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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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世の中そんなに(産経新聞とかの)都合よくいくわけでもないだろう

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天安門事件から25周年ということでいろいろマスコミも記事にしました。ちょっと前ですが、産経新聞の記事魚拓)に次のようなものがありました。5月10日の「産経抄」です。

>▼事件後、西側諸国は一斉に対中経済制裁を発動し、中国経済は危機に陥った。それを救ったのが、日本である。事件の翌年、海部政権は早くも円借款の凍結解除を決めた。これをきっかけにして各国は次々と制裁を解除していった。

 ▼あのとき、日本が情けをかけていなければ、中国はどうなっていたか。一党独裁体制はとっくに崩れ去っただろうし、少なくとも尖閣諸島沖や南シナ海で暴れ回ったりしていないはずである。

これを読んだ時、私は「それは違うんじゃないの」と思ったのです。仮に世界中が経済制裁を続けたとして

>一党独裁体制はとっくに崩れ去っただろうし

ということになったかどうかも疑問ですが(そこまではどこの国も希望しないし、また中国共産党体制の強靭さを考えれば、そんなにあっけなくは崩壊はしないんじゃないんですかね)、別に日本が経済制裁を続けなくったって、米国なり欧州なりの大国がタイミングを見計らって経済制裁は解除したでしょう。日本も欧米も、中国が安定して政治経済が安定することがいちばん大事なのですから、共産党体制が崩壊して貿易や対中国投資が滞ったら困るでしょう。

そうしたら、次のような記事が配信されました。この天安門事件における米国の中国への経済制裁に関する記事です。記事の元の出典はこちら魚拓)。

>(前略)

1989年6月3日から4日にかけて起きた天安門事件では、民主化を求めて中国・北京(Beijing)の街に繰り出した学生デモ隊を治安部隊が排除し、数百人もの人々を殺害。これを受け西側諸国は、中国に対し経済制裁を科し、武器の売却も禁止した。

 だが当時の米大統領、ジョージ・H・W・ブッシュ(George H.W. Bush)氏は制裁範囲の拡大を求める声に抵抗し、当時の中国最高指導者、?小平(Deng Xiaoping)氏を安心させるためにひそかに米高官らを中国に派遣した。

 H・W・ブッシュ氏から米大統領を引き継いだビル・クリントン(Bill Clinton)氏は、1992年大統領選の選挙活動中には「北京の虐殺者たち」を非難し、就任当初は中国との貿易条件と人権問題の進展を結びつけていたが、これはすぐに取り下げられた。

 当時、米国務省の東アジア政策責任者を務めていたウィンストン・ロード(Winston Lord)氏は、「汚い秘密を明かせば、当時われわれは一定の進歩を得ていたが、経済官庁は乗り気でなく、われわれの方針を弱めていた。クリントン大統領も国務省を支持しなかった」と述べている。

「当時の政権は分断していた。中国がそれにつけ込んだため、われわれは人権問題について大きな措置を取らなかった」。ロード氏は連邦議会で最近開かれた公聴会でこう語った。

 だがロード氏は、中国との貿易には「膨大な経済的利害関係」があり、米国での雇用に貢献していたことから、他の見解も理解できたと話している。

(後略)

別に私は、このような問題について特に明るい人間ではありませんが、これ自体は「やっぱり」「当然」「そうだろうな」というものでしょう。つまりは中国への経済制裁について、米国大統領も解除のタイミングを見計らっていたということです。それ自体は当たり前でしょう。別に天安門事件の問題で、中国共産党体制を崩壊させようと試みる義理はないし、まあこんなことを書いては良くないのでしょうが、どこの国だって中国の人権問題より自国の金儲けのほうがずっと大事です。どこの国でも取りうるスタンスは、中国の人権問題・民族問題については問題点について(一定の)批判をする、しかし経済関係は重視する、というものでしょう。上に書いた「一定の」という意味は、つまりは自国が損をするほどの批判はしないくらいの意味です。

で、2014年の今日は、中国の経済におけるプレゼンスは1989年よりはるかに高くなっています。現在の中国は、日本をはるかに上回る経済大国です。それで産経新聞にまた次のような記事が載りました(魚拓1魚拓2魚拓3魚拓4魚拓5)。

>「怖いのは中国の以経促統」 若者は文化通じ、日本に親近感 (交換留学生・許氏インタビュー)

2014.6.5 21:51   台湾に住む2300万人の中でも、特に30歳以下の若い世代は「親日」の傾向が強い。幼い頃からアニメや音楽などの文化を通じて、日本に親しんでいるからだ。馬英九総統が進める中国との「サービス貿易協定」に反対し、3週間にわたって立法院(国会に相当)を占拠したのも、こうした若い世代だった。交換留学生として九州大で学ぶ台湾大の許彩誠氏(23)=福岡市在住=は、台湾に一時帰郷し、運動に参加した。親日家であり知日家でもある許氏は「中国は経済交流を通じて台湾を絡め取ろうとしている。台湾にとって、日本との経済関係強化が重要だ」と指摘した。(大森貴弘)   (中略)    もっと経済的な関係も深めてほしい。台湾はWTO(世界貿易機関)に加盟していますから、この枠組みで、日台間に自由貿易協定(FTA)のような、何らかの協定を結んでもらいたいです。   (後略)   いや、貿易ってのは、一方の側が「貿易したい」と希望したら進展する、ってものでもないですから。貿易というのは最低の前提条件として、?双方がそれなりの経済力があり?双方がお互いと貿易をする意思・意欲があり?双方とも制度がそれなりに整備されることが必要です。経済力がなければそもそも貿易はできないし、経済制裁とまでは言わずとも、買いたいものがなければ貿易は成立しないし、高い関税障壁その他を設けて事実上貿易を封じるかそれに近い措置をするということもあります。で、A国とB国の貿易高が○○という数値なら、それは双方の意思や経済力などが総合的にからんでその数値なのですから、いくら

>台湾にとって、日本との経済関係強化が重要だ

>もっと経済的な関係も深めてほしい。

と希望したって、日本側(たぶん台湾側も)にはたぶん現在の貿易高を大幅に伸ばすことは難しいんじゃないんですかね。ある程度伸ばす余地があったとしても、昨今の経済情勢からすれば、中国のほうが日本より伸びる余地はあるでしょう。台湾の貿易統計はこちら。いいとか悪いとかという話ではなく、台湾は、この人の主観的な願望はともかくとしても、どっちみち中国に経済的に強く依存せざるをえないし、台湾百年の計からしたってそれ以外に国を成り立たせる方法はないんじゃないんですか。こんなことで突っ張って経済的に破綻したら、目も当てられないとはこのことです。

それで5月から、「「経済のほうが政治よりよっぽど現実(実状)に正直だ」の実例」の記事を書いて、数か国の貿易統計を確認して痛感したことがありまして、世界経済における中国のプレゼンスって高いね(苦笑)。そんなことはもちろん知っていますが、しかし統計を見てあらためて各国の貿易統計における中国の数値の高さに驚きました。ノルウェーとかオランダのような、中国と関係がさほど深いとはいいかねる国でもそうです。で、日本の反中の希望の星(笑)、インドだって日本より輸出入ともに中国のほうがずっと多額です(さらに苦笑)。確認されたい方は、リンク先を参照してください。

非常に遺憾な話かもしれませんが、中国なんか無視していい、インドがある、なんて話は通用しないんじゃないんですかね。インドだってじゅうぶん中国に経済的に依存しているんだから。たぶん中国の経済状況が悪くなったら日本と同様インドもASEAN諸国も悪くなる。その隙に…なんてことはできない相談だと思うよ、私は。

もっとも(専門のエコノミストのくせに)こんな珍論を主張する人もいます。極右(自称)シンクタンクである「国家基本問題研究所」のHPより。

>2014.05.28 (水)

対中関係悪化しても日本経済へ甚大な影響ない 大和総研・熊谷氏の見通し

大和総研執行役員・チーフエコノミストの熊谷亮丸氏は4月18日、国家基本問題研究所企画委員会で、ゲスト・スピーカーとして「中国経済の行方と日中関係」について語った。この中で、熊谷氏は、中国経済について短期的には楽観しているが、3年から5年の時間軸でみると「バブル崩壊」の可能性が強まるとの見方を明らかにした。
 また、熊谷氏は、日中関係悪化の場合の日本への影響について、自動車など一部の主要産業では悪影響があると思うが、マクロ経済の視点からは日本経済に甚大な打撃を与えるものではないとの見解を示した。
 熊谷氏には、同総研の川村雄介副理事長も同行、討論に参加した。

(後略)

いや、

>日中関係悪化の場合の日本への影響について、自動車など一部の主要産業では悪影響がある

だけで日本経済は大変な打撃をうけるんじゃないんですかね。いったいどういう理屈で

>マクロ経済の視点からは日本経済に甚大な打撃を与えるものではないとの見解

が導き出されるのか不可解です。悪影響≠甚大な打撃、っていう解釈なんですかね。とてもそんなことは言えないでしょう。

>熊谷氏は、中国経済について短期的には楽観しているが、3年から5年の時間軸でみると「バブル崩壊」の可能性が強まるとの見方を明らかにした。

かどうかは私は判断できませんが(それは経済専門家が判断する話)、中国経済が崩壊すれば日本が大変なダメージを受けることくらいは私でも容易に判断できます。それは、夏になれば(冬よりは)気温が上がるということが、気象学者でなくても判断できるのと同じです。こんなことを他人事みたいに語るエコノミストというのもなんともひどい存在です。で、この熊谷という人は政府御用達のエコノミストであり、大和総研という(「国家基本問題研究所」みたいな、なんちゃってシンクタンクとちがう)一応はそれなりに評価されているシンクタンクの執行役員で、この主張をした場で

>同総研の川村雄介副理事長も同行、討論に参加した。

ってことは、これはこの人の特異な意見なのではなく、大和総研の総意とまでは言わずとも、ある程度はその意見を代表したものなんですかね。うーん、他人事ながら大和総研て大丈夫なんですかね。いずれにせよ馬鹿なことをほざく人たちです。こういう話を安倍晋三あたりは吹き込まれて、それで安倍は馬鹿だから真に受けちゃうんですかね。そうでないことを祈ります。

この連中にきわめて好意的に考えれば、大和総研の側は、次にもお声がかかるように「国家基本問題研究所」が喜びそうな話をし、「国家基本問題研究所」のほうは、そういった無闇な中国への態度を取っているほうが自分たちへの支持が集まる、という計算をしているというだけの話なのでしょうが、財界の方々は、こういう馬鹿きわまりないことをほざいている連中をそのままにしていていいんですかね。中国経済が崩壊したら、日本中そろって目も当てられない事態になるでしょうにね。

なお今回の記事もbogus-simotukareさんの記事(こちらこちらこちら)を参考にしました。感謝を申し上げます。


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