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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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2008年に起きた海上自衛隊での集団暴行死事件についての興味深い報告書を見つけた

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inti-solさんのブログのバックナンバーを読んでいて、次の記事を再読しました。

海上自衛隊のリンチ死事件

読んで、ああ、そういう事件あったなあと思いだしました。事件についてご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。2008年に海上自衛隊で起きた事件です。同記事に引用されている記事を孫引き(元記事はすでに削除されています)させていただきます。

>15人と格闘、隊員死亡 海自、集団暴行の疑いで調査

広島県江田島市の海上自衛隊第1術科学校で今年9月、海自特殊部隊「特別警備隊」養成課程の3等海曹(25)が、1人で15人を相手にした格闘訓練中に意識不明になり、約2週間後に死亡していたことが分かった。海自呉地方総監部(広島県呉市)は部内に事故調査委員会を設け、傷害事件にあたるかどうか調べている。
海自警務隊も、訓練名目で集団暴行していた疑いもあるとみて関係者から事情を聴いている。
呉地方総監部などによると、格闘訓練は9月9日午後4時ごろから、教官2人の監督のもとで始まった。3曹は1人で次々と15人を相手にし、午後4時55分ごろ14人目の隊員のパンチを受けて倒れたらしい。意識不明になって近くの病院に運ばれ、同25日に呉市内の病院で急性硬膜下血腫のため死亡したという。
3曹は今年3月に、特別警備隊を養成する第1術科学校の特別警備応用課程に入ったが、本人から途中で辞めたいという申し出があり、9月11日付で同課程を罷免され、他の部隊に配属される予定だった。
訓練は「徒手格闘」で、頭や胴に防具、手にグローブを着けて闘う。辞める隊員への見せしめのための暴行だった疑いもあり、事故調査委員会は慎重に検証している。

調べましたら、共同通信のサイトに記事がありました。引用します。

>海自で3曹が集団暴行死 1対15で“格闘訓練”

海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」の隊員を養成する第一術科学校(広島県江田島市)の特別警備課程で9月、同課程を中途でやめ、潜水艦部隊への異動を控えた男性3等海曹(25)=愛媛県出身、死亡後2曹に昇進=が、1人で隊員15人相手の格闘訓練をさせられ、頭を強打して約2週間後に死亡していたことが12日、分かった。

 教官らは3曹の遺族に「(異動の)はなむけのつもりだった」と説明しており、同課程をやめる隊員に対し、訓練名目での集団暴行が常態化していた疑いがある。海自警務隊は傷害致死容疑などで教官や隊員らから詳しく事情を聴いている。

 3曹の遺族は「訓練中の事故ではなく、脱落者の烙印を押し、制裁、見せしめの意味を込めた集団での体罰だ」と強く反発している。

 関係者によると、9月9日午後、同学校のレスリング場で「徒手格闘」の訓練が行われ、3曹1人に対し、15人の隊員が次々に交代しながら50秒ずつ格闘した。

 午後4時55分ごろ、3曹は14人目の相手からあごにパンチを受け、意識不明に。江田島市内の病院に搬送後、呉市内の病院へ転送された。

 意識が戻らず、9月25日に死亡。司法解剖の結果、死因は急性硬膜下血腫だった。

2008/10/13 02:05   【共同通信】

1人で15人もの相手を次々に相手にして格闘訓練を行うなんてめちゃくちゃですが、inti-solさんのお書きになった部分を引用しますと、

>別の記事によると、1人50秒ずつで、連続15人と格闘させられたようです。50秒(多分、残り10秒で相手の交代だから、要するに1人1分ってことでしょう)ずつといったって、15人連続だから、実際には15分間です。ボクシングだって1ラウンド3分ですから、5ラウンド休みなし、しかも相手は1ラウンドごとに違うわけです。それも格闘のプロのような連中を相手に、その養成過程から脱落した隊員が1人でって、それはリンチ以外のなにものでもないでしょう。一度に15人で殴りかかったわけではないとは言え、事実上集団暴行と何の違いもないでしょう。
教官2人の監督の下、ということは、このリンチが完全に組織ぐるみで行われたと言うことです。
別の記事によると、その前にも、やはり養成過程をやめる隊員に対して「格闘訓練」という名のリンチを加え、歯を折る怪我を負わせた事件があったようです。
また、
呉地方総監部は男性が意識不明になった直後と死亡時に概要を発表していたが、15人を相手にした格闘訓練中だったことは公表しておらず、「訓練の一環でいじめや集団暴行という認識はない。(15人を相手にしたことは)取材で聞かれなかったので、答えなかった」
という報道もあります。(読売新聞の記事)この状況を本当に「訓練の一環でいじめや集団暴行という認識はない」のだとしたら、異常です。あまりにいじめや暴行が日常化しすぎて、それが問題だという感性すら麻痺しているか、そうでないとしたら隠そうとしてうそを付いているかです。

となります。このようなことをやっていれば、上のような事故が起きてもぜんぜん不思議ではないでしょう。なお、隊員の死因である「急性硬膜下血腫」というのは、

>膜は頭蓋骨のすぐ内側にあり、頭蓋内で脳を覆っている結合識性の強い膜です。この硬膜の内側で脳の表面に出血が起こると、出血した血液が硬膜の直下で脳と硬膜の間に溜り、短時間のうちにゼリー状にかたまって、脳を圧迫します。これが急性硬膜下血腫です

>?なぜこんなに転帰が不良なのか

急性硬膜下血腫の発現自体が受傷時に重度の脳損傷を受けたことの証であるといえるかと思います。重度の脳損傷が転帰不良に関連するのは当然のことです。また急性硬膜下血腫の増大に伴い脳が急激に強く圧迫されるため、たとえ受傷当初は重度脳損傷はなくてもごく短時間で脳(脳幹)の機能不全をきたしてしまいます。この急激な悪化に対する迅速な対処が極めて困難であるというのが治療上の大きな問題点です。いったん機能不全に陥った脳を回復させる有効な治療法はありません。さらには前述した二次性脳損傷の問題があります。これを制御する有効な手段がないため、多くの症例に後遺障害が残ったり、あるいは脳死に至ってしまうということになります。

というものであり、非常に重篤な脳損傷です。ボクシングなどで死亡する選手の死因も、この急性硬膜下血腫が多いようです。Wikipediaの「リング禍」での死因の「脳内出血」や「脳の外傷」などとあるものも、この急性硬膜下血腫であるものが多いはず。

それでこの件についてネットで検索しましたところ、2つの公式の報告書が公表されていました。

海上自衛隊特別警備隊関係の課程学生の死亡事案について
(中間報告)

 別 紙

読んでいて非常に興味深いですね。もちろん自衛隊(防衛省)が作成したものですから、基本的に自衛隊側(教官側)にいろいろ都合のいい解釈がかかれているのは当然ですし、また被害者は亡くなっているのでその言い分が記されていることはありませんが、それでもなかなか詳細に書かれていて一気に読んでしまいました。読者の方も、ぜひお読みになってください。

 「中間報告」から。

>一方、このような1対多数の連続組手については、「(学生)C3曹の時、(教官)A2曹から初めて聞いたが、キツイだろうなと
思ったが、伝統だからやるべきものなんだ、そういうこともあるんだなと感じた。」というような供述もあり、学生の間でも、応用課程を途中で辞退する者に対して本連続組手を行うことが「伝統」であるという理解が生じた可能性がある。

>ア 体育係として体育メニューの計画を任されていた学生
・ 教官A2曹から体育のスケジュール作りが指示され、ランニング、坂道登坂、格闘を行うメニューを作成した。
・ 徒手格闘(転出者に対する連続組手)は伝統のようになっており、実施するならば、9月11日付で学生D3曹が入校取消になることから、この日(9月9日)しかないと考えた。
・ 徒手格闘(転出者に対する連続組手)を含む体育のメニューについて、14時30分頃に教官A2曹の了承をもらい、その指示に従い学生D3曹の意思を確認した。学生D3曹は、「やる」と回答した。

つまり、

>徒手格闘(転出者に対する連続組手)は伝統のようになっており

ということです。

>本連続組手に参加した学生たちの技量については、特別警備基礎課程において、徒手格闘を履修しているものの、初歩の格闘ができる程度(ただし、若干名のボクシング等の経験者が含まれているとの供述がある。)とみられ、15人を相手とする連続組手を安全に実施できる技量にあったかどうか、疑問が残る。

>(3)心理的側面
本連続組手を行ったことについては、今回参加した者からは次のような供述を得ており、学生の見方は必ずしも一様ではなかった。
・ 連続組手はやった方が良いと思っていた。2年近く一緒にや ってきた者を送り出す記念になると考えていた。
・ みんなの意識としては、送別としていつかはやるのだろうなという感じであったと思う。今回の組手を学生D3曹がやりたいと言ってやったと聞いているけれども、疑問が残る。少なくとも、やらないと言える雰囲気ではなかったように思う。

やはりというべきか、

>今回の組手を学生D3曹がやりたいと言ってやったと聞いているけれども、疑問が残る。少なくとも、やらないと言える雰囲気ではなかったように思う。

とあります。たぶんそのようなところはあったと思います。

「別紙」より。

>ウ 学生D3曹に対する16人の連続組手の結果、元立ちであった学生D3曹は、前歯1本を欠き、下唇を2針縫う怪我をしたが、「それまでの仲間と最後に拳を交えて、仲間意識の共有ができたような気がしました。」と述べていた。また、連続組手終了後には、「学生D3曹及び1901期応用課程学生との連帯感が深まったように感じて非常に良い訓練であった」など、大半の学生が、仲間意識を共有でき、連続組手を実施して良かった旨の感想を述べていた。一方、「訓練としては問題ないが、辞める隊員に対しては、訓練から外し支援をさせているにもかかわらず、辞める隊員を対象として訓練を行う意味があるのか疑問を持っており、特別警備隊の悪しき習慣であると感じ違和感を持ちました。」と認識した学生もいた。

>6 事故の状況
(1)事故者学生が第1901期応用課程学生を免ぜられる前の状況
ア 平成20年7月頃、事故者学生は、当時、特警隊において学生を免ぜられ、特警隊本部勤務となっていた学生D3曹に、応用課程学生を辞めるかもしれない旨を相談した。学生D3曹は、既に学生総員との連続組手を経験していたことから、辞めるのであれば、事故者学生も学生総員に対する連続組手が実施されるかもしれない旨を述べた。その際、事故者学生は苦笑いをしていたが、特に嫌がっている態度は見受けられなかったとしている。

>オ 9月上旬、応用課程学生が訓練で厚木航空基地に立ち寄った時に、事故者学生は同基地に転出していた学生D3曹と再会した。その際、学生D3曹は、事故者学生から学生を辞めると決意した旨を伝えられ、学生総員との連続組手が実施される可能性について再度述べたところ、この時も事故者学生は苦笑いをしていたが特に嫌がっている素振りは見受けられなかったとしている。

文中

>その際、事故者学生は苦笑いをしていたが、特に嫌がっている態度は見受けられなかったとしている。

>この時も事故者学生は苦笑いをしていたが特に嫌がっている素振りは見受けられなかったとしている。

というところがポイントですね。ここでの「苦笑い」とは、あからさまに嫌がってはいなかったのかもしれませんが、たぶん「参ったなあ」「大丈夫かなあ」といった心理であったのではないでしょうか。なお、上の学生D曹は

>学生D3曹に対する16人の連続組手の結果、元立ちであった学生D3曹は、前歯1本を欠き、下唇を2針縫う怪我をし

という負傷をしています。

病院搬入時の事故学生の状態は、

>ヘ 1925頃、医官S3佐と第3小隊幹部C3尉は、呉共済病院の緊急外来の外で待機していたが、青木病院で撮影したCT画像を見た同病院の医師から、事故者学生に対する開頭手術は不可能であり、脳死に近い状態であることを告知され、事故者学生は集中治療室で容態監視されることとなった。
ホ 事故者学生は、呉共済病院の集中治療室における容態監視中、9月25日(木)2221、急性硬膜下血腫のため死亡した。

とのこと。行き過ぎた訓練であることは明白だと思います。inti-solさんは、私がしたコメントへのコメント返しで、

>結局、悪しき伝統を引きずっていた、ということに尽きるのでしょう。連続組手という伝統自体は、たいして歴史のある伝統ではないものの、いじめ、あるいはいじめまがいの行為に通じる伝統は、残念ながら旧軍時代から連綿と、といわざるを得ないだろうと思います。

とご指摘になっています。

 なおこちらによると、

>53 :専守防衛さん:2013/03/23(土) 15:58:02.77国が遺族に7000万円支払い和解 海自3曹死亡

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 海上自衛隊の特殊部隊養成課程で2008年9月、当時25歳の男性3等海曹=死亡後2曹に昇進=
が15人を相手に格闘をさせられ死亡し、遺族が国と当時の教官らに計約8千万円の損害賠償を求めた
訴訟の和解協議が19日、松山地裁(浜口浩はまぐち・ひろし裁判長)であり、国が遺族に約7千万円
を支払うことで和解が成立した。
 訴訟関係者によると、和解文書には「格闘をさせる必要はなかった」と明記。教官ら4人の「深く
おわびする」との謝罪の言葉も記され、国は慰霊の催しを行うことや、格闘で死亡した経緯を特殊部隊内
で引き継いでいくことも約束した。
 一方、格闘が制裁目的だったとの遺族の主張は国が認めず、盛り込まれなかった。
 訴状などによると、08年9月9日、男性は「特別警備隊」(江田島市)の養成課程から別の部隊に移る前に
訓練との名目で、隊員と連続で格闘。14人目のパンチで意識不明となり、同月25日に急性硬膜下血腫で死亡した。 

さてこの件についてネットで調べてみると、この徒手格闘訓練なるものはそうとう危険なもののようですね。同じく陸上自衛隊での徒手格闘訓練中による死亡事故についての訴訟を担当している法律事務所のHPによると

> 自衛隊の海外派兵・地上戦が現実化する中で強化されてきた徒手格闘訓練は、急所を素手で打撃するなどして相手を殺傷するというものです。弁護団が行った情報開示請求により、航空自衛隊では「業務事故」の半分が徒手格闘訓練だということが判明するなど、重大事故が多発しているものです。

また、次のようにも書かれています。

>原告としては、国に控訴を断念させ、全国の自衛隊で多数発生している徒手格闘訓練事故の検証と中止を求めていきます。実はすでに海上自衛隊では、2008年に起きた広島・江田島基地の徒手格闘訓練に名を借りた暴行死事件を契機に、徒手格闘訓練が中止されたという経緯があります。

とありますので、さすがに海上自衛隊に関しては、事態を重く見たということかもしれません。

なおこの記事に関しましては、inti-solさんの2008年の記事、および私がしましたコメントに対するinti-solさんのコメント返しを参考にいたしました。inti-soさんに感謝いたします。


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