過日、bogus-simotukareさんの記事を読んでいたら、紹介されているこんな記事を読みました。
>特定失踪者問題調査会の荒木和博氏の言葉を付け加えておきます。
「「不確かな情報であり確認できない」からといって動かないのではなく、「不確かだが情報がある」ということで動くべきであるのは当然です。木村かほるさんについて言えば、平壌でタイ人女性に日本語を教えていたとの証言があり、今回の証言はそれとも一致します。」
「こういうときは「北朝鮮にいる可能性のある失踪者はすべて拉致されている」という前提で対処していただきたいと思います。災害のときは所在不明であればすべて被災した可能性があるとして対処するのですから。」木村かほるさんに関する情報について【調査会NEWS1109】(23.12.21)
・・・(呆れ)。それ全然話の次元が違うじゃないですか。
うんなもん、災害によって行方不明になったと高度の確度で推定される行方不明者と、荒木らが単にそうほざいているだけの「特定失踪者」なんて、比較の対象にもならんでしょ、そんなの。
ただこういう話を批判するのも実に馬鹿馬鹿しいですよね(笑)。こんな話をほざく荒木だって、肯定して紹介している三浦小太郎氏だって、まあ失礼ながらそんなことつゆ信じちゃいないし、自分たちの意見に他人が賛同してくれるなんて期待をいまさらしてはいないでしょう(笑)。
でですよ。拉致被害者家族や特定失踪者家族はどう考えているんですかね?
私の勝手な考えですと、少なくとも拉致被害者家族は、荒木の言っていることなんかほとんど信用しちゃいないでしょうね。たとえば横田さんたちがモンゴルでお孫さんに会ったということは、つまりは「巣食う会の主張はあてにならん」と考えたということでしょう。それで面会することを家族会にも巣食う会にも黙っていて、それでいまだ関係を継続しているというのも変な話ですよね(笑)。特定失踪者家族だって、どんだけこんな連中のほざいていることなんか信用しているんだか。
これ私は、なんだか「勧進帳」みたいな気がしますね。だますほうだって先方がだまされているとは考えていないし、だまされているはずの方だって、だましている側が自分をだますことに成功しているなんて考えてはいないでしょう。荒木や西岡力、島田洋一、この文章を引用した三浦氏、協力者である櫻井よしこら、みんな同じでしょう。まーったくうそのフィードバックとでもいうべきか。
全くの余談ですが、ずいぶん以前こんな本を読んだことがあります。
日中国交正常化 - 田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦 (中公新書)
それでこの本の記述で、田中角栄首相(当時、以下同じ)、大平正芳外相が1972年に国交を回復するために中国を訪問する直前に行われた椎名悦三郎自民党副総裁による台湾訪問のくだりがあります。椎名は、日中国交回復の暁には台湾とは断交になるので、つまりはその露払いのために訪台したわけです。
しかしもともと椎名は台湾派だし(佐藤栄作政権で外相をするということはそういうことです)、日本政府も(田中首相も大平外相も)これこれこういうことを話して台湾側に義理を立ててうまく謝ってくださいなんて話もせず、ほとんど「あんたに任せる」というレベルだったので、椎名は蒋経国(すでに蒋介石は、表立って出ることが難しかった模様)との会談で、日本が中華人民共和国と国交を結んでも台湾との国交は維持される(「『従来の関係』とは外交を含めた意味である」と語ったとのこと(p.118))とかめちゃくちゃなことを言い出す始末で、蒋経国も大要「いずれ我々は大陸反攻をする」と椎名に言います(p.119~120)。蒋経国だって日本側の思惑は重々承知だし大陸反抗が可能なわけではないことは分かっている、椎名も自分がめちゃくちゃ言っているのは分かっています。蒋経国からすれば「あんたたちわれわれを見捨てるんだろう」と怒鳴りたいところでしょうが、ここは椎名に敬意をあらわして(椎名が台湾派であり、嫌な役割を押し付けられたことはもちろん蒋経国も承知です)、先方の言い分を聞いて、自分も政治的建前を述べたということでしょう。で、これについて日本の某外務省役人は、
>この人〔蒋経国〕は、何もかも分かったうえで、しかも遠路はるばるやってきた椎名悦三郎という老人を大事にし、面目をつぶさないように、うまいぐあいに話を取り持ったな、という印象を持ちました。弁慶と義経が嘘をついているのを富樫はわかっていながら、見て見ぬふりをして関所を通してやる、あの勧進帳に似ています。蒋経国は、椎名さんが言っていることは嘘で、日本は、本当は台湾とは断行すると決めているのに、それを言ったのでは元も子もないから正常化協議会の決議を引っ張り出した。もう台湾とは断行するつもりでしょう、ということを暗に匂わせながら、椎名さんとの会議を、いかにも話ができたかのような格好で終わらせました。(p.120~121〔〕内も本のまま。元は他書からの引用)
と評したわけです。なるほどなと思います。蒋も椎名の立場や苦しい胸のうちはよくわかっている、ここで椎名を罵倒したところで何もどうにもならない、という判断でしょう。そのあたり蒋経国という人も大人の対応をしたのだなと思います。もっとも椎名も、
>台湾訪問について椎名は後に「あの時は、ただ忍の一字だった」と述べている。
と語ったとのことで、きわめて苦しかったのは確かでしょう。
というわけで、bogus-simotukareさんのブログに大要勧進帳だというコメントをしたところ、先方から
> 勧進帳は感動的ですけど、これは感動的じゃないんで「大本営発表の世界」「任侠団体の世界(実際には任侠ではなくただの暴力団)」とかの方がよろしいかと思います。
という返しをいただきました。確かにそうですよね(笑)。
勧進帳も椎名と蒋経国の会談も、最初で最後という性質なものです。弁慶と義経らがしょっちゅう同じところをわたるわけではないし、蒋経国も椎名も、この件で会談することなど2度とないわけです。それならそういう対応、うそをうそと知りつつ深くは追求しない対応をするということもありうるでしょう(勧進帳はフィクションですが)。
でも・・・特定失踪者なんて、10年単位の話ですからねえ(呆れ)。関係者みなこんなことがどうこうなるなんて考えてもいないし、荒木らがほざくことなんか気のない返事で「はあ、はあ」と聞くだけでしょう。
これ正直に言いますが、徹底的に愚劣ですね。
bogus-simotukareさんのおっしゃる大本営発表とか、これは私が考え付いた話ですが、ゴム会社の会計を担当する社員が、会社の金を横領してキャバクラの女につぎ込んだ話みたいなものでしょう。報じられているところによると、女は最初重病と称して金をたかったみたいですが、そもそも高額医療制度もあるし、どんな病気になろうとそんなに多額の金なんか必要ないのですが、そして男もどこかの時点で(あるいは最初から)女の話を「変だ」と考えたはずですが、もうその時はだまされている(つもりでいる)ほうが精神的に楽だったんでしょうね。この男のことを「馬鹿」と考えるのなら、荒木らに協力する人たちも同類の馬鹿でしょう。要は荒木らの、愚にもつかない政治活動のお遊びに協力しているだけじゃないですか。まったくお話にもなりません。いくら愛する身内の行方がわからないことに苦しんでいるからといって、こういう悪質な人間に協力していいというものでもないでしょう。
私はいままで、荒木らの非常識な主張をいろいろ批判してきました。「反物事案」なんてその一例です。
それで私はよく大要「自分が拉致被害者家族なら、もっと現実性のある話をしようと言っている」という趣旨のことを書きました。あるいは激怒するとも。それで拉致被害者家族も特定失踪者家族も、もうまともな話をしようと考える段階ですらないんでしょうね。当方もちろんきわめて微力な人間ですが、やはり私がこの人たちを批判し続けることにもそれなりに意味があると考えざるを得ませんので、これからも記事を書きます。もっとも微力でない人間だってたぶん何もできませんから、これはもう有志が地道に批判を続けるしかないのでしょう。
今回の記事は、bogus-simotukareさんの上掲記事を参考にしました。感謝を申し上げます。