私がよくわからないことのひとつに、世の中の「反中」というのがあります。
中国の政治体制や人権弾圧に否定的、批判的なのは大いに結構だし、私も同じですが、しかしだからといって日本が今後中国と悪い関係になるとかという選択肢は現実問題としてありえないんじゃないかと思うわけです。
中国の現状を批判するのはいいですが、それは残念ながら中国と関わらないで今後日本がやっていくということを前提とするというものではないでしょう(そこまでは主張していないという話になりますが、代表的な「反中」の存在である櫻井よしことかの話を読んでいると、彼女が中国とまともな意味でいい関係を構築しようという意思があるようには思えません)。櫻井よしこが死ぬまでも、彼女よりずっと若い私が死ぬまでも、そしていま生まれたばかりの子どもが死ぬよりずっと後までも、日本は中国といい関係を築いていくという選択肢しかないんじゃないんですかねえ。これは「中国嫌い」とかなんとかということとは次元の違う話でしょう。
安倍晋三が首相じゃなかった時にインドでほざいた愚にもつかない話を批判した際にも紹介しましたように、いま日本の中国との貿易額を考えるだけで、日本と中国が抜き差しならぬ関係にあるなんてことは中学生だって、いや、社会科の教科書を理解できるくらいの知能のある小学生だってじゅうぶんに理解できます。それなら日本は中国といい関係を続けていかなければ損、っていうかものすごい損、致命的なまでの損です。実際、中国と日本が本当に悪い関係になり、国交断絶というのはさすがに現実的ではありませんが、貿易が滞る(これもそのような事態が起きるまでに日本も中国も全力で関係改善に動くでしょうけど)なんて事態が生じただけで、本当に日本は困っちゃいますよ。たとえば金に困って「国家基本問題研究所」の会費や産経新聞の購読代、反中右翼雑誌の購入の費用も控える、なんてことにもなりかねません(マジですよ、これ)。また、たとえば会社の経営状態が悪くなって、産経や『SAPIO』などへの広告出稿を見合わせる、なんてことは現実にありえる話じゃありませんかね。いや、たぶんそういう企業は必ずでます。
私は、「国家基本問題研究所」がインドにやたらお熱をあげている理由のひとつは、たぶんインドを中国に対抗させると存在として期待しているのと同時にインドを中国の代替の国としたいという願望があるのだと思います。おそらく経済上も中国のかわりにインドがその役割を担う、ということを最終的には期待しているのではないでしょうか。
私の考えが正しいとして(もちろん正しいかどうかは分かりません)、地球儀を見るまでもなく、そんなことは実現しないと思いますが、ともかく中国のもつ経済上の位置づけは、今後の日本を徹底的に左右します。世の中、政治より経済のほうがよっぽど正直に現実や実状に左右されます。
たとえば南アフリカのアパルトヘイトだって、南アフリカの財界は、白人政権がアパルトヘイトを廃止するとっくの以前にアパルトヘイトに批判的でした。理由は、アパルトヘイトを継続するための行政コストが馬鹿にならず(それは当然南アフリカ経済に悪い影響をもたらします)、はたまた欧米、日本その他の経済制裁や周辺アフリカ諸国との関係の悪さが、アパルトヘイトを実行することのプラス面(というのもひどい話ですが、よろず差別もなにも究極のところは経済です)をはるかに凌駕するほどのマイナスになったからです。
櫻井よしこが大好き(笑)な台湾だってそうじゃないですか。民進党がすすめようとした台湾独立路線がけっきょく台湾の有権者たちの支持を得るにいたらなかったのは、いろいろ理由はありますが、台湾と大陸との経済関係がきわめて緊密になり、関係悪化という選択肢が現実的でないということは大きなファクターのはず。いまの台湾の人たちにとって、自分たちの経済力を維持し発展していくことがもっとも大事なことだと考えるのであれば、国民党が政権を奪還するというのはとても常識的な判断でしょう(昨年の総統選挙などは、民進党も以前のような対大陸強硬路線を唱えていたわけではありませんが)。
はたまた、ソ連の崩壊だって東欧の政治変革だってユーゴスラヴィア解体だって、究極は経済の話でしょう。ソ連邦中央政府が連邦内各共和国にそれなりの銭を出せた時代はソ連の支配はがっちりしていました。東欧各国もご同様。中国も、いまのような経済成長が続く限りは中国共産党支配は不変でしょう。
だから私は、チベット問題やウイグル問題で、「自治」とか「独立」が本当に現実的な問題になるのは、中国の経済状態がその維持が難しくなるくらい悪くなったときだと考えています。それまでは、どちらも中国の中にとどまるほうが「独立」を目指すより経済的にはるかに有利ということになります。現ダライ・ラマ存命中に、中国がチベットを確保しきれなくなる日が来ることは絶望的に期待できませんから、彼がラサにもどる日は来ないでしょう。彼もチベット亡命政府も覚悟していることです。
そしてそれは、日本の自民党政権も同じでしょう。なにはともあれ各方面にそれなりの利益を分配できた時代は、選挙で自民党が負けるなんてことは現実問題としてありえませんでしたが、それが難しくなったら選挙でも自民党が厳しい状態になったことの象徴が09年の選挙での敗北でしょう。いまの自民党が稚拙な右翼イデオロギーを振り回すようになった理由の1つが、利益の分配が難しくなったため、イデオロギーで有権者の支持をつなげようとしているということだというわけです(個人的には、あまりそれに成功しているようには思いませんが)。
けっきょく世の中、金をあるていどさまざまな方面にばらまければ政治体制も政権もそれなりには安泰だということです。右翼も左翼も「イデオロギー」では食っていけないのは世の習いです。
ともかく政治と経済では、経済のほうがよっぽど現実と実状に正直です。「反中」なんてことをいくら振り回しても、中国に本当に対峙することは現実問題としてなかなかできないと思います。
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経済のほうが政治よりよっぽど現実(実状)に正直だ
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