野中広務が、尖閣諸島問題で、1972年に棚上げで日中が合意していたということを田中角栄氏(いうまでもなく、日中国交回復時の日本の首相)から聞いたという発言をしました。それに対しての産経新聞の対応です(こちら、こちら、魚拓1、魚拓2)。
>【主張】
尖閣棚上げ論 中国の宣伝戦に手貸すな
2013.6.5 03:29 (1/2ページ)[尖閣諸島問題]野中広務元官房長官が北京で中国共産党の劉雲山政治局常務委員ら要人と会談し、「尖閣諸島の棚上げは日中共通認識だった」と伝えたことを、会談後の記者会見で明らかにした。
1972(昭和47)年の日中国交正常化交渉の際、当時の田中角栄首相と中国の周恩来首相との間で合意があったという趣旨の話を、田中氏から後に聞いたという内容だ。しかし、伝聞に基づく発言で、確たる証拠はない。
岸田文雄外相は「外交記録を見る限り、そうした事実はない」と否定し、「尖閣諸島は歴史的にも国際法的にも日本固有の領土だ。棚上げすべき領土問題は存在しない」と述べた。当然である。
尖閣棚上げ論は、中国の最高実力者だったトウ小平副首相が持ち出したものだ。日中平和友好条約調印から2カ月後の78(昭和53)年10月に来日したトウ氏は「10年棚上げしても構わない。次の世代の人間は、皆が受け入れる方法を見つけるだろう」と述べた。
その年の4月、中国の100隻を超える武装漁船群が尖閣諸島周辺で領海侵犯による威嚇を繰り返した事件から半年後のことだ。当時の福田赳夫内閣はトウ氏の発言に同意しなかったものの、反論しなかった。不十分な対応だった。
しかも、中国はトウ氏の「棚上げ」発言から14年後の92(平成4)年、尖閣を自国領とする領海法を一方的に制定した。そもそも、中国に「尖閣棚上げ」を語る資格はない。
野中氏の発言に先立ち、シンガポールのアジア安全保障会議で、中国人民解放軍幹部が「(尖閣の領有権)問題を棚上げすべきだ」と蒸し返した。これに対し、菅義偉官房長官が「尖閣に関し、解決すべき領有権問題は存在しない」と反論したのも当たり前だ。
尖閣棚上げ論には、1月下旬に訪中した公明党の山口那津男代表も「容易に解決できないとすれば、将来の知恵に任せることは一つの賢明な判断だ」と述べた。同じ時期、鳩山由紀夫元首相は中国要人に、尖閣は「係争地」との認識を伝えた。
今回の野中氏の発言も含め、中国メディアは大きく報じた。中国の真の狙いは尖閣奪取だ。訪中する日本の政治家は、自身の国益を損ないかねない発言が、中国の反日宣伝に利用される恐れがあることを自覚すべきである。
産経新聞らしい対応ですが(「中国の真の狙いは尖閣奪取だ。」とか、誇大妄想ぶりにもうんざりします)、「棚上げすべきだったかどうか」という話と、「棚上げがあったかどうか」という話は、違う次元のことじゃないですかね。そういうことをいっしょくたに議論しても仕方ないでしょう。
どっちみちこの時点で日本側に棚上げ以外の選択肢があったとは思いませんが、産経新聞あたりは「だから日中は国交回復をするべきでなかったんだ」くらいのことを(そこまであからさまにはいわずとも)考えていそうですが、どちらにせよ無責任なことを主張する人たちです。
この件で日中双方が「棚上げ」で合意していたなんて、ほとんど社会常識のたぐいだと思いますが、世の中そういうことを認めたがらない産経新聞のような人たちもいます。しかし国会答弁においてすら外務大臣がそれを認める趣旨のことを述べています。1979年5月30日の衆議院外務委員会より。園田直外相の発言です。なお中国副主席の名字は、漢字からカタカナに変更させていただいたことをご了解ください。
>○井上(一)委員 大臣がお見えになりましたので、尖閣列島のことについてのみ午前中に大臣に対する質問をいたしたいと思います。
外務大臣は今回の尖閣諸島に対するわが国のとった行動を事前に承知なさっていらっしゃったのでしょうか。まずお伺いをいたしたいと思います。
○園田国務大臣 中国の今回の申し入れを従前に知ってはおりませんでしたが、きのう内閣委員会で答弁したとおり、尖閣列島の調査開発その他のことは慎重にやらなければ不測の事態が起きるという心配をしておるという意思表明はいたしましたが、向こうから申し入れがあるということは事前には存じませんでした。
○井上(一)委員 大臣、私の質問は、わが国がとった尖閣諸島に対する調査に踏み切った行動を事前に御承知だったでしょうかということです。
○園田国務大臣 勘違いをしておわびをいたします。
この問題は、御承知のとおり予算に計上してございます。したがいまして、当初から私は知っておりましたが、これに対しては絶えず次のような議論をしてきました。
少し長くなりますけれども、尖閣列島は御承知のとおりに中国とわが方は立場が違っております。わが方は歴史的、伝統的に日本固有の領土である、こういうことで、これは係争の事件ではない、こういう態度、中国の方は、いやそれは歴史的に見て中国の領土である、日本と中国の間の係争中の問題であるという差があるわけであります。そこで北京の友好条約締結のときに、トウ小平副主席と私との間で、私の方から話をしまして、尖閣列島に対するわが国の主張、立場を申し述べ、この前の漁船のような事件があっては困る、こういうことを言ったところ、向こうからは私の主張に反論なしに、この前のような事件は起こさない、何十年でもいまのままの状態でよろしい、こういうことで終わったわけです。
その後中国のトウ小平副主席が日本に来られたときに、共同会見のときにたな上げだという言葉を初めて使われ、わが方は依然としてわが方の領土であることは明白であるといういきさつがあるわけでありますけれども、少なくとも日本と中国の友好関係の現状からしまして、この前のような、漁船団のような事件は起こさない、二十年でも三十年でもいまのままでよろしいということは、わが方から言えば現在有効支配しているわけでありますから、ことさらに中国を刺激するような行動、これ見よがしに有効支配を誇示するようなことをやれば、やはり中国は国でありますから、自分の国であると言っているわけでありますから、これに対して異論を出さざるを得ないであろう。そうでない状態が続くことを私は念願しております。
したがって尖閣列島についてはわが国の領土ではあるけれども、こういういきさつがあるから刺激しないように、付近の漁民または住民の避難のため、安全のためにやむを得ざるものをつくるならば構わぬけれども、やれ灯台をつくるとか何をつくるとか、これ見よがしに、これは日本のものだ、これでも中国は文句を言わぬか、これでも文句はないかというような態度は慎むべきであるということを終始一貫議論をしてきた経緯があるわけであります。
国交樹立の時の話ではないとはいえ、中国とこの件で合意している旨が堂々と陳述されているじゃないですか(笑)。棚上げ合意があったのは明々白々でしょう。inti-solさんのブログ経由で知ったその翌日5月31日の読売新聞の社説は、たぶんこの国会答弁をも念頭に入れているのでしょう。そちらの社説も。
>尖閣諸島の領有権問題は、1972年の日中国交正常化の時も、昨年夏の日中平和友好条約の調印の際にも問題となったが、いわゆる「触れないでおこう」方式で処理されてきた。つまり、日中両国とも領土主権を主張し、現実には論争が"存在"することを認めながら、この問題を留保し、将来の解決に待つことで日中政府間の了解がついた。
それは共同声明や条約上の文書にはなっていないが、政府対政府のれっきとした"約束ごと"であることは間違いない。約束した以上は、これを遵守することが筋道である。
それにしても、当時の自民党政府の認識といい、読売新聞の社説とともに、まともだよね(笑)。園田の息子は現在日本維新の会所属の議員であって、彼の認識はいかに?
inti-solさんにお礼を申し上げます。