まずは、こちらの記事を。
>富山市の交番襲撃事件 元自衛官に無期懲役の判決 富山地裁
2021年3月5日 16時18分
3年前、富山市の交番で警察官を殺害して拳銃を奪ったうえ、近くにいた警備員を殺害したとして、強盗殺人や殺人などの罪に問われた元自衛官に対し、富山地方裁判所は強盗殺人罪は成立せず「計画性が高いとは言えない」などとして、死刑の求刑に対し、無期懲役の判決を言い渡しました。
元自衛官の島津慧大被告(24)は平成30年6月、富山市の交番で当時、警部補だった稲泉健一さん(46)をナイフで刺して殺害して拳銃を奪ったうえ、近くの小学校の校門前にいた警備員の中村信一さん(68)を、その拳銃で撃って殺害したとして、強盗殺人や殺人などの罪に問われました。
これまでの裁判員裁判で、検察が死刑を求刑したのに対して弁護側は「警察官が倒れたあとに拳銃をとる意思が生まれた。強盗殺人ではなく、殺人と窃盗の罪にあたる」などとして、無期懲役が妥当だと主張していました。
5日の判決で、富山地方裁判所の大村泰平裁判長は「警察官を殺害後に拳銃を取る意思が生じた可能性を排除できず、被告が拳銃を奪う意思を持って殺害行為に及んだと認定するには合理的な疑いが残る」として、強盗殺人ではなく殺人と窃盗の罪にあたると判断しました。
そのうえで「被告の責任は極めて重大で社会的影響も大きいが、犯行の動機が生まれた過程に発達障害の影響があることは明らかで、一定の限度で被告に有利に考慮することが相当だ。計画性が高いとは言えず、死刑を選択することがやむをえないとは言えない」と述べ、無期懲役を言い渡しました。
これまでの裁判で島津被告は一貫して沈黙していて、5日の判決の言い渡しを落ち着いた様子で聞いていました。
検察「上級庁など協議し対応検討」
判決について、富山地方検察庁の西岡剛次席検事は「判決内容を精査し、上級庁などと協議したうえで対応を検討したい」とコメントしています。
弁護士「適切な事実認定、量刑だ」
島津被告の弁護士は、判決のあとコメントを発表し「強盗殺人罪の成立を否定し、殺人罪と窃盗罪の成立を認めたことについては、証拠を正しく評価した適切な事実認定だ」としました。
そのうえで「発達障害が事件に影響を与えたと認められたことは評価できる。無期懲役は適切な量刑だ」としています。
(後略)
以下、遺族と、地域の町内会長(自治振興会)の方の談話がありますが、それは省略します。
私個人は、この事件は死刑判決になるのかなと思っていました。警官を殺して銃を奪い、それで警備員を射殺しては、死刑の可能性が高いかと思います。が、無期懲役判決でした。
検察が控訴するのかもですのでこれで確定するわけでもないかもですが、この判決は、日本の司法が相当死刑判決に慎重になっていることの表れかと思います。あるいはもしかしたら、この判決が死刑を下す際に、いろいろ指標となる先例になるのかもという気もします。
それで2019年から今日まで、日本で地裁、高裁、最高裁で、いくつ死刑判決が出ているのかなと思いました。
調べたところ、最高裁では2019年から5件、高裁では3件、地裁では6件死刑判決が下されています。2019年から死刑が確定した人は9人います。最高裁で確定した5人以外に、地裁の判決で確定した人が3人、高裁で確定した人が1人です。
それでどういう犯罪を犯した人たちが死刑判決を受けているかというと、2019年以降に地裁で死刑判決を受けた人物では、相模原障害者施設殺傷事件、座間市アパート9人殺害事件、姫路連続監禁殺人事件、警官妻子3人殺害事件、日置市男女5人殺害事件の5件であり、これらの事件では、最低でも3人の人が殺されています。最近では、このレベルの事件でないと死刑判決にはならないようです。
それでこうしてみると、どうも最近の裁判所は、ずばりシリアルキラーレベルの人間でないと最大限死刑判決を避けているように感じますね。それでまた、熊谷のペルー人による大量殺人事件や、淡路島の大量殺人などでも、精神障害を理由として高裁が地裁の判決を破棄して無期懲役に減刑しています(確定済み)。
なにかで私が読んだ話によると、日本の裁判官は、裁判員制度が施行されたら日本の死刑判決は減るのではないかと予想していたのですが、あにはからんや増えたので、これはまずいとして昨今は死刑判決が減っているそうです。重罰大好き人間はそういうことに不満があるのでしょうが、ともかく現状はそういうことのようです。
そうなると最近の死刑求刑で1審無期の事件、たとえば新潟や千葉での児童への性犯罪を伴う殺人事件なども、これでは死刑にするには不足という考えで裁判所はいる、という認識でいいのかなです。なお、上の2事件は控訴審にうつっているので、高裁で死刑になる可能性はあります。21世紀になってから児童への性犯罪を伴う殺人(被害者1人)で死刑が確定して執行された人物に、奈良の小林薫の事件がありますが(2006年に死刑確定、13年に執行)、彼が死刑になった理由としては、彼に児童への性犯罪の前歴があり、また脅しのメールを被害者家族に送信するなどきわめて情状が悪かったことが大きな要因だったと思います。同じく1人の殺人であった神戸長田区小1女児殺害事件は1審死刑でしたが控訴審で無期に減刑、検察は上告しましたが無期で確定、広島小1女児殺害事件では、被告人の母国であるペルーで性犯罪の前歴があったようですが(指名手配中)、推定無罪の原則で前科が証明されずに初犯扱いとなったことが、求刑死刑でしたが無期懲役判決になった大きな事情となりました。もっとも小倉での女児殺人事件では、犯人には前歴があったようですが、裁判所では
>1審福岡地裁小倉支部の裁判員裁判判決は殺意を認めた上で「同種事案で突出した残虐性があるとまでは言えない」として、無期懲役を言い渡した。
というわけでした。想像ですが、この事件では、やはり裁判所も死刑判決を出さないように配慮したのかもですね。
これはまた後で記事を書きますが、どうも死刑制度というのも、世界的にみて相当ガラパゴス的なものになってきていますね。最近こんなニュースがありました。
>米バージニア州が死刑制度廃止 南部で初 人種間不平等に反対高まる
2021年2月23日 20時23分
【ニューヨーク=杉藤貴浩】米南部バージニア州議会は22日、死刑制度を廃止する法案を可決した。ノーサム知事は法案に署名し、発効する予定。米メディアによると、全米で23番目、南部では初の死刑廃止州となる。連邦レベルではバイデン政権が廃止を目指しており、他の保守的な州の動向も注目される。
バージニア州では、冤罪の可能性や制度維持のためのコストに加え、執行の対象が黒人など人種的少数派に偏っていることから死刑制度への反対が強まっていた。米公共ラジオNPRによると、同州の黒人人口は約2割だが、死刑全体のおよそ半分が黒人に対し執行されたという。
ノーサム知事と州上下院議長は共同声明で「刑事司法制度は公正で平等に罰を与えることが重要だが、死刑はそのように機能しない。不公平で効果がなく、非人道的だ」と表明した。
米民間団体「死刑情報センター」によると、バージニア州は米独立前の植民地時代から最も多くの死刑を実施した州で、約1400人に執行した。
米国では連邦レベルの死刑制度が存続しており、トランプ前大統領は昨年7月に執行を再開し、退任までに13人を処刑。政権移行期の強行と執行時の関係者に新型コロナウイルス感染が広がったことに批判が集まった。バイデン大統領は死刑反対を表明しており、人権擁護団体など約80組織が今月、廃止に向けた迅速な取り組みを求める書簡をバイデン氏に送った。
Wikipediaアメリカ合衆国における死刑によると、ヴァージニア州は2017年での死刑執行が最後、90年代後半はかなり死刑の執行も多かったのですが、南部の死刑廃止州は初ということです。テキサス州など、死刑執行が再開した1976年以降で実に570人もの死刑を執行しているまさに先進国では最高レベルに死刑執行数の多いところですが、2015年までは二けたの執行数を維持していましたが、16年からは、18年が13人の執行数でしたが、ほかは一桁の執行数であり、20年は3人という数で、これは1996年以来の少なさです。昨年の執行数の少なさは、コロナウイルスの関係でしょうが、テキサス州ですら執行数が減っているのは注目すべきです。
そう考えると、日本でも、2004年から2012年までは、2010年をのぞいて二けたの死刑確定囚が出ていたし、2008年と2018年は15名が執行されましたが、2014年から16年、19年は3名の執行、17年は4名、20年は執行なしでしたので、裁判所ばかりでなく死刑を執行する法務省(検察)も、あまりたくさんの執行をすることは控える傾向には来ていると思います。08年の執行の多さは、鳩山邦夫法相が執行を進めたため、18年はオウム真理教関連の死刑囚が執行されたためです。
現在(この記事執筆時点)で、日本の拘置所で死刑判決を受けて控訴、あるいは上告している人物は、合計6名です。最高裁係属中が2名、高裁が4名です。これも、いままであまりない少なさだと思います。もちろん例の京都アニメーションの事件のように、裁判になったらかなり厳しい判決が予想される人物もいます。
いずれにせよ米国や日本のように、死刑を維持している国も、徐々に死刑判決や執行をしにくくなってきているのではないかと思いますが、もちろんこれもこのままというものではないかもしれません。これからも私なりに推移を見守っていきます。なおこの記事のデータは、「犯罪の世界を漂う」さんから多くをいただきました。感謝を申し上げます。