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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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映画の話ばかりでなく、戦争によって人生が根本的に変わったということも多かったのだなと改めて思う

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あゝ声なき友

過日、渥美清企画・主演で今井正監督作品である『あゝ声なき友』という映画を観ました。1972年の映画です。渥美は、この映画の原作(有馬頼義「遺書配達人」)を読んで感銘を受け、自分で「渥美清プロダクション」を設立して松竹と提携してこの映画を製作したくらい彼自身気合の入った映画のようです。

なお以下複数の映画のネタバレがありますが、それを書かないと記事になりませんので乞うご容赦。Wikipediaからストーリーを引用しますと、

>終戦後、病気入院していたため、部隊で一人生き残った西山民次は、戦友12人の遺書を抱き日本へ帰国した。家族全員原爆で死亡し、身寄りの無くなった西山は、なんとか食い繋ぎながら、12通の遺書を配達するべく旅に出る。そして、行く先々で西山が見たものは、生々しい戦争の傷跡だった。

と、あっさりとした記載ですが、より詳細に、映画.comから。

>終戦--病気で入院していたため、全滅した分隊中ひとり生き残った西山民次は、戦友十二名の遺書を抱いて日本へ帰還した。家族は原爆で死亡。身よりのなくなった民次は、東京で知りあった、同じ担ぎ屋仲間で夜は躯を売っている、花子という女と同棲した。ところがある日女が失踪した。彼女は、民次が探していた戦友島方の妻静代で、身を恥じて逃げ出したのだ。翌年、民次が友人辰一と始めた、進駐軍残飯のごった煮屋は大繁昌。辰一は、板前である民次を頼りにするが、民次はそれより遺書配達に、熱中するのだった。最初に訪ねた鹿児島の西野入国臣は元内務大臣の戦犯として巣鴨から出所したばかりで、息子国夫の手紙に「戦争で若者が死に、老人が生き残ることは許せぬ。お父さんを憎む。」とあるのを見て嗚咽する。戦友上辻の姉美喜は、弟と約束した待合せ場所の博多駅から、恋人を失っても離れようとはしなかった。松本分隊長の父友清は、息子二人が戦死したことを涙ながらに民次に告げるのだった。小樽の戦友西賀の妻紀子は東京空襲で発狂しており、遺書を見てもなんの反応も見せなかった。市原兵長の弟礼の場合は最も悲惨だった。引きとってくれた家での虐待を怒り一家を惨殺、死刑になっていたのだ。米沢で無駄足をふんだ民次は、旅館で女あんまを頼んだがこの女が米沢で探しあぐねた、町よしのとは知るよしもなかった。帰京した民次は静代が病院で瀕死の状態だと知らされた。静代は、民次に夫のやさしい遺書を読んで貰いながら息絶えるのだった。戦友木内の妻千恵子は、木内の戦友でひと足先に除隊していた八木隆弘と再婚して、幸福な生活を送っていた。ところが、木内がまだ生存していた頃に、八木は千恵子に横恋慕し、木内が死んだと偽装していたのである。民次は八木を殴打するが、しかし八木の千恵子に対する愛が、真実なのを知り許すのだった。板前に戻る気になった民次は、辰一の世話でスポンサーの国本に紹介してもらう。ところが、料亭に招かれた席上、国本のお目当の芸者の花番が戦友吉成の遺書の宛名の黒沢桃子と判ったが、花香は、戦争中ほんの子供であり何の感動もみせず、かえって二人の仲を誤解した国本は、民次に店を持たす話を取り消してしまった。ふたたび民次は遺書配達を開始する。百瀬の家を尋ねた民次は、戦死した筈の本人が現われ驚く。百瀬は召集兵であり、年の功で生還できたのである。二人は酒を飲みかわす、が、百瀬は、八年間遺書の配達に熱中した民次を罵しる。しかし、そんな百瀬にも戦争の傷跡はあった。妻に裏切られ、パンパン崩れの女と再婚しており、「忘れてしまえ、その方がずっと楽だ……遺書なんか焼いてしまえ!」と怒鳴り、テーブルに突っ伏しながら、妖しく目を光らせるのだった。

・・・と、ストーリーを引用していると、あれ、これどっかで同じような映画を観たなあと思い出します。似たような映画はたくさんあるのでしょうが、有名どころがこちらですかね。

ひまわり HDニューマスター版

ひまわり』も、戦争で行方不明になったマルチェロ・マストロヤンニの夫を探しに行ったソフィア・ローレンの奥さんが、はるばる旧ソ連へ向かい、なんとか再会を果たしますが、すでに(元)夫は、新しい家庭を持っていたというものでした。

戦争で、戦死あるいは戦傷、もしくは生死はともかく所在が分からなくなった人間がいますと、もちろんそのご当人が一番悲惨ですが(とりあえず「侵略戦争かどうか」といった議論はなしにしておきます)、周囲にも多大な影響が出ます。そしてそれを解消するために過去をほじくっていくと、いつのまにやら相手側はすでに人生の次のステージに入っていて、自分の行動に先方は困惑する、あるいはすでに迷惑の段階にも来てしまっているわけです。渥美清の主人公は、そういった愚直さがたたり、せっかくの仕事も棒に振ってしまうし、友人も愛想をつかして去ってしまう。ソフィア・ローレンは、彼女もようやく次の人生に行こうとしていると、元夫があらためて(これが最後の機会ということでしょうが)ローレンに逢いに訪れます。すでに彼女は、子どもがいるという設定です。まさに下のようになってしまうわけです。

以上は、日本とかイタリアのように、一応基本的には外国に行って戦争をした国の話です。これが自国で戦争があるという立場になると、その悲惨さはさらに上回ることは言うまでもない。中国や旧ソ連の悲惨さなどは、私が書くまでもない話でしょう。で、これらの国々では、共産主義国家でもあったわけですから(中華人民共和国が成立したのは1949年ですが、それ以前にも国共内戦もありました)、日本やイタリアほどは、移動の自由ほかはなかったのでしょうが、それでも多くの別離や悲劇があったし、これは戦後2つの国家に分裂したのですが、ドイツなども旧東独も西独も、似たようなことは、国中で戦争をしてベルリンが陥落するまで降伏しなかったわけだから、これまたすさまじい悲劇があったわけです。これは、日本では沖縄をイメージしていただければ、だいたいお判りいただけるかと思います。もちろん空襲や原爆投下などによる人的被害もここにはふくまれます。下の写真は、『ひまわり』より。

 

当たり前ですが、戦争というものの被害は、戦死や戦災、さらには戦傷や精神障害、あるいは戦争にかこつけた性犯罪などももちろんそうですが、経済的な損失ばかりでなく、家族関係や人間関係ほかの破壊という側面も、あまりに膨大で取り返しがつきません。自然破壊などももちろんそうですが、ともかく戦争というのは、普段ではとてもありえないようなめちゃくちゃな暴挙が、これはたぶん昔と比べればだいぶましにはなっているのかもですが、無理やり遂行されるし、また正当化される。なにしろ(国家)総力戦なんて言葉すらでてくるくらいです。そしてその影響は、今日まで続いています。先年こんなことが報道されました。

>国産ジェット事実上凍結へ 三菱重工、コロナ直撃で需要消滅
2020/10/22 23:01

 三菱重工業が国産初のジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)の開発費や人員を大幅に削減し、事業を事実上凍結する方向で最終調整していることが22日、複数の関係者への取材で分かった。新型コロナウイルスの流行が直撃し、納入先の航空会社の需要回復が当面見込めないと判断した。巨額の開発費を投じ、官民で約半世紀ぶりの国産旅客機を目指したが、ノウハウ不足で6度納期を延期していた。国の産業政策にも大きな打撃となりそうだ。

 30日に発表する中期経営計画で詳細を説明する。今後は航空需要の動向を見ながら、事業を再開するかどうかを検討するとみられる。将来の需要回復に備え、運航に必要な「型式証明」と呼ばれる国の認証取得に向けた活動は継続する。スペースジェットの開発費は、相次ぐ納期の延期で売り上げが立たない中、既に1兆円規模に達している。

コロナは建前で、それ以前に型式証明すら取れなかったので、どっちみち商売になるとも思えませんが、日本が車とか鉄道に関しては、これだけ世界の最先端を争う力があるのに飛行機がこんなダメダメなのは、つまりはWikipediaから引用すれば、

>日本では戦後の有望な産業としての航空機産業の育成を阻害する目的で航空機産業を解体。大学における研究すら禁止される状態となった。これにより大型飛行機の国産化は21世紀になっても実現出来ていない。

航空機産業の技術者・生産力は自動車産業や日本国有鉄道(国鉄)に流れることとなった。産業の先端を支えるであろう技術者は自動車産業に向かうものも多く、その黎明期を支え、また国鉄に移った技術者は新幹線を実現させた。

というわけです。敗戦後75年を経てこの始末なわけです。もちろん従軍慰安婦問題とか、戦犯の問題などもご同様。戦争がなければ、さすがにここまでの無茶はされないし、するわけがない。

そう考えると戦争というのは何をいまさらながら、ほんと罪深いですね。いわゆる人権問題から自然破壊、しまいには、産業政策のようなものまで、めちゃくちゃな介入を受ける。ウクライナも、小麦の輸出すらままならないのが現状です。そしてそれは、世界中の食糧供給に大きな影響が生じる。ほんと、困ったものです。


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