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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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羽生善治といえども、50歳の壁は非常に厳しいということだ

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時たま書く将棋関係の記事を。産経新聞より。

>藤井、史上最年少で4冠目 竜王戦で豊島破る
2021/11/13 18:42
中島 高幸

将棋の藤井聡太三冠(19)=棋聖・王位・叡王=は12、13の両日、山口県宇部市で行われた第34期竜王戦七番勝負(読売新聞社主催)の第4局で、先手の豊島将之竜王(31)を破り、開幕から4連勝で4冠目の竜王を獲得した。

4つのタイトルを同時に保持する四冠の誕

生は28年ぶりで、史上6人目の快挙。19歳3カ月の達成は史上最年少で、羽生善治九段(51)が平成5年7月に記録した22歳9カ月を大幅に更新した。

ストレートで敗れ防衛に失敗した豊島前竜王は無冠となり、八大タイトルを4人で占めていた4強時代は1年3カ月で幕を閉じた。10代で現役棋士の事実上のトップに立った藤井四冠、渡辺明三冠(37)=名人・棋王・王将=と永瀬拓矢王座(29)の3人でタイトルを保持する。

藤井四冠は今夏、「第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」(産経新聞社主催)で挑戦者の渡辺三冠を破り、18歳11カ月でタイトル初防衛と九段昇段を達成した。

続く王位戦七番勝負と叡王戦五番勝負、竜王戦七番勝負はいずれも豊島前竜王と対戦。王位戦前、藤井四冠は対戦成績で豊島前竜王に圧倒されていたが、「十九番勝負」を勝ち切った。

記事にもあるように、羽生善治より3歳半若くして藤井聡太は4冠になったわけでこれはすごいですね。プロの将棋指しの場合、22歳9か月くらいでしたらそれから実力が上がるというものでもないと思いますが、20歳前でしたらまだ上がると思うので、これは藤井という人物はかなり末恐ろしいですね。私としてもここは注目したいところです。

ところで、この記事の下に、次のような記事があります。

藤井が最年少4冠 羽生九段「これからも楽しみ」

記事の内容は、羽生や藤井の師匠の杉本昌隆、将棋連盟会長の佐藤康光らの談話を紹介するものですが、羽生のものを引用します。

>羽生善治九段「これからも楽しみ」
今回の竜王戦のシリーズは序盤の深い分析、中盤の細かい駆け引き、終盤の鋭い切れ味と実に高度な内容の対局が続きタイトル獲得にふさわしい内容のシリーズでした。これからもどんな将棋を指すか楽しみにしています。

羽生も、自分が他人の将棋を「楽しみ」なんていうのははなはだ心外でしょうが、彼もそういう立場になったということです。前に私は、次のような記事を書きました。2018年12月、羽生が無冠になった際に書いた記事です。

これも時代の曲がり角なのかも(将棋の羽生善治が無冠になったことについて)

その記事の中で私は、

>もちろん上の記事にもあるように、このまま羽生が黙っているということもないかと思います。これで彼が二度とタイトルを取れないとも思わない。しかし彼もあと2年後で50歳です。前に引用した中原の発言、

>>大山康晴先生も私も、50歳を過ぎるととたんに苦しくなりました。

というセリフを打破できるか、例外になれるか、私もこれから羽生の動向を見守っていきたいと思います。

と書きました。上の中原誠の言葉は、谷川浩司が将棋順位戦のA級からB1級に落ちた際のものです。「上の記事」というのは、羽生善治「27年ぶり無冠」の衝撃 新世代のチャンピオンは誰だ?という記事で、筆者の相崎修司氏が、

>もちろん、羽生だって黙ってはいまい。大山は二度目の無冠転落後もさらに11期のタイトルを積み重ねた。なかでも56歳で王将を奪取し、最優秀棋士賞を受賞というのは晩年の大山の実績でも白眉だろう。王将のタイトルは58歳まで防衛を続けた。羽生によってその再現があってもおかしくない。

と書いたのを受けたものです。

当時の私は、羽生は別格だから、さすがにまもなくまたタイトルを取るし、50を過ぎても強いんじゃないのと考えていました。が、今年の7月に次のような記事を書くこととなります。

羽生善治ですら、50歳くらいになるとなかなかタイトルを取るのが難しくなるということだろう

その記事の中で私は、

>それにしても天才・羽生ですら50歳を過ぎてタイトルにかかわるのはとても厳しいというのは、やはり考えさせられますね。昔と比べればプロの将棋指しのレベルも格段に上がっているし、将棋に対する姿勢も現在の棋士の方がはるかにシビアです。そういう点で50歳でタイトル戦に挑戦した羽生はそれだけでもすごいですが、タイトル奪取というとまた次元が違いますからね。その厳しさはさらに上がります。

と書いたわけです。

それでこの記事を書いているのが、2021年11月22日でして、その時点での羽生の成績を確認しますと、あまり良いとは言えません。22戦して8勝14敗です。勝率36.36 %で、ちょっとこれが羽生の成績とは残念ですね。いや、私は羽生のファンというわけでもないのですが、やはり世代交代の象徴ということになるわけです。

それで羽生は、現在将棋の順位戦A級を戦っています。いわゆる「名人」というタイトルは、このA級で勝ち上がってそして挑戦権を得ます。C2 級→C1級→B2級→B1級→A級となり、あらゆる将棋棋士は、C2級からスタートし、1年ごとに昇級、降級、級の維持を争います。飛び級はないので、これは平等にステップアップするしかありません。藤井は、毎年昇級し、現在B1級です。現在7勝1敗ですので、たぶん2022年度はA級で指すことになるでしょう。そしてそのまま名人に挑戦する可能性もあります。谷川や羽生は、そうやって名人位を奪取したわけです。

そして今年の羽生の勝敗の状況はというと・・・。こちらのスクリーンショットです。

A級順位戦は、2人降級して、順位2~8が前年の順位、9位と10位がB1級から上がってきた新人、1位が、前年1位かあるいは名人から落位した人です。勝ち負け同数の場合は、名人挑戦は決定戦を行い、2位から8位は、前年の順番です。特に降級の可能性がある場合、順位が下だと同数でその棋士が降級する可能性があります。羽生は8位なので、昨年の残留組では最下位でした。とすると今年は、かなり残留は条件が厳しくなります。そして現在羽生は、10位の山崎隆之と並んで最下位です。

5戦目まで進んで1勝4敗ですから、残り4戦をイーヴンの2勝2敗でもかなり厳しいですね。3勝1敗が最低、4勝すれば大丈夫でしょうが、しかし今年は大丈夫でも来年はさらに厳しいのではないか。正直現在の状況では、他のA級棋士は、今度は羽生さんだから勝たなきゃ、といった心理ではないか。最下位の山崎も、残り4人で一番勝てる可能性がある棋士は羽生だという認識でしょう。

個人的な意見を申し上げますと、今年の羽生は、A級を降級する可能性が現段階半分以上だと私は考えています。次の山崎戦がまさに最大の勝負になりましたね。これで負けたらほぼ羽生の降級は確実でしょう。山崎も、降級の可能性がきわめて強いとはいえ、まさに棋士人生をかけるすごい戦いを仕掛けるはず。いずれにせよ双方ともども死に物狂いの将棋となるでしょう。

勝負の結果はどうなるかわかりませんが、それで思うに、やっぱり羽生といえども50歳の壁はものすごく高いですね。年度の途中とはいえ4割をはるかに下回る勝率しか上げられず、順位戦も、A級で最下位の成績で、しかも前年も残留者としては最下位です。

正直私は、こんなに早く羽生がこんな苦しい成績になるとは思っていませんでした。それは上の引用にも書いていますが、彼が順位戦でA級から降級になるかならないかなんていう段階になるのは、悪くても何年も経ってからと考えていたわけです。が、無冠になってから3年後には、このような状況です。1970年生まれで今年51歳の彼は、もう非常に厳しい状況になりましたね。やはり中原誠が言うように、

>大山康晴先生も私も、50歳を過ぎるととたんに苦しくなりました。

ということは、羽生も例外ではありませんでした。

そうなると藤井もどうなんですかね。藤井が50歳になるのは31年後の2052年です。その時まで藤井は将棋を指しているのか、次なるポスト藤井の棋士の存在はとか、いろいろ考えさせられます。羽生がダメだったのだから藤井も50歳になったら厳しいのではないかと思いますが、どうなるかはもちろんわからない。

仮に今年羽生が落ちて藤井が上がったら、残念ながら順位戦での藤井と羽生の戦いは実現しないこととなります。羽生が残留するか藤井が昇級できないかで実現する可能性はありますが、ともかくこれはこれでエポック・メイキングなことになりそうです。実現しなければ世代交代の象徴になるし、特にA級で藤井と羽生の順位戦が実現したら、たぶん藤井が勝つ可能性が高いでしょうが、これも世代交代とはこのことだという瞬間を私たちは観ることになるのだろうと思います。

ところでこれは単なる偶然ですが、先日なんてこともなくネットの記事を読んでいたら、羽生が七冠を達成した際の対局会場であった「マリンピアくろい」というところがすでに閉鎖されていたことを知りました。Wikipediaによると、羽生が七冠を達成した96年の翌年の97年ごろに閉鎖されたとのこと。現在は、下のような碑があるとのことです。写真の出典は、こちらこちら

地元の漁協が出資していた施設とのことで、どうも慢性的に赤字が続いていたということですが、それにしたって将棋のタイトル戦の会場を誘致するくらいの力はある施設だったわけです。それが撤去されてこのような碑がのこる。碑が残っているだけまだましでしょうが、まさに古の言葉を思い出してしまいました。「つわものどもが夢の跡」。

今年で四半世紀前の話ですから、それはもう過去の話ですが、やはり当時のことを想うといろいろ感慨深いものはあります。


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