当ブログのネタ元の一つに、TBSの番組である「バース・デイ」というのがあります。それで、その番組の9月3日放送分で地方競馬である名古屋競馬の騎手をつとめ、1度引退のあと8月から復活した(騎手免許再取得は7月)女性騎手宮下瞳という人を特集していました。番組HPから引用しますと、
>名古屋競馬場所属宮下瞳。通算626勝は女性として群を抜く成績、国内最強を誇ったが、2011年34歳で引退。惜しまれながら競馬界を去った。しかし引退から5年が過ぎ、39歳になった2016年、現役に復帰。日本の競馬界で、1度引退した女性騎手が現役復帰を果たしたのは史上初。いったい何が宮下を突き動かしたのか?一旦は主婦となり、家事と育児に幸せを感じていたはずの彼女が、なぜ命の危険と隣り合わせの騎手という仕事に戻ると決めたのか?1人の女性の知られざる心の真実を追った。
現役復帰をする前、宮下は4歳と1歳になる2人の子どもを持ち毎日育児に追われる日々を過ごしていた。9歳年上の夫・信行さんも名古屋競馬の騎手。先輩・後輩という間柄から交際に発展し、宮下が現役だった2005年に結婚した。長男を妊娠し引退して以降は、競馬場の社宅で夫を支えながら子育ての日々。しかし、専業主婦ではいられなかった。家計のためにアルバイトをしなければならない。それが現実だった。地方競馬の騎手の収入は、決して恵まれたものではない。名古屋競馬では、賞金15万円前後というレースも珍しくなく、騎手の取り分はそのうち5%、1着になっても手元に入るのは1万円以下がほとんど。
(後略)
HPではそこまでは書かれていませんが、番組の中で彼女は、次のように語っていました。なお彼女の夫は9歳年上とのことですから、年齢は50ちょっと前くらいです。確認すると1968年11月28日生まれです(こちらより)。
(大要)
(自分の夫は)そんなに騎乗も多くないし、勝つのも多くない。(一般)サラリーマンより収入は少ない。300万円くらいの収入でないか。
テレビでは、「収入」とは言っていませんでしたが(スーパーで補っていました)、たぶん手取り(所得)ではないでしょうから、収入なんでしょうね。ここから税金や社会保険料その他が引かれるわけですから、1人ものなら大丈夫ですが、4人家族で、しかも子どもが幼いのでは大変ですね。今後収入が上がっていくのならいいですが、たぶん下がる公算が大きい。そうなると、やっぱり奥さんも働かなければいけません。専業主婦なんかやってられない。
しかしここで大きな問題が生じます。彼女は、学歴としては中卒になります。基本的に高卒で騎手になるのは、年齢制限は大丈夫ですが、現実問題として困難です。中央競馬は競馬学校、地方競馬は、地方競馬教養センターに入所します。募集要項によると、15歳以上20歳以下ですが、騎手の特性上高卒以上ですと訓練についていくのが大変なので、だいたい中学卒業後に入所します。それで競馬学校も同じですが、課程を修了しても高卒の扱いにはなりませんから、身分としては中卒になります。競馬という世界だけならそれで構いませんが、それ以外ですとこれが問題になります。
以前「空きっ腹と乗馬靴 競馬学校の青春」という本を読みました。そこで著者(以前拙ブログでもとりあげた阿部珠樹氏)が大要「騎手たちは、引退後も競馬業界で食っていける」という趣旨のことを実例を挙げて説明していまして、、その時は「はあそうかいな」と思っただけなのですが、これは当たり前な話です。騎手をやめて、じゃ後は勝手にしろでは、中卒で騎手以外職業経験がなければ、本当に冗談でなく生きていくのですらいろいろ困難になりかねません。そうなれば、騎手をやめても調教師とまでは言わずとも競馬業界でそれなりに食っていける体制を作らなければ、怖くて騎手にはなれません。
それで宮下がどういうアルバイトをしたのかは具体的には番組内で説明はありませんでしたが(ほかでは書いてあるのかもですが、今回はそこまで調べることはしません)、こういっては何ですが、事務の仕事とかは難しいでしょうから、店員とか工場とかそういうたぐいの仕事なのでしょうね、きっと。おそらくそんなに割の合う仕事ではない。そう考えると、騎手に復活するのは大変合理的な選択ですね。それが彼女にとっては一番割がいいのだから。割のいい仕事をするのは非常にいいことです。
ただ彼女は構造的な理由で高校進学がかなわなかったわけですが、やはり高校を卒業しないと人生いろいろなところで苦労はするなと思います。前に、スノーボードの今井メロの話を書いたことがあります。
学校とか勉強とかを軽視すると、ろくなことがないその記事で引用したWikipediaの記述(当時。現在編集・削除されているかは未確認)にこのようなところがありました。、
>幼少時にモーグル選手としても全日本に参戦し、12歳で史上最年少プロスノーボーダーに認定される。大阪市立加賀屋中学校卒業後、スノーボードに専念するため高校には進学せず、冬は主に長野県で練習してきた。
高校くらいは出ていれば、彼女ももう少しまともな人生が歩めたといってもいいんじゃないんですかね。宮下瞳に限らず騎手などはそもそも高卒では困難ですが、この辺りは真剣に考える必要はあろうかと思います。競馬業界を去った元騎手その他の人たちは、それなりの苦労はしているでしょう。そう考えると、上の記事のタイトルのように、学校とか勉強とかを軽視するのはやはりよくないなと思います。学校、学歴、学問、知識、教養、勉強、そういったこと(学業)を甘く見ていると、後で損をします。学問を笑うものは、学問に泣くです。
それはともかく、宮下瞳さんの今後の健闘を祈って、本日の記事を終えます。