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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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ALS患者である土居喜久子さんの死を知る

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書籍関係というのとは少し違うのかもですが、本によって詳細を知った方ですので。私は父が筋萎縮性側索硬化症(ALS)で死亡したこともあり、この病気に強い関心を持っています。

6月1日の木曜日、なんてこともなかったのですが、「土居喜久子 ALS」と検索してみたところ、彼女が亡くなっていたことを知りました。土居さんは、大分県在住だったALS患者です。下の記事の執筆者は、土居さんの主治医です。

追悼 土居喜久子さん

>2014年2月18日 追悼 土居喜久子さん

土居喜久子さんが亡くなられた。2月9日のことであった。あと一日で77歳に届くという日であった。 

土居さんの名前を聞いてピンとくる人も少ないでしょうが、ずいぶん以前ですが、著作を出しています。

まぶたでつづるALSの日々

この本を読んだのは、父がALSになるずっとずっと前でしたが、著者である土居喜久子さんは、(たぶん)1989年に発病し、90年5月にALSと診断されます。91年1月には在宅療養が難しくなり、同じ年の5月に呼吸困難になり、気管切開を行いました。その後外出などもしたりできるようになったり、親類(姪の方)が大分に介護関係の就職をして介護してくれるようになったりといったことが記されています。本は、98年出版です。

私がこの本を読んだのはいつごろか定かでありませんが、もうずいぶん以前の出版ですから、すでに土居さん亡くなったのだろうなと、これまたずいぶん前に考えたことがあります。しかし彼女は、発病してから四半世紀生き延びたわけです。ずっと後に発病した父よりも遅くまで生きたわけです。父が死んだのは、13年の5月末です。

ついでに書くと、私の父は3月では話もできましたが、5月の末には呼吸できなくなり死亡しました。驚かんばかりの進行の早さですが、ALSというのはまさに進行も千差万別です。結果として長生きした土居さんですが、著書の中で

>五本の指が、小指から一日に一本ずつ、五日で動かなくなり(p.21)

と書いているくらいです。その時の彼女の恐怖は、察するに余りあります。

ところで、上で

>執筆者は、土居さんの主治医です。

と書きましたが、主治医である山本真医師は、90年の5月にたまたま土居さんを診察しました。その時のことを、上の本の中で、

>日常的な管理なら私でもできるかな、それに病院の近くに家があるわけで、できたら診てあげたいなと、その依頼を引き受けました。それに治療法がないと専門医がお手上げなら、私が診ても悪くはないだろうと考えました。(p.220)

と書いておられます。さらに、

>筋萎縮性側索硬化症、略称ALS。この病気の名前は知っていました。単に手足が動かせなくなるだけでなく、呼吸や食事を自力でとることもできなくなる絶望的な神経難病。私の出た医大では神経内科の口座がなく、ポリクリ(臨床実習)でお目にかかったこともあったかどうかという程度で、おそらく自分が主治医になることなどはないと思っていました。(中略)神経難病は神経内科医の仕事であって、呼吸器科医である自分とは関係がないと思っていました。

と書いているくらいです。つまり、まったくALSとは無縁な医師だったし、勤務先の病院(大分協和病院)も、ALS患者の受け入れなどしていなかったわけです。HPによると、病院が本格的に開院したのは1987年だとのことで、そう考えるとその時点ではわりと柔軟な対応をしてくれていたのかもしれません。現在山本氏は同じ病院の院長です。

それで土居さんを受け入れたためといっていいと思いますが、山本医師はALS関係では名の知れた医師となり、大分協和病院もALS患者を複数受け入れるようになり、またALS患者も在宅で過ごすことができるようになったということです。そう考えると世の中って、本当にわずかな偶然、タイミングによって動くんだなと思います。たまたま土居喜久子さんの具合が悪く、連絡したいくつかの病院(地元の大学病院をふくむ)から入院、診察を断られ、そしてたまたま電話した病院の、たまたま話を聞いた医師が、いわば非常に偶然の要素の強い事情で土居さんを受け入れ、そしてそれが、その医師、病院、地域医療の在り方まで大きな変化をもたらしたわけです。土居さんが山本医師と出会わなければ、大分県のALS患者の状況はまた異なっていたし、あるいはそれ以前に山本医師でなくても話を聞いてくれて診療してくれる医師に土居さんでないかもしれないALS患者が出会っていれば、もっと早く体制が整っていたかもしれないわけです。

世の中、こういったことは相当に偶然が作用するのだなと改めて思います。そう考えると、土居さんも、偶然にALSに罹患し、そして期せずしてALS患者の外出や在宅療養などのパイオニアみたいになったということです。それはもちろん幸福なことではありませんが、人生にはそんな予想もできないことが起きることがあるということです。

土居喜久子さんのご冥福をお祈りいたしまして、この記事を終えます。このブログでは、ALSについてはこれからもこだわっていきたいと思います。


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