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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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泣かない男

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いい悪いという話ではなく、私は涙を流すということが、あくびとか眼球保護のために自然に流れるということ以外ない人間です。

小学生までは、たぶん平均的男児よりずっと泣き虫だったような気もしますが、中学生になってからまったく泣くことがなくなりました。その後、人生でいろいろありましたが、いまのところ泣くことがありません。

感激や悲しみを感じにくい性格なのかもしれないし、わりあい私はいろいろなことに淡々としている人間です。

中学の卒業式のとき、ぜったい涙なんか流すことのなさそうな野球部の硬派の男が大粒の涙を流していました。私は、男のくせに涙なんか流すなよと思いました。言いはしませんでしたが。いまにしてみると、ジェンダーの観点からみてもひどいことを考えていたと思います。

中学での生活は、私にとってはとくに感慨のあるものではなかったのでしょうか。私の出身高校は進学校でしたが、中学は普通の公立中学でしたので、そんなに中学校生活が居心地のいいものではなかったのかもしれません。

その後、高校、大学、大学院とすすみましたが、やはり卒業した際に涙は流しませんでした。

で、映画を見ても私泣かないんですよねえ。やっぱり感受性が悪いというか、どうなのか。

私の父が、以前言いました。

父「お前、ほんと泣かないなあ」

私「ああ、泣かないね」

身内が亡くなってもやはり涙は流れません。過日父が亡くなった時も、周りの親戚は涙を流していましたが、私は泣きませんでした。年齢的に見て、これからまもなく私の身内がかなりまとまって(昔の人たちですから兄弟姉妹の数が多いんです)亡くなるのではないかと予想されますが(いやな予想です)、たぶん涙は流れないと思います。前に亡くなった従兄や祖母のときも特に涙を流しませんでした。

私が記憶している限りでいちばん涙を流しそうになったのは、アニセー・アルヴィナが亡くなったのを知ったときと彼女のインタビュー記事を翻訳したときです。私ってほんとに彼女が好きなんだと思います。しかしこの時も泣くことはしませんでした。

あと覚えているのは、ソウルに初めて行ったとき(1997年)、明洞の地下街に50過ぎくらいの女性が物乞いで土下座していて、その背中に1歳くらいの子どもがおぶわれていたときです。子どもは、いかにも幸せそうな表情で手足をぱたぱたさせていました。いまの私ならその種のものにも慣れていますが、当時はまだ海外旅行初心者でしたので、土下座している女性はともかくその子どもの姿はとても悲しいものがありました。

で帰りに同じところを歩いたら、女性は相変わらず土下座したままで、子どものほうが(誰かが哀れんであげたのか、はじめから用意されていたのかは分かりませんが)ヤクルト(あるいはそれに類する容器に入った飲料)を両手でささげもって少し飲んで口から離して幸せそうな表情をしていたのです。

それを見た瞬間、私ものすごく悲しい気持ちになり思わずポケットに入っている小銭を投げてしまいました。

旅行に同行していた友人G君に「お金をあげた」というと「え、あげたの!」と驚いていました。

お金をあげた話は、あとレバノンのベイルートでも面白い(といっては語弊があるか)ことがありましたが、これは後日記事にしましょう。

このソウルの件は、泣く寸前までいきそうでしたが泣きませんでした。

私の勝手な想像ですが、たぶん身内が理不尽な殺されかたをしても、私は物理的には涙を流したり泣いたりはしないと思います。なんの自慢にもなりませんが。だから、こういうことを書くと人間性を疑われるでしょうけど、身内が殺されたからといってテレビの前で泣きじゃくる犯罪被害者遺族の姿は私にはとても異様というか違和感があります。同じ立場になったとしても、すくなくとも人前では私は絶対泣かないと思います。泣くとしたら、人目につかないところで泣くでしょう。

すいません、どうでもいい話です。

あるいはスポーツなどで負けた際に男子の選手が号泣する姿も、私には「泣くかなあ」という気がします。泣くほどのことではないと思います。女子の選手についてはなんとも思わないのは、私の心の中に、男が泣くのははずかしい、女が泣くのはしかたない、というステレオタイプの思考がすりこまれているからなのかもしれません。

そうこう考えると、たぶん私は感受性とか人間性とか感情の起伏が低いのでしょう。私もろくな人間じゃないと感じます。つまり私は、カミュの小説「異邦人」の主人公ムルソーみたいな人間なのでしょう。私は、もちろん人殺しはしませんが。

将来私が涙を流す日が来るのか見当もつきませんが、流す日は私が肉体的にも精神的にも老いたときだと思います。


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