Wikipediaにものっているネタですが、「カサブランカ」は、ラストをどうするかは決めないで撮影されたそうです。それで、映画で使用されたラストを試案として撮影したら「これがいい」となって決まったとか。つまり、脚本の段階では、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンがラストどうなるかは何人も知らなかったわけです(笑)。
そう考えると、今のラストでないラスト(すみませーん、見ていない方もいるかもですから、ラストは書かないこととします。以下同じ)だったら、「カサブランカ」はどういう映画になったのかなという気はします。現在のような最高レベルの評価であったかどうか、それは神のみぞ知るですが、いろいろ難しいですよね。あるいは、もしかしたらそちらの方がずっと人気が高い映画だった可能性もあります。やっぱりないかな。
それで、「チャイナタウン」は、脚本のロバート・タウンと監督のロマン・ポランスキーの意見が激しく対立した作品でした。タウンが、とあるラストを主張し、ポランスキーはその逆のラストを示しました。ポランスキーは、タウンの主張するラストでは、凡庸な作品になってしまうとまで言ったそうです。けっきょくポランスキーの意見が通り、映画のラストになりましたが、私もこれについてはポランスキーの意見を支持したいですね。たぶんタウンの考えるラストでは、現在のような高評価は得られないだろうと(勝手に)考えます。
さて、上の2作は、映画オリジナルのストーリーですが、これが原作ものですと、またいろいろ話が違ってきます。原作で忠実であるのが普通ですが、必ずしもそうでない場合もあるわけです。映画「マイ・フェア・レディ」は、もともとはブロードウェイミュージカルの同名の作品を原作としていますが、それの原作自体は、バーナード・ショーの戯曲「ピグマリオン」のわけです。
で、その原作は、必ずしも映画のようなものではないわけです。確かにショーの原作なら、たぶんあのようなラストにはならないだろうなという気はします。しかし興行上としては、やはり映画などのラストがいいのかなというところでしょうか。戯曲自体も、上演時ですら、ラストの変更がありました。なおショー自身がシナリオを書いた「ピグマリオン」という作品もあります。この作品では、デヴィッド・リーンが編集をしています。映画のラストは、「マイ・フェア・レディ」と同じようになっていて、ショーのシナリオとは違っていたので、ショーは当惑したとか。
ほかにも「ゲッタウェイ」は結末の違うヴァージョンがあるとか、いろいろネタがありますが、しかし逆に映画のラストは、これ以外ないよなというものもあります。ていうか、そっちの方が多いのでしょうが。
「新幹線大爆破」のラストは非常に不自然ですが(取り調べがありますから、あのようなことにはならないでしょう)、やはり最後は健さんにはああなってもらうしかなかったんだろうなという気はします。現実性より映画としての効果を優先させたということです。
また「アパートの鍵貸します」も、100%のハッピーエンドでない苦い部分を多分に残したラストです。そういった部分が、この映画を傑作としているということでしょう。あのラストでなければ傑作にはなりえなかっただろうと(これも勝手に)思います。
もっともそういうことを言いだすと、例えば忠臣蔵なんかはどこで終わりにするかというのもいろいろですね。討ち入りが終わったところにするか、切腹をするところまでにするかとか。話自体は誰でも知っているわけで、それをどう解釈し料理していくかが作り手の真骨頂であるわけです。史実を映画化すればそうなります。前に、チェスプレイヤーのボビー・フィッシャーに関する映画(完全なるチェックメイト )を見ました。
フィッシャーがスパスキーに勝つこと自体は、フィッシャーについて知識のある人なら誰でも知っていますが、しかしわかっていてもやはり面白いというわけです。まあそう考えれば、「007」は最後にボンドが勝つことはわかっていますし、「水戸黄門」ほかそのようなラストがわかっているものはたくさんありますが、そのあたりは作り手の才覚ですよね。
実際、「カリートの道」のように、ラストを冒頭で教えちゃう作品もあるわけで、そのあたりはまさに映画力、みたいなものがあればそれでも面白い映画になるわけです。つまりは、ラストが決まれば、その映画は出来がいい、と言っても過言でないかもです。私がいろいろ勉強させていただいているogatさんのブログで、ogatさんは私へのコメント返しの中で、
>個人的にはハッピーエンドの映画が好きですが(誰でもそうかもしれませんが)、絶望的だからこそ感動するラストというのも無数にあるわけで、結局ラストの良さというのは、それがハッピーエンドかバッドエンドかという尺度で計れるものではないのでしょうね。
とおっしゃっていました。心の底から同感します。
今日の写真は、すべてポスターあるいは、DVDジャケットといったものに限らせていただきました。また写真の大きさには他意はありませんことをお断りしておきます。