2015~2016の「午前十時の映画祭」の最終シリーズを現在上映していまして、現在映画館によって小津安二郎 監督の「東京物語」と「秋刀魚の味」を上映しています。それで、この2本の映画は、前者が1953年の製作・公開、後者が1962年の製作・公開です。翌年小津は病に倒れたので後者が彼の遺作となりました。それで、この2本は出来もいいとされ映画史に輝く作品ですが、今日は出演者の年齢の関係を考えたいと思います。
つまりこの2本には、9年の歳月があるとはいえ同じ監督の似たモチーフの作品ですから共通した出演者がいるわけです。具体的には、笠智衆(役名も「平山周吉」「平山周平」と同じような名前です)、杉村春子、東野英治郎が出演しています。ほかにも三宅邦子や高橋とよらが共通して出演していますが、今日のところは最初の3人について考えます。
で、この3人を年齢順に考えると、笠が1904年生まれ(小津の1歳年下です)、杉村が1906年生まれ、東野が1907年生まれです。
それで、この3人の役柄を確認しますと・・・・。
東京物語:笠は尾道在住の老夫婦の夫、杉村はその娘で美容院を経営、東野は笠の尾道での友人で現在都内在住。
秋刀魚の味:笠は会社で(たぶん)60ちょっと前くらいのサラリーマン、東野と杉村は父娘で、東野は笠の旧制中学の恩師、杉村は父の世話をしていて婚期を逃したらしい女性です。
笠と杉村は、実年齢が2歳しか違わないのに父娘を演じ、東野と杉村は、杉村の方が年上なのに娘を演じ、東野は年下であるにもかかわらず笠の恩師を演じたわけです(笑)。
しかしこれもすごいですよね(驚き)。いくら杉村春子だからといったって、さすがに2歳年上だけの男性の娘や自分より年下の男性の娘役というのはなかなかだと思います。もちろん天下の杉村春子だから演じられるわけですが、それにしてもですよね。
さて、「東京物語」での笠の実年齢は、せいぜい49くらいでしかありませんでした。奥さんを演じた東山千栄子は1890年生まれですので笠より14歳も年上ですが、映画では68歳という設定でしたので、すると笠はたぶん70を超えたくらいの年齢という設定だったのでしょう。実年齢より25歳くらいも上の役を演じていたわけです。東野は笠とだいたい同じくらいの年齢くらいの設定として、杉村は、子どもはいないようですが、まあいいとこ40くらいなんですかね。彼女は47歳くらいの年齢だったはずですから、映画ではまあありくらいの年齢でしょう。
それが「秋刀魚の味」では、笠はだいたい実年齢の役を演じているとして、東野は笠の学校の恩師という役でしたから、たぶん70は超えているくらいの年齢でしょう(実年齢は、まだ50代半ばです)。それで杉村は、実年齢は50代半ばですが、役としては40代後半くらいですかね。そのあたりの設定は詳らかでないですが、いずれにせよこのようなキャスティングも世界映画史上になかなかないんじゃないんですかね。キワモノとしてならともかく、言うまでもなく笠も杉村も東野も、小津の絶対の信頼を得ての起用のわけですから。そしてそれらが世界映画史に残るといっていいくらいの傑作だというのは、ある意味キャスティングという点からもすごいなあと思います。
ところで「東京物語」のラストで、笠と原節子が2人して語り合うシーンがあります。あれは映画史上に残る名シーンであり、小津にしても笠にしても原にしても、彼(女)らの映画人生における最大のハイライト(の少なくともひとつ)だと思いますが、しかし原の最後の台詞、実にいろいろ含蓄がありますね。このあたり、野田高梧と小津の脚本は実に容赦がないなと思います。そのようなある意味非常に冷酷な部分が、この作品を優れたものにしているのでしょう。
今回は原節子についてあまり書けませんが、彼女についてもいろいろと記事を書いていこうと思います。