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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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家庭環境によって、知的障害者・発達障害者の犯罪者のその後が大きく左右されるのは、ある意味当然の話ではあるが本当によろしくないことだと思う

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自閉症の息子さんを持つ立石美津子さんという方がいまして、彼女のブログ(原則毎週金曜日に更新)が面白いので私も読んでいますが、先週(2月14日付)の記事

毛玉をとったら、逮捕される?

を読んで、「おや」と思いました。知的障害者・発達障害者がかかわる刑事事件についての記事だったからです。なお立石さん自身幾冊もの著書を著していますが、医師の松永正訓氏が、立石さん親子を取材した本を書いています。これはなかなかすごい本なので、読者の方もお読みになることをおすすめします。

発達障害に生まれて-自閉症児と母の17年

それで立石さんは、こちらの論文を引用しています。非常に興味深い論文ですので、こちらもぜひリンクから読んでいただければです。筆者の副島洋明弁護士は、知的障害者の人権擁護にとりくんでいる弁護士で、浅草であったレッサーパンダのコスプレをした男性(自閉症でした)が女子短大生を刺殺した事件(レッサーパンダ帽男殺人事件)の弁護なども担当しています。なおこの記事を書くまで私も知りませんでしたが、副島氏は2014年に亡くなっているとのことです。産経新聞の記事より。

>副島洋明弁護士、急性肺炎で死去 障害者関連の事件多く担当 

 副島洋明氏(そえじま・ひろあき=弁護士)9日、急性肺炎のため死去、68歳。葬儀・告別式は近親者で行う。喪主は妻、礼子(れいこ)さん。

 障害者が加害者や被害者になった事件を多く手がけ、平成13年に東京都台東区で起きた女子短大生刺殺事件、20年の千葉県東金市の女児殺害事件で弁護人を務めた。

ご冥福をお祈りいたします。なお、レッサーパンダ事件についての副島氏のコメントは、こちらの記事を参照してください。また副島氏のこちらの著書は私もだいぶ前に読みまして、非常に感銘を受けました。

知的障害者奪われた人権―虐待・差別の事件と弁護

それでは、副島論文の中で、私がいろいろ考えさせられたくだりを引用します。

>2 知的・発達障害者と貧困
私が携わる知的・発達障害者の刑事弁護では、親や家族がいてその家族から依頼を受ける私選弁護の事件と、親がいても貧しさから私選で依頼する資力がなかったり、そもそも支援してくれるような親や身近な人がおらず本来国選弁護になるべき事件を、重要な事件だと判断して自分から弁護人になって介入する事件とがあります。

前者の多くは身元引受人となる親・家族がいて、被害者対策でも示談交渉する資金の捻出ができるし、また学校や福祉・医療から支援される関係があったりする事件です。よほど重い前科があったり重大事件でない限り、本人に改善更正が期待できる環境のおかげで「悪い結果」は回避できます。

ところが後者の事件は、弁護のはじめから身元引受人どころか本人を支援するべき福祉などの関係者の「影」すらなく、努力して本人の生育史を調べ親・家族をみつけても、精神的支援すら期待することも難しく、本人の育った環境も虐待的生育環境であったりして、貧困と排除(孤立)の中で「社会性の障害」を重度化させてきた人たちも多く、警察や裁判所にも何回もお世話になっていたり前科がいくつもあったりします。後者の事件の人たちは、その生育環境の貧しさと「社会性の障害」からみて福祉が必要とされてきた人たちであるわけですが、福祉を受けてきた経験をもっていません。

今の福祉制度(療育手帳・障害者年金・さまざまな支援等)は、知的障害をもつ本人が自分の力で申請し取得できるような実態になく、「親」がわが子のために動くことによって取得できるものになっています。それも「力」のある親である程いい福祉に出会い選べる関係になっています。言うなれば、恵まれた環境の元にある人たちには福祉が与えられ、たとえ事件となっても支援があって有利に弁護されるのに対し、貧しい環境の下で育ち福祉に手が届かず底辺にいる人たちは、福祉だけでなく刑事弁護からも見捨てられているというのが現状といえます。

知的・発達障害者の事件といっても、その両者はそもそものところで社会的に違った事件の構造をもっています。後者の人たちが罪を犯した背景には、少なからず福祉など何らの支援もなかったことが大きく影響しているととらえています。貧困は、同じ知的・発達障害者であっても痛ましい程の差別をつくりだしているといえます。

ここで副島氏が述べていることは、この記事のタイトルにもあるように「そりゃそうでしょ」「あったりまえじゃん」ということでもあります。しかしこれも当然のことではあるにしても、なんとも困った、重大な問題であると思います。

私は以前にこんな記事を書きました。

行政その他の支援がなかったことが非常に悪い事態をもたらした大きな要因と思われる強盗殺人事件の実例

この記事自体は、新聞記事を引用したブログさんからさらに引用した記事ではありますが、なんともひどい事件だと思います。この記事ではあえて詳細な説明はしませんので、興味のある方はぜひ上のお読みになってください。

それでこの事件の犯人は、2人の老女を殺害して金を奪って逮捕、死刑判決を受けて確定しています。現在東京拘置所に拘置中です。記事から引用すれば

>逮捕時の簡易鑑定で中程度の知的障害とされ、20代のころの裁判では、刑事責任が減軽される心神耗弱と認められたこともあった。刑務所の知能テストでも小2以下の知的障害と診断された。だが、障害者福祉制度へつなぐ療育手帳を取得させた人はいない。両親は死別し、兄弟も障害のハンディを抱え、とても支援できる状況ではなかった。

とのことで、副島論文にいう

>弁護のはじめから身元引受人どころか本人を支援するべき福祉などの関係者の「影」すらなく、努力して本人の生育史を調べ親・家族をみつけても、精神的支援すら期待することも難しく、本人の育った環境も虐待的生育環境であったりして、貧困と排除(孤立)の中で「社会性の障害」を重度化させてきた人たちも多く、警察や裁判所にも何回もお世話になっていたり前科がいくつもあったりします。後者の事件の人たちは、その生育環境の貧しさと「社会性の障害」からみて福祉が必要とされてきた人たちであるわけですが、福祉を受けてきた経験をもっていません。

>貧しい環境の下で育ち福祉に手が届かず底辺にいる人たち

ということになるでしょう。それでこちらのサイトによると、地裁の判決では

>十分な矯正教育を受けたにもかかわらず、規範意識は著しく鈍く、犯罪性向はより深化している

と判示したとのことですが、どうなんですかね。実際に十分な矯正教育を受けたかどうかも怪しいような気がしますが、仮にされたとして、この死刑囚に通りいっぺん(でしょう、おそらく)の「矯正教育」なるものが有益だったのか。なにしろ死刑が確定するにもかかわらず

>事件からもうすぐ6年。アクリル板越しに見える藤崎死刑囚はぼんやりとした表情で、声は消え入りそうだ。再犯の理由を問うと、口ごもった後、唐突に「酒やめます」。死刑には「がっかり。借金返せなくなるから」と答えた。

などと拘置所で面会の記者に述べたくらいですから、はたしてこんな人物を死刑に処することが社会正義にそぐうのかすら疑わしい気がします。

が、ともかく、この人にまともな経済力と知的能力のある親がいれば、たぶんこの人は、こんな犯罪はしなかったのだろうなと思います。彼は死刑になる犯罪をした際は一人暮らしだったようですが、そもそもこの人に一人暮らしをするだけの能力があるかも怪しいし、また彼が強盗殺人を犯したのはスナックのつけを払うためでしたが、彼は奪った金を事件直後の早朝にスナックのママの自宅へ行って金を払っています。そこまでひどい状態の人間だということです。

さすがに2人も強盗殺人で殺める障害者というのもそうはいませんが、けっきょくどこかで何らかの支援が得られていればたぶんここまでひどい事態にはならなかったはずで、そういった支援は、当然裕福な家庭、知的能力のある親がいる家庭が圧倒的に有利です。日本の社会というのは、たとえば福祉だけでなく税金などでもいろいろと弱者保護の制度があるのですが、それは税務署に聞くなり自分で研究しないとそれらを活用できません。そしてそれらを活用できるのは、さまざまな意味での強者です。上の死刑囚やその家族のような弱者では難しいものがあります。

こういうことは、ある意味当然の帰結ではありますが、実によろしくないことですね。あまりに落差が激しすぎる。昔と比べれば、たしかにこのようなこともNPOなりなんなりの支援というのも充実してきているのでしょうが、とてもとてもまだまだ不十分でしょう。そしてその極端な帰結が、記事にした死刑囚のようなものです。サイコパスの犯罪者というわけでもなくても、このような想像を絶するひどい事件を犯してしまった。そしてそれは、たぶん何らかの支援があれば防ぐことは可能だったと思うのです。しかしそれをどう支援するか・・・。本当に難しいと思います。

なお、障害者の犯罪という点では、こちらの本も必読ですので、ご興味があればぜひどうぞ。

累犯障害者


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