以前こんな記事を発表しました。
検察も、被告人の重罰ばかりを追求しているわけではないことを示す一例こちらの記事も。
裁判員裁判というのも、重刑・厳刑のために導入されたわけではない(当たり前)上の記事で紹介した被告人の女性は、介護中の3人の家族を殺害しましたが、懲役18年ですんでいます(求刑は20年)。後者では、死刑を求刑された被告人に対して、
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入院患者3人が殺害された点滴中毒死事件で、横浜地裁は9日、元看護師の久保木愛弓(あゆみ)被告(34)に完全責任能力があったと認めた上で、無期懲役を言い渡した
という件を扱っています(検察が控訴して、東京高裁に上がっています)。
で、過日の刑事裁判の判決を報じた記事を引用します。
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両親殺害の19歳の長男に懲役24年の判決 佐賀地裁
2023年9月15日 20時52分
ことし3月、佐賀県鳥栖市の住宅で両親を殺害したとして殺人の罪に問われた19歳の長男に対し、佐賀地方裁判所は「父親の虐待行為によって追い詰められたことについては同情すべき部分があるが、計画的で強い殺意に基づいた犯行で、長期間の実刑をもって臨むほかない」として、懲役24年の判決を言い渡しました。
19歳の被告は、九州大学の学生だったことし3月、佐賀県鳥栖市の実家で、50代の父親と40代の母親をナイフで刺すなどして殺害したとして殺人の罪に問われました。
これまでの裁判員裁判で、検察は「2人の命を奪った反社会性は著しい」と懲役28年を求刑した一方、弁護側は「事件は成績をめぐって父親から継続的に教育虐待と身体的・心理的虐待を受けた結果だった」として、保護処分か懲役5年が相当だと主張していました。
15日の判決で、佐賀地方裁判所の岡崎忠之裁判長はまず、争点となった母親に対する殺意について、「ナイフで4か所もの致命傷を負わせているうえ、その後も救命措置を行っておらず、殺意があったことは十分認定できる」としました。
そのうえで「少年院に収容した場合、その期間は長くて3年で、肉親を手にかけた罪の重さに向き合う期間として不十分であり、保護処分による更生の可能性は乏しい」と述べました。
そして「幼少期から父親の心理的・身体的な虐待を受けたことが殺害の決意に影響していて、殺害しようと考えるまで追い詰められたことについては同情すべき部分があるが、計画的で強い殺意に基づいた犯行だ。母親を巻き添えにした動機や経緯も身勝手で自己中心的であり、相当、長期間の実刑をもって臨むほかない」として、懲役24年を言い渡しました。
裁判長 “罪の重さに改めて向き合い 深く考えるための期間に”
判決を言い渡したあと、岡崎裁判長は「懲役24年は決して短い期間ではないと思いますが、両親を手にかけた罪の重さに改めて向き合い、深く考えるための期間にしてもらいたい」と述べました。
そのうえで、裁判の中で長男が、この先の人生について「消化試合」と述べたことに言及し「あなたがそのような気持ちで生きていくことは、あなたのことを思ってくれる妹や親族だけでなく、亡くなったお父さんやお母さんも望まれていないはずです。いつかあなたが人生の目標を持って生きられるようになってもらいたい。それが事件を担当した裁判員と裁判官の心からの願いです」と諭しました。
検事 “おおむね適切な判決”
判決について、佐賀地方検察庁の千代延博晃次席検事は「おおむね適切な判決であると受け止めている」としています。
弁護士 “本人や親族の意向踏まえ 控訴するか決めたい”
判決について、松田直弁護士は「こちらの主張が受け入れられず厳しい判決だったと思う。判決内容をよく検討し、本人や親族の意向を踏まえたうえで控訴するかどうか決めたい」と話しています。
両親の親族 “重い刑科す必要あるのか”
殺害された両親の親族は、長男の早期の社会復帰を望んでいました。
判決について、親族は弁護士を通じてコメントを発表し、この中で「到底受け入れられるような内容ではありません。長年、父親からの虐待に苦しんだ末の思い詰めた結果だということを、もっと重視してほしかったです。家族間の殺人は同じような事件の再犯率が極めて低いと聞いているので、ここまで重い刑を科す必要があるのか疑問です」とつづっています。
この裁判での「懲役24年」という判決が妥当なのかどうかは当方が判断できるものでもありませんが、そして弁護士や取材に応じた親族は、厳しい判決であるという評価ですが、私の個人的な意見を申し上げますと、両親を殺して24年というのは、ものすごく厳しくはない、という感があります。実際には、教育虐待など似た性質である1980年の「神奈川金属バット両親殺害事件」では懲役18年の求刑に対し13年の懲役(確定)の判決がでるなど、時代の変化もあり、この事件ももちろん軽い判決ではないのはもちろんですが、ただ死刑とは言わずとも、無期懲役の求刑などもありえたわけで、求刑懲役28年→判決懲役24年というのは、総合的に考えれば、ものすごい重罰ということでもないでしょう。
ここで言えるのが、「検察も、被告人の重罰ばかりを追求しているわけではないことを示す一例」「裁判員裁判というのも、重刑・厳刑のために導入されたわけではない(当たり前)」ということだと思います。以前こんな記事を書きました。
精神に重大な問題があったのだから、減刑になるのは仕方ないと思うの被告人のペルー人が、1審死刑だったのが2審で無期懲役に減刑され、検察が上告を見送り、被告人側の上告が棄却され、無期懲役が確定した際に発表した記事です。で、そこで紹介したように、奥さんと子どもさん2人(娘さん2人)を殺害された男性(加藤裕希氏)が、
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判決への怒りや悲しみをどこにぶつけていいのか分からない
と言い、加藤氏の代理人弁護士である高橋正人弁護士は、
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「検察の不戦敗であり、職務放棄。司法に裏切られた被害者は誰にすがればいいのか」と批判。その上で、控訴審の裁判員裁判制度導入や被害者への上訴権付与を主張している。
と発言しているとのこと。
正直高橋弁護士に関しては、「無茶苦茶なことを言う野郎だ」という印象しかないのですが、加藤氏に関しては、さすがに私も彼がそう言いたくなる気持ちを理解しますが、ただこのペルー人の被告人が重度の精神障害者であることは確かだし、またこの事件のWikipediaから引用すれば
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東京高検の久木元伸次席検事は上告断念の経緯について「事案の重要性や遺族の心情などを踏まえたうえで、さまざまな角度から判決内容を慎重に検討したが、適法な上告理由が見いだせず遺憾だが上告を断念せざるをえない」とするコメントを出した
というのは仕方ないと思うわけです。うれしくはないが、いかんともしがたいことは、世の中たくさんある。刑事裁判の判決なんてのは、その最たるものです。これは闇サイト殺人事件などもご同様。自分の家族ならそのような判決を出すのかなんて話は、言ったってしょうがないことの典型です。だから、裁判では、身内とか友人・知人とかが裁判官や検察官を務めたりはしない。
それはそうと、加藤氏は、埼玉県警の対応について国家賠償請求の裁判を起こしましたが、さいたま地裁と東京高裁で請求を棄却され、現在上告中です。高橋正人弁護士が代理人ですが、この人行政訴訟でしかも国家賠償請求訴訟なんかの代理人になれる能力なんかなさそうだと思いますが、こんな人しか代理人になってくれなかったんですかね。私が加藤氏なら、すくなくとも代理人は違う人になってもらいますがね。どうなのか。
いずれにせよ、久保木被告への横浜地裁における裁判員裁判の結果について考えてみれば、高橋弁護士の言う
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控訴審の裁判員裁判制度導入や被害者への上訴権付与を主張している。
なんてのが、いかに愚にもつかない愚論なのかよくわかるというものです。裁判員裁判での結果なのだから、裁判員裁判だから被告人に厳しい判決が常に出るというものでは(当然)ない。当たり前でしょう。あんたこの判決に関しては、そんなこと言わないだろ? どんだけデタラメな人間なんだか。いずれにせよこんな人物を代理人にして国賠訴訟なんぞ起こしたところで見通しは暗い。
ともかく検察もいたずらに重刑・厳刑を求めているわけではないし、裁判員裁判も重刑・厳刑を課すために導入されたわけではない。それは常に頭に入れておかないといけないと思います。