最近公開されているこちらの映画を観にいきました。
つまりIS(イスラム国 ISIL)に身柄を拘束されたデンマーク人の男性(フリーカメラマン)が、なんとかかんとか身柄を釈放されるまでの経緯を、身代金集めに奔走する家族や、人質解放のために動く業者(仲介者)の姿とともに映し出している映画です。
なかなか内容もハードだし、娯楽作品としても面白く観ることができました。読者の皆様にもおすすめです。ぜひどうぞ。
さてさて、この映画で描かれている1つのポイントは、男性が国籍を有するデンマークの政府が、身代金を支払うことを拒否したということです。しょうがないから、家族は自宅を抵当に入れたり関係者に頼み込んだり寄付を募ったり、最後は金持ちに頼むなどして、なんとか金を用意します。そしてその金を上にも書いた仲介者が先方に渡して、それで最終的にデンマーク人男性は解放されたわけです。
もうISによる外国人拉致やその殺害というのも数年前の話になり、私もやや記憶が遠くなっているところがあるので、地元の図書館で本を探しました。それで2冊借りました。
2冊目はこの映画の原作です。この本は、現在読んでいる途中なのでまだ論評できませんので、1冊目について取り上げます。この本では、2014年に身柄拘束されて15年に殺害された湯川遥菜氏と後藤健二氏の解放について日本政府がどのように動いたか(そしてどのような過程で最終的にそれに失敗したか)について記されています。
それでこの本を読んでいてつくづく感じたのが、日本政府がIS側に身代金は払わないなんていう態度をとった時点で、この2人が助かる可能性はなかったなということです。もともと彼らに対するも身代金の額(2億ドル)も法外なものであったし、期限(72時間)も限られていたのでどっちみち彼らの運命はきわめて過酷なものになるということは予想されていましたが、しかし政府なり自前なりでなんとか金を用意できた人たちは解放されたわけです。映画にも出てきますが、米軍が監禁場所を強襲して人質救出を試みたりもしましたが、これも失敗に終わっています。そして映画にも出てくるジェームズ・フォーリー氏ら米国人や英国人、日本人(つまり政府が金を出してくれない国)の人質たちは、処刑されてしまったわけです。
人質らの「自己責任」の問題はこの際問わないとして、けっきょく助かった人と殺された人とを分ける分岐点は、金が支払われたかどうかです。「政府が金を出すかどうか」ということの妥当性の議論はともかくとして、金の支払いがなければ、人質たちは殺されたわけです。
そしてこのブログの大きなテーマである北朝鮮・拉致問題についてこれをあてはめてみますと、これも全く同じですね。北朝鮮が日本に拉致被害者を返したのは、日本が拉致被害者を返すこととバーターで、国交樹立と経済援助を申し出たからです。そういった話を拉致被害者家族や反北朝鮮の連中は絶対認めませんが、連中が主張する北朝鮮への圧力の結果なんて話には何の論拠もありません。「なにがなんであろうが北朝鮮には絶対援助なんかしたくない」なんてことを主張するのであれば、「そうですか。じゃあ拉致被害者なんて絶対帰ってこないですね」というだけの話です。要は、金をだせば拉致被害者や人質も、帰ってくる可能性があるということです。そういう時に「泥棒に追い銭だ」とか下らんことをほざいていては、帰ってくる人も帰ってこれません。毒をもって毒を制すじゃないですが、しょせんこんなことはきれいごとで解決するものではない。巣食う会の連中が主張する自衛隊で拉致被害者を救出するなんて与太は、
馬鹿も休み休みいえ
デタラメほざくのもいいかげんにしろ
噓八百にもほどがある
というものです。愚劣にもほどがある。そんなことを可能とする軍事作戦なんか不可能です。
上の本の中でも、識者が大要「身代金の支払いをした国の人質が解放されている」という趣旨のことを述べています(たとえばp.201、p.210)。当たり前でしょう。そういう話をするといろいろなご意見はあるでしょうが、身代金を払ってくれない国の政府は、事実上自国の人質を見捨てているのと同じです。そう考えると、米国とか英国とか日本とかデンマークほかの国籍の人は、中東では人質にはならないほうがよさそうです。なかなか生きて帰れそうにない。しかし北朝鮮に関しては、何はともあれそういう話をしてくれたのですから、このあたりは日本政府も捨てたものではないなと思います。最近不祥事を起こしてなにかと評判の悪い森喜朗氏も、伝わるところでは北朝鮮に、第三国で拉致被害者が発見されるという方式はどうだというような打診をしたそうですから、そういう点では、(元)子分の安倍晋三みたいに口先だけの人間よりは、はるかにまともなことをしたのだと思います。
そう考えると、いいかげん拉致被害者家族も、対価を北朝鮮に出すべきでないといった考えを放棄すべきです。強硬策(?)で解決するのならいいけど、そんなのまったく見込みがないのだから、違う方法へアプローチしないといけません。日本だって過去キルギスの人質事件や若王子事件などこういった事件でも金は動いています。ただたとえばキルギスの事件などは差しさわりがあるのでそういったことが大っぴらには言われていないだけです。
映画では、青年の家族が身代金集めに必死の姿が描かれています。またデンマーク政府に、身代金を何とかしてくれないかと家族が頼み込むシーンもあります。それは身内を助けるためなら当然の姿でしょう。で、日本の拉致被害者家族はどうですかね。政府が平壌に日本の連絡事務所を置くことすら否定的な態度です。こんな奇怪で馬鹿な話はない。こんな態度では、まさにいつまでたっても拉致問題なんか解決するわけがありません。同じようなことを何回でも書きますように、実に無様で無残な光景です。