読者の皆様もご存じの事故についての記事を。
>運転の87歳、車で徘徊か 自宅も素通り 横浜小1死亡
朝日新聞デジタル 11/4(金) 12:01配信
運転の87歳、車で徘徊か 自宅も素通り 横浜小1死亡
「天国へ行っても、勉強がんばってね」というメッセージを紙に書いて供える男性=4日午前7時28分、横浜市港南区大久保1丁目、小玉重隆撮影
横浜市港南区の市道で集団登校中の小学生の列に軽トラックが突っ込み、1年生の男児が死亡した事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いで逮捕された合田政市(ごうだまさいち)容疑者(87)は、事故前日の朝に車で自宅を出てから帰宅せず、自宅前も素通りしていたことが捜査関係者への取材でわかった。車に乗って徘徊(はいかい)していた疑いがあり、神奈川県警は判断能力を見極めるため、精神鑑定のための留置が必要との見方を強めている。
捜査関係者によると、合田容疑者は事故前日の10月27日朝に横浜市磯子区の自宅を出発し、川崎市を通って東京都内に入ったが、すぐに神奈川県内に引き返していたという。その後は事故を起こす翌28日朝まで、横浜市周辺を車で断続的に走っていたとみられる。2カ所で給油をしていた。
車の荷台には家庭ごみなどが載せられており、合田容疑者は「ごみを捨てに出た」と話しているという。一方で、「どこを走ったか覚えていない」「道に迷った」などと説明があいまいで、供述調書がまとめられない状態という。
合田容疑者は2013年12月に免許を更新する前、同年11月に検査を受けて認知機能に問題はなかったとされる。(飯塚直人、古田寛也)
さらに次のような記事も。
>「自宅わからず迷っていた」 横浜小1男児死亡事故
テレビ朝日系(ANN) 11/6(日) 13:44配信
横浜市で小学1年の男の子が死亡した事故で、逮捕された男は「自宅が分からなくなり、迷っていた」と話していることが分かりました。
87歳の合田政市容疑者は、横浜市港南区で集団登校していた小学生の列に車で突っ込み、田代優君(6)を死亡させるなどした疑いが持たれています。その後の警察への取材で、合田容疑者が「自宅の場所が分からなくなり、道に迷っていた」と話していることが分かりました。合田容疑者は事件当日の朝、自宅の前を何度も素通りするなど車でうろうろしていた可能性があり、警察は合田容疑者を事故現場に立ち会わせて調べるとともに認知症の検査を行う方針です。
>合田容疑者が「自宅の場所が分からなくなり、道に迷っていた」と話していることが分かりました。合田容疑者は事件当日の朝、自宅の前を何度も素通りするなど車でうろうろしていた可能性があり
それが事実とすると、本人なんとか家の近くまで来ることはできていたが、かなり途方に暮れている状況だったのかもしれませんね。
昨年下のような記事を書きました。
認知症というのも、なったら大変だと思うそのとき私が面接した男性は、自分の住所も電話番号も満足に答えることができませんでした。それでちゃんと効力のある運転免許証を持っていたのには「どうもなあ」でした。この人については、さすがに次の免許証更新の際に更新を断念するかはたまた認知症検査によって更新不可になる可能性が大だと思いますが、しかし少なくともその時点では車に乗ることは何の問題もないわけです。また、現実問題として、免許証がなくても車は運転できます。
さらにちょうどそのころ起きて話題となった事件に、阪急電鉄デロリアン事件があります。当時引用した記事を一部引用します。
>調べに対し、増井容疑者は「大阪の友達に会いに来た。道に迷って線路に入ってしまった」と容疑を認めている。
引用した記事にはそこまで書かれていませんが、警察の取り調べでは、逮捕された運転手の人は、その友人の名前、連絡先ほかも満足に答えられなかったそうです。そもそもなぜその友人と会おうと考えたのか、なんの当てがあったのか、会う必要があったのか、さっぱりわかりません。たぶん逮捕された人は、そんなことを答えられる状況ではなかったのでしょう。
それで、阪急電鉄の事件では幸い死者、けが人が出るに至りませんでしたが、今回の横浜の事件は、まさに死人を出してしまうという最悪の事態になったわけです。それでこのような事故は、正直防ぐのが極めて困難だと思います。事故にあった少年に落ち度があったわけではもちろんない。ある意味どうしようもないと思います。そして運転手の男性も、刑事訴追に耐えられる人間かもきわめて怪しい。それでこちらの記事を。
>2016.3.1 15:06
認知症事故訴訟、家族に賠償責任なし JR東海の逆転敗訴が確定 最高裁判決
責任能力がない認知症男性=当時(91)=が徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した事故で、家族が鉄道会社への賠償責任を負うかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は1日、男性の妻に賠償を命じた2審名古屋高裁判決を破棄、JR東海側の逆転敗訴を言い渡した。判決が確定した。
高齢者の4人に1人が予備軍とされ、平成27年で約520万人、37年で約700万人まで増加すると厚生労働省が推計する認知症。最高裁が示した判断は、認知症など高齢者介護の現場に影響を与えそうだ。
争点は認知症高齢者を介護する家族の監督義務。民法714条では、認知症などが原因で責任能力がない人が損害を与えた場合、被害者救済として「監督義務者」が原則として賠償責任を負うと規定している。1審名古屋地裁は、「目を離さず見守ることを怠った」と男性の妻の責任を認定。長男も「事実上の監督者で適切な措置を取らなかった」として2人に請求通り720万円の賠償を命令した。2審名古屋高裁は「20年以上男性と別居しており、監督者に該当しない」として長男への請求を棄却。妻の責任は1審に続き認定し、359万円の支払いを命じた。
ただ、同居していた妻は高齢の上、「要介護1」の認定を受けていたなど「監督義務を負わせるのは酷だ」と、1、2審判決に批判も多い。また、介護の方針を決定していたとされる長男の責任についても、認知症を抱える家族らから「同居していない家族に責任を負わせれば、家族による積極関与が失われ、介護の現場は崩壊する」と反発が出ていた。
平成19年12月7日、愛知県大府市で徘徊症状のある男性が電車にはねられ死亡。男性は当時「要介護4」の認定を受けていたが、同居していた当時85歳の妻らが目を離したすきに男性は外出していた。事故後、JR東海と遺族は賠償について協議したが合意に至らず、22年、JR側が「運行に支障が出た」として遺族に720万円の支払いを求めて提訴した。
今回の事件では、刑事訴追は難しい問題もあるかもですが、民事上の問題も重大です。JR東海と今回の被害者の家族とでは、受ける損害とか重大さがちょっと比較の対象にもならなさそうです。このような事件は今後も起きることは必至と考えられるので、本当にいろいろな問題が出てきますね。アルコール依存症の人間が酔っ払い運転をして人身事故を起こすことよりも、認知症の運転の人間が重大事故を起こすということのほうが、あるいはより本質的に重大な問題かもですね。アルコール依存症の人間よりもたぶん認知症の人間のほうが、刑罰による抑止効果も少ないでしょう。
最高裁の判例も、上の判決にみられるようにまだまだ定まっていません。こういうことは、やはり保険でいかに対応するかしかないのでしょうが、いろいろ難しい問題が山積です。認知症(と思われる)人間の交通事故については、今後も私なりに注目していきたいと思います。
亡くなった小学生のご冥福をお祈りして記事を終えます。