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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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その組織に所属できることが決定した時が、人生最高の瞬間であること

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過日、「壮絶人生ドキュメント・プロ野球選手の妻たち2014」という番組を見ていまして、そこで元・東北楽天イーグルス所属の野球選手であった森田丈武という選手とその奥さんのことを特集していました。彼は、プロ野球選手をめざして香川オリーブガイナーズという独立リーグのチームででプレーし、ようやく28歳で育成選手ながらもプロ野球選手になれます。1年目から1軍でプレーできたものの、2年目以降は活躍できず、3年目のシーズン終了後に戦力外となります。そしてその後1年ノンプロ(パナソニック)でプレーするものの活躍できず、ここも契約を更新できず、彼は野球を続けることを断念します。

番組は、その後彼が実家にもどって就職活動をして就職したことや、奥さんがパチンコ屋でアルバイトしていることなどを紹介していました。

これとは関係ありませんが、5月にNHKで宝塚歌劇団の各組トップスターを特集する番組が放送されまして、それを見ました。すると、花組で今年5月に退団した蘭寿とむという人(こちらこちらこちらの記事(魚拓魚拓魚拓)参照)をとりあげるシーンで、彼女と同時に退団する男役の下級生(入団13年目と紹介されていました)のために、特別な演出が用意されたというくだりがありました。こちらによると、月央和沙という人のようですね。つまり、蘭寿とともに、センターで踊るシーンが用意されたというわけです。それで番組のナレーションは、

>下級生にとって、最初で最後の晴れ舞台

と紹介していました。

「最初で最後の晴れ舞台」

うーん、たぶんこの下級生も、宝塚音楽学校に合格した時は、トップスターをめざしたかどうかはともかく、たぶんトップスターとセンターで踊るのが、自分にとっての唯一の晴れ舞台になる、とは考えていなかった、少なくとも目標ではなかった、と思うんですね。番組では、この下級生が泣きながら蘭寿と握手をする様子が映し出されていました。トップスターになれる人がごくわずかでしかないのは仕方ないとして、活躍するまでには至らない、というのはそれはいろいろ残念なところもあるかと思います。

それで考えるに、いま記事にした人たちは、けっきょくドラフト会議で指名された日(入団契約した日その他でも可)、音楽学校に合格した日(入学した日その他でも可)が最高にうれしかった日になってしまったかなと思われます。野球選手のほうは、あるいは最初のヒットを打った日かも。でもたぶん入団関係の日ほどの喜びはなかったんじゃないんですかね。

それは仕方ない話であり、プロ野球の選手は、仮にドラフト1位であっても1軍でプレーできない選手もいますし、宝塚だって、トップスターとセンターに(1度だけでも)つけるというのは、それだけでも本当に大したものです。ていいますか、いうまでもない話、プロ野球の選手になるのは本当にすごいし、宝塚音楽学校に合格するというのも本当にすごいことです。どちらも、実に多くの人間があこがれて挑みますが、そのほとんどは夢かないません。それは仕方ないし、ある意味当たり前ですが、でもやはりなったらなったで、スーパースターとまではいわずとも、それなりの活躍をしたいのはやまやまですよね。森田丈武はもちろん、宝塚の入団13年目の女性だって、決して自分の宝塚在籍時における実績に満足しているわけじゃないでしょう。

そう考えると、こういうことっていろいろあるよなと思います。例えば、大学に受かった日が、自分にとっての人生最高の瞬間だったってことも。大学というのは、あくまで人生の過程の場所で、結果を求めるところではありませんが(学究生活を行うにしても、別に大学生・大学院生であること自体を目標としているわけではないでしょう)、しかし実際問題としては、人生で大学に受かった時ほどうれしいことはなかったという人は少なくないのでは。ていうか、私もその類かもしれません(笑)。あんまり自慢するような話でもありませんが。

ただプロスポーツ選手とか芸能人というのは、なっただけではだめで、活躍しないといけませんしねえ。大学は、卒業すれば「学士」の称号はもらえますが、スポーツ選手や芸能人は、なっただけでは価値がないとまでは言いませんがそれだけでは不十分です。い。人生で、それだけではそれなりの価値もありません。他人よりスタートが遅くなったということを意味するだけ、ということかもしれません。プロ野球の選手は、なっただけですごいし、宝塚の卒業生は、それなりの芸能人としての素養と実力があると証明されたと考えていいかもしれませんが、それだけで人生わたっていけるわけでもない。事実、宝塚の人のその後は分かりませんが、プロ野球選手のほうは、再就職も苦労しているし、奥さんもアルバイトをしているわけです。

前に、プロゴルファーになったはいいが、ロッカールームで他人のクレジットカードを盗んで不正使用した罪で逮捕された女性を紹介したことがあります。こんなのは論外ですが、彼女もやはり、プロテストに合格した瞬間以上の喜びを、プロ生活では感じたことはなかったのだろうと思います。そうでなければ、こんなことはしなかったでしょう。そして、犯罪はしないまでも、なかなかその時以上の瞬間が味わえない人はたくさんいるのでしょう。仕方ないこととはいえ、なんだか切ないですね。

ところで、森田のドラフト会議指名の際の映像は、次のような画面でした。

右側の人物がぼかされています。これはどういうことなのでしょうか。

私はこれを見て「?」と思って、ピンときました。あの不祥事を起こした人物じゃないかな。

調べてみると、同じチームから、この年にドラフト会議に指名された選手は、森田とあの人物と、あともう2人(こちらこちら)います。そう考えると、この人物かどうかは分からないのですが、芸能人なんかでも、過去の番組のさわりの部分を紹介する際に顔をぼかしたりすることがあって、その理由はいろいろあるにしても、不祥事を起こした人物(たとえば田代まさしとか)をそのような処理をすることがあります。

顔に画像処理がかかっている人物がこの不祥事を起こした人物かどうか分かりませんが、不祥事を起こした人物は、以前に自分が起こした不祥事を大目に見てもらってプロ野球の選手になれたのに、また同じ不祥事を起こしてクビになったばかりかその名前が大々的に報道されてしまったわけです。それは本人の不徳のいたすところであって仕方ありませんが、プロ野球の選手にならなければ、仮に同じような不祥事を起こしてもこのように大々的な報道はなかったわけで、この日はその後の犯罪者として日陰者になる日々の助走になったわけです。それもどうかなあだと思います。


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