身内が亡くなった際に衝撃を感じる順番は、たぶん
子ども→配偶者→親
でないかと思います。もちろんそうでない場合もありましょうが、親がいて配偶者がいて子どもがいる人なら、だいたいこの順で衝撃を受けると思います。ではなぜそうなのかというと、たぶんいちばん大きな理由は、死に対する予測とその覚悟によるものでしょう。
つまり、親というのはある程度の年齢になれば、いやがおうでもその死というものを覚悟せざるをえません。私も、さすがにここ何年かは父の死というものをそれなりに考えました。そして現実に亡くなると、やはり覚悟をしていたせいもあり、衝撃そのものはさほど大きくはありませんでした。むしろボディブローではありませんが、重く精神に響いた、というものがあります。
そう考えると、やはり配偶者の死は、親の死よりもショックを受けやすいのでしょう。だいたいにおいて男と女では、男のほうが配偶者の死にダメージを受けるもののようです。その理由として、女のほうが男より精神がタフだからだと説明されますが、そしてそれは事実でしょうが、私はそういった生理的な問題以前として、死への心構えと覚悟の問題が大きいのではないかと考えます。一般に男と女では男のほうが平均寿命が短く、またカップルは平均して男のほうが年長ですから、そうすると男のほうが平均すればたいていの場合先に死ぬわけで、夫婦ともどもそれは認識していますが、夫のほうは奥さんが先に死ぬと予想に反しますから、大いに狼狽するわけです。
そう考えると、子どもの死に親が激しい衝撃を受けるのも当然でしょう。たいていの親は、自分より先に子どもが亡くなるとは予想していません。特にいまの先進国では、子どもが若くして死ぬことはそんなにない。ましてや日本は平和で衛生状態がよく治安もいいし交通事故などもさほど多くないから、不慮の死を遂げる可能性も他の先進国と比較しても相対的に高くない。例外的に(さまざまな理由で)お子さんを亡くした親御さんは気の毒です。
そういえば、私の高校の同級生(付き合いはありませんでした)が不慮の事故で意識不明の重体になったことがあります。私も見舞いに行きましたが、人工呼吸機につながれていて、彼の身内は泣きっぱなしでとてもいたたまれない気分になりました。今にしてみれば、たぶん脳死の状態だったのでしょう。まもなく彼は亡くなりました。
また私の従兄(父の妹の息子)も、(たぶん)心臓関係の病で急死しました。その母親に先立った死でしたから、父の妹はだいぶ嘆いていました。
しかしそういろいろ思索をめぐらすと、やはり平和というのは偉大ですね。戦後日本は戦争により大量に戦死するということがなくなったし、人間が長生きになったのも、医療そのものの発達ばかりでなく、社会インフラの整備や公衆衛生の改善が大きいわけです。上下水道ができれば寿命はのびます。感染症の死が激減するわけです。
余談が過ぎました。似たような話はきょうだいにもいえるわけで、私の父は兄がいて彼は生きています。くりかえし
「××ちゃん(父)が自分より先に逝くとは思わなかった」
と私に語りました。順番どおりというのもなんですが、ある程度年齢のいった世代になれば、自分の弟や妹が自分より先に死ぬのはあまりいい気持ちにはなりません。複雑な気分になるのは避けられないところです。
好きで死ぬわけではないのですから(自殺だって「好きで」死ぬわけでもないでしょう)どうにもならないわけですが、やはり親より先には死なないことも親孝行のひとつなのだと思います。