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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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自己責任が大好きな人たちも、北朝鮮拉致被害者や日揮?にはそれをもちださない(らしい)

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過日書いた辛坊治郎についての記事は、拙ブログではしばらくぶりのヒット記事となり。わりと多くの読者の方に読んでいただきました。あらためてお礼を申し上げます。

辛坊の場合、なぜ彼があそこまで厳しい指弾を受け、彼も弁明ができないかといえば、つまりは彼が以前「自己責任」めいたことを主張したからです。イラクに行って身柄拘束された人たちとヨットで外洋に出て遭難した辛坊ではまた状況は異なりますが、しかし私が記事で指摘したように辛坊はタリバン政権崩壊直後のアフガニスタンを訪れています。失礼ながら、辛坊がこの時殺害、負傷、身柄拘束その他の状況に現地で陥ってもぜんぜん不思議ではなかったはずで、そうなったら「自己責任」ではどうにもならないでしょう。自分だって危険な道を歩いているのに他人に「自己責任」を要求するのは、このヨット遭難に陥る以前で変な話です。

さて、bogus-simotukareさんからその記事に興味深いコメントをいただきました。

>自己責任論だと有本恵子氏は自業自得 (bogus-simotukare)  2013-07-03 21:36:13

ですよねえ。
さすがに拉致を予測しろってのは無茶でしょうが国交のない国に一人で行ってしまうというのは明らかにうかつでしょうから。
でもそんな事は自己責任論者は言わないわけです。「そうだ、有本は自業自得だ!」と言われても困りますけどね。

有本恵子さんは、よど号グループによって北朝鮮に拉致された女性です。で、彼女がどのように北朝鮮に行ったかといえば、別に暴力的に拉致されたわけでなく、報じられているところによればよど号グループの某女性から、「北朝鮮でマーケティング関係の仕事をしないか」と誘われたそうです。つまりはだまされたわけです。

北朝鮮に「マーケティング」なんかあるわけないだろ、そんなことを北朝鮮みたいな国であなたみたいな素人の外国人ができるわけないだろ、という以上の話ではありませんが、こんな程度の子どもだましの話に有本さんは引っかかってしまいました。

有本さんという人は、たぶんいろんなことをあまり良く知らない女性だったのでしょうが(あるていど社会的な知識があれば、さすがにマーケティングうんぬんという理由で北朝鮮には行かないと思います)、彼女が北朝鮮に入国した(拉致された)83年は、日本のパスポートは北朝鮮入国が認められていませんでした。彼女は、明々白々な旅券法違反を犯したのです。つまり彼女は、日本国の法令に反して北朝鮮に入国したわけです。もっともそんなことを言えば、本来なら北朝鮮入国時に入国用件を満たさない人間として追い返されるのが筋ですが(苦笑)。

私にとっては他人事だから苦笑ですみますが、ご本人やご家族にとってはお話にもならない事態です。これは本当に気の毒ですが、でもこれってやっぱり「自己責任」の観点からすれば問題ですよね。北朝鮮でのマーケティングなんて非常識にもほどがある話だし、そもそも当時の日本のパスポートでは入国を許可されていない国に入国したわけだから、それは法令違反であり、彼女のうかつさその他は厳しく批判されなければならないでしょう。有本さんの親御さんも、その旨の発言はしています。

でですよ、イラクの日本人身柄拘束者たちを批判した人たちは、どれくらい有本さんを批判したんですかね。国費を使ったとかいう観点で言えば、なにはともあれわりと早く決着したイラクの身柄拘束者たち(首を切断された人もふくむ)よりも、有本さんたちについて使われた税金のほうがはるかに高額じゃないんですか。暴力的に拉致された人たちでなく、有本さん同様よど号グループにだまされて北朝鮮に入国した学生たちは、どうもよど号事件犯人の奥さんたちに女性の魅力を感じて北朝鮮についていったという話もあります(これは、高沢皓司著「宿命」に出てきます)。もしこの話が事実なら、要は色仕掛けでだまされたというわけですが、これもじゅうぶん「自己責任」ですよね。色仕掛けはガセだとしても、すくなくともだまされた側にはなんの落ち度もないと主張したらそれは違うというものでしょう。今回の辛坊の遭難ていどには落ち度はあろうかと思います。すくなくともパスポートの件は、上の有本さんと同じです。

でも、彼(女)らは批判されません。なぜでしょうか。一方の当事者が「北朝鮮」「よど号グループ」で、いくらでもたたける、たたき甲斐があるから、という以外の理由は考え付かないんですけど。

私が何を言いたいかというと、つまりは自己責任論者の主張する自己責任とは、辛坊のように自分がその立場になったらすぐに助けを求めるものであったり、ご都合主義で批判を控える程度のものだということです。いつも拙ブログにコメントを下さるRawanさんご指摘のように、

>Unknown (Rawan)2013-07-03 02:44:18

所詮彼等の「自己責任論」というのは、体制側の政治信条にそぐわない行為を行なっていたかどうかで、そのリスクの正当性を測っているだけで、結局は自分が忌避する政治的行為者を貶めるための詭弁でしかありませんからね。

ということです。イラクで身柄拘束された人たちは、正直私は馬鹿だと思いますし(首を切られた人については語る言葉を持ちません)、彼(女)らが批判されるのもある程度は仕方ないと思いますが(辛坊も同じです)、すくなくともそれなら北朝鮮に拉致された何人かの人たちは、その関係で費やされた公金という観点で言えばイラクで身柄拘束された人たちよりもはるかに日本政府に迷惑をかけた、またかけているんじゃないのと私は思います。

もっとも北朝鮮非難ネタとしては、彼らの存在はたいへん好都合というご意見もあるでしょうが、それは「自己責任」の話とは無関係ですので、これ以上議論しないことにします。

最近の事例も出しましょう。今年はじめの大ニュース、アルジェリアでの日揮株式会社のプラントにおける事件はどうですかね。

これまた非常に失礼ですが、ひところの内戦の時代ほどではないにしても、アルジェリアが最高レベルに危険なところだなんて社会常識でしょう。有本恵子さんじゃないんだから、そんなことは日揮もその社員もそこと契約して働いている人たちも日本政府も重々ご承知なことです。

実際、日揮は自社の正社員以外のフリーの技術者を大勢プラントに送り込んでいたし、また彼らに多額の報酬を払っていました。つまりはそれだけ危険で、なかなか働く人間を確保するのも容易でなかったわけです。

ところで、この事件でお亡くなりになった犠牲者の方の一人は、40代で独身の方でした。想像ですが、彼も奥さんと子どもがいないという立場がアルジェリアでの仕事を選択するという一つの要因だったのかもしれないなと考えました。これは私の想像です。違っていたらすみません。

上の件の真偽はともかく、つまりは働いている人も会社も、とうぜん日本政府も、アルジェリアはものすごく危険で、本当に最悪の事態になったら、この事件のようなことが起こりかねない覚悟はしていましたよね、きっと。「そこまでは…」とか「自分に限って…」なんてのは、辛坊のアフガニスタン旅行同様に根拠のない自信でしかありません。

でも、私の知る限り、この件で「自己責任」とか言う人は、あんまりいなかったような。まったくいなかったかどうかはともかく。亡くなった方が気の毒だとかそういう話ではなく、「自己責任」とかいうのなら、この件の被害者や日揮なんか相当「自己責任」じゃないんですか。危険は承知でアルジェリアで仕事をしたり、事業を展開しているんだから。

でも日本政府は、亡くなった方々に最大限の弔意を示しました。これって理由はいろいろでしょうが、つまりは日揮のやっていることが日本の国策・国益にかなうからでしょう。弔意を示すことそれ自体を悪いとは私も考えませんが、けっきょく「自己責任」なんてそんなものでしかないと思います。日本の国策・国益に沿う(と時の政府が認識する)のであれば、批判・非難には値しない、それだけのことです。

ところで、もと日本人外交官で駐アルジェリア特命全権大使をつとめた方の著作

アルジェリア危機の10年―その終焉と再評価

(この本自体はとても面白い本です)を読んで、著者略歴に「おや」と思ったことが。この本を買ったのはずっと以前ですが、日揮の事件後に本棚から引っ張り出して気づきました。なお著者は、この本の発売(2002年2月発売)後急死されています。

>(前略)                                                                                    2001年6月外務省退官。                                                                        日揮?顧問。                                                                                (後略)

日揮が、歴代駐アルジェリア大使をみな顧問に迎えているのかどうかは知りませんが、つまりは日揮も日本政府とそのようにつながっているということです。それはそうで、アルジェリアであのような大規模な経済活動をするのなら日本政府の支援が欠かせないし、それは日本政府の国益にもかないます。当たり前の話ですけどね。

bogus-simotukareさんと、記事のヒントをいただいたinti-solさん(日揮の話は、inti-solさんのブログ記事にコメントさせていただきました)、Rawanさんに感謝いたします。


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