報道された記事を。
>香港国家安全維持法案可決 中国全人代常務委 香港メディア6月30日 14時55分
香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法案」が、中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会で可決されたと香港の複数のメディアが伝えました。香港は1日、中国への返還から23年の記念日となりますが、これにあわせて施行される可能性が高く、香港の高度な自治を認めた「一国二制度」を完全に形骸化させるとして懸念が広がっています。
香港の複数のメディアは30日、北京で開かれた全人代の常務委員会で香港国家安全維持法案の採決が行われ、全会一致で可決されたと伝えました。
「香港国家安全維持法」は、香港に中国の治安機関を設けることを定めるとともに、▼国の分裂や▼政権の転覆▼外国の勢力と結託して、国家の安全に危害を加える行為などを規定し、犯罪として刑事責任を問うものです。
この法律は、香港の憲法にあたる香港基本法の付属文書に追加され、香港政府が公布することになっています。
香港は1日、中国への返還から23年の記念日となりますが、これにあわせて施行される可能性が高まっています。
この法律が施行されれば、香港では、中国共産党や政府に批判的な政治活動や言論活動は、事実上、封じ込められることになります。
香港は、中国に返還されて以来、「一国二制度」のもと高度な自治が認められてきましたが、今回の法律はこの制度を完全に形骸化させるとして懸念が広がっています。
(以下略)
この件に関して、いろいろ考えるところが誰しもあるでしょうが、私とすると、タイトル通り、香港の相対的地位の低下とそれに付随する利用価値の低減が、この問題の本質だなと思います。この件については、inti-solさんがわかりやすく記事を書いてくださっています。
なおタイトルの「いかれている」というのは、米国のトランプ大統領の対応のことです。
ここで、中華人民共和国と香港のGDPの推移、および1人当たりのGDPの推移のグラフをお見せします。ついでに日本の数字の推移をもお見せします。USドルによる名目GDPです。「世界経済のネタ帳」さんから作成しました。
リンクはこちらになります。また、下に、数字を記した表のスクリーンショットを掲載します。
こちらも「世界経済のネタ帳」さんから作成した表です。ほんと、私も日々勉強させていただいているすばらしいサイトです。リンクはこちら。
それにしても大陸中国は当然としても、ほんと香港の経済成長もすごいですね。1980年から1995年くらいまでは、ほぼ日本の半分強の1人当たりの名目GDPの値でしたが、2014年に逆転、2019年は推計値ですが、1万US$弱の差がついています。なにしろこの40年で、日本は4倍弱増えていますが、香港は8倍をはるかに超える額ですからね。しかし中国にいたっては・・・?
英国は、1949年に共産党政権が大陸に誕生した際、早急にそれを承認しました。これは、いわゆる西側の主要国のなかでは初めてです。
いまだに産経新聞などは、このことをけしからんとか繰り言を並べていますが(苦笑)、が、これは現在からすればむしろ先見の明があったんじゃないんですかね。どっちみち米国が1979年に国交を樹立したことで、最終的に決着がついたんだから。こちらの産経の田村秀男記者の記事も参考になるので乞うご一読。
で、この時英国が共産中国を承認した背景には、1つには蒋介石とさほどつきあいのないアトリー労働党政権だったこと、あともう1つが香港の存在であろうかと思います。
実際、香港は、大陸の覇権を共産党政権が握ったことで、最悪武力接収される可能性がありました。されたらどうしようもないわけで、英国側としては大陸の共産中国といい関係であり続けるのは当然というものでしょう。
余談ではありますが、この考えは、日本の対北朝鮮との対応にも応用できますね。一部の反北朝鮮の人間は、やれ北朝鮮とはいろんなことが違いすぎるとかいろいろなことをほざきますが、そんなことは最終的にはどうでもいい話です。たとえば北朝鮮から日本人拉致被害者を返してもらうために一番有効だったのは、北朝鮮への経済支援の約束でした。それをしたら、そんなに時間がかからず北朝鮮から拉致被害者が帰ってきたわけです。逆に制裁だ圧力だなんていくらほざいたところで、それに固執してたらたぶん今日でも拉致被害者の帰国なんてものはない。北朝鮮だって日本人拉致を認めないでしょう。
それで上の表を再確認しますと、名目GDPでは、中国は1980年→2019年(推計値)で、おおよそ46.3倍増えています。日本はおおよそ4.7倍弱、香港はだいたい12.9倍です。香港の発展もすごいなあです。
1人当たりの名目GDPでは、中国がおおよそ32.6倍、日本がおおよそ4.3倍、香港がだいたい8.7倍です。
日本と比べて香港の経済成長がすごく、もちろん中国の経済成長についてはそれをはるかに上回るというところですが、当然ながらこれは、大陸と香港との経済格差が縮小する過程でもありました。
中国は、やろうとすればやれた香港の武力接収を行いませんでした。その理由はいろいろありますが、大きなものが、香港を貿易の窓口とすることです。つまりは、周恩来や鄧小平といった人たちは、武力接収するよりおも対外的イメージや貿易の窓口として香港を活用するのが有利であると認識していたわけです。このあたりの判断はさすがですね。大躍進とか文革とかの負の歴史も多々ありますが、このような問題に関しては、inti-solさんもご指摘のようにさすがに
>そういう面の長期的計算は長けているなと思います。
ということでしょう。またinti-solさんは、香港を武力接収しなかったことと、台湾を武力解放しなかったこととは共通する部分があるのではないかとも指摘されています。たぶんそれはそうでしょうね。
それでやはりこれもinti-solさんのご指摘ですが、中国はきわめて地方による貧富の差が激しいので、平均ではなく沿岸部の豊かな地域と比較すれば、香港との差はますます縮まります。
そして、中国にとっては、冷戦時代などは特に、香港は情報収集やスパイ活動、工作活動の本場、あるいは前線基地として最適でした。もちろんこれは、中国をスパイする側にとっても同様です。佐藤栄作は、政権最末期中国との国交を回復しようと考えて、中国側と配下の交渉人と接触させまし得た。この時も、もっぱら香港で接触が行われています。香港は、こと対中国との活動をするうえで、きわめて重要かつ有用な場所でした。詳細については、下の本をご参照ください。ものすごく面白い本です。
2020年の今日、もはや経済的に中国が香港を優遇する意味合いが乏しくなり、また冷戦の終結や時代の変化により、昔のような意味合いで香港で諜報活動が行われるわけでもない。つまりは、もう中国にとって香港は、たくさんある都市の1つくらいの地位しかないのでしょう。もちろんさまざまな意味で別格の都市ではありますが、サッチャーと協定を結んだ時代や返還のあった80年代や90年代の前世紀と比べれば、比較の対象にもならないわけです。
だいたい上で示したように、香港は昨今たいへん高い経済成長を成し遂げていますが、これはもうすでに中国のおかげであるわけです。かつてはたしかに香港が中国経済を助け、場合によっては引っ張っていったこともあったとしても、現在は中国のおかげで繁栄を謳歌しているといっていいわけです。これも冷厳な事実でしょう。
で、香港の相対的な地位の地盤沈下については、中国に詳しい識者の方もいろいろ指摘していると思います。私が読んだのは、慶應義塾大学経済学部教授、京都大学名誉教授の大西広氏のこちらの本です。
いずれにせよ今回の事態は、なるべくしてなったのだろうなと思います。中国が経済大国化すれば、香港への特別扱いが衰退するのは時間の問題、やっぱりこうなった、という程度のことでしかなかったのでしょう。
なおこの記事は、inti-solさんの記事を参考にしました。感謝を申し上げます。