血まみれ、泥だらけのものです。
それで私は、この映画の内容は知っていましたが、実際の映画を見ていてその予想の落差に驚きました。それで「これは題名に問題がある」と思いました。あまりに題名が甘すぎる。この題名では、女性参政権活動家の活動は、きわめて平和的で平穏なものだと思えるでしょう。映画の中では、そのような活動では限界が生じたので過激な活動に転化したと言うことが語られますが、いずれにせよ映画の内容にそぐいません。
私個人にしても、「92歳・・・」のほうは、内容は承知の上で見ることができましたが、「未来・・・」のほうは、内容との齟齬を知らないで見ました(女性参政権の映画だということは知っていましたが)。このあたりちょっと配給会社その他も注意してほしいと考えて記事にしました。