過日あった刑事裁判の話を。読売新聞より。
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http://www.yomiuri.co.jp/national/20161102-OYT1T50075.html
3人死傷の飲酒事故、危険運転認めず…大阪地裁
2016年11月02日 14時43分
大阪市中央区西心斎橋で昨年5月、飲酒運転で1人を死亡させ、2人に重軽傷を負わせたとして、自動車運転死傷行為処罰法の危険運転致死傷罪などに問われた元美容師の被告の女(26)の裁判員裁判で、大阪地裁は2日、同法の過失運転致死傷罪を適用し、懲役3年6月の実刑判決を言い渡した。
飯島健太郎裁判長は「被害者に気づいてブレーキを踏もうとするなど、被告はその場の状況に応じた運転をしており、飲酒の影響で正常な運転が困難な状況だったとまでは認められない」と述べ、危険運転致死傷罪の成立は認めなかった。
この事故で大阪地検は当初、「飲酒の影響は限定的」として過失運転致死傷罪で起訴したが、遺族らは昨年8月、法定刑の重い危険運転致死傷罪の適用を求め、約17万人分の署名を地検などに提出。再捜査した地検は公判途中で訴因変更し、今年10月から改めて裁判員裁判で審理されていた。
判決によると、被告は昨年5月11日未明、西心斎橋の駐車場出口の道路でブレーキとアクセルを踏み間違え、自転車に乗っていた河本恵果けいかさん(当時24歳)をはねて死亡させ、友人ら2人に重軽傷を負わせた。
判決後に記者会見した恵果さんの母、友紀ゆきさん(44)は「判決を聞き、頭が真っ白になった。これでは娘の死が全く報われない。(危険運転致死傷罪の)ハードルが高すぎ、このままでは飲酒運転はなくならないと思う。検察官は控訴してほしい」と涙ながらに話した。
記事中私が引っかかったのがこちら。
>この事故で大阪地検は当初、「飲酒の影響は限定的」として過失運転致死傷罪で起訴したが、遺族らは昨年8月、法定刑の重い危険運転致死傷罪の適用を求め、約17万人分の署名を地検などに提出。再捜査した地検は公判途中で訴因変更し、今年10月から改めて裁判員裁判で審理されていた。
刑事裁判における訴因変更って、署名とかをすることが後押しになってされるってこともあるってことなんですか? それ刑事裁判の趣旨としておかしいんじゃないんですかね。
ご遺族の気持ちはわかりますが、しかしそもそも論として、もともと危険運転致死傷罪の適用は困難だと検察も認識していたってことでしょ。でなければ、最初からそれで起訴していたでしょう。だから裁判員裁判でも、
>被害者に気づいてブレーキを踏もうとするなど、被告はその場の状況に応じた運転をしており、飲酒の影響で正常な運転が困難な状況だったとまでは認められない
ってことになったんじゃないんですかね。もちろん検察が控訴したとして、高裁でどう判断されるかはわかりませんが、たくさん署名が集まった、ならより重い罪に訴因変更しようってのは、私には悪しきポピュリズムにしか思えませんけどね。そういうことは、冷徹に行うべきじゃないですかね。遺族の気持ちがわかるということと、そうすることが正しいかどうかというのはまた話が違うでしょう。
だいたい犯罪被害者、その家族、あるいは遺族の気が済むように重罰を課すというのは刑事裁判の目的ではないでしょうに。それはそれ、これはこれでしょう。あんまりマスコミも、このような感情論を垂れ流すというのはいいことではないと思います。これは記者会見での発言ですから、報道も仕方ない側面もありますが、それが極端になると、私がご紹介した毎日新聞の、闇サイト殺人事件の被害者母親の言語道断の講演を垂れ流す論外の極致の記事になるわけです。
裁判官が判例に固執することを批判して、なにがどうなってほしいんだかどうでもいい話ですが、この記事を書いた記者あるいは新聞社に「貴記者と貴紙は、この母親の発言を支持するのか」と聞いたら、たぶんお答えなしか「この母親の見解を紹介しただけである」という答えしか返ってこないでしょう。そう考えたので、私はこの記事への抗議のメールを出さなかったのですが、これは間違いでした。回答なし、あるいは言質を取るために、抗議メールを送るべきでした。反省しています。
ところで、これはまた話が違いますが、
>検察官は控訴してほしい
というのは、検察はどう判断するんですかね。たしか
そんなことを言うのであれば、検察は今後裁判員裁判では、量刑不当の控訴はしないのかという話になる
検察は、裁判員裁判での量刑を最大限尊重するんじゃなかったっけ
では、裁判員裁判においては、量刑不当の控訴はよくないという考えでいると思ったのですが、これは危険運転致死傷罪の成立を認めなかったのは不当だという論理構成で控訴する可能性もありますね。いずれにせよ、控訴ということになったら、私なりにこの裁判の今後を見守っていきたいと思います。