やや旧聞で恐縮です。私も記事にしましたが、香港が中国に返還されて20年とのことで、香港に習近平国家主席がやってきて式典が行われました。下の記事を(すでにリンク切れ)。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn?a=20170701-00000034-nnn-int
>香港“独立動き許さず”習主席に反発、デモ
日本テレビ系(NNN) 7/1(土) 17:55配信
香港で1日、中国への返還20年を記念する式典が開かれ、演説した習近平国家主席は独立の動きは「絶対に許さない」と強く警告した。市内では民主派らによるデモが始まっている。
香港市内ではここ数日間でもっとも大規模なデモが始まった。香港に真の民主政治はないなどと現状を嘆き、中国を批判している。
習近平国家主席は6月29日に香港に到着してから、高度な自治を認めた一国二制度を「堅持する」と強調するなど、配慮をにじませてきたが、1日の演説では独立を求める動きに対して、強い言葉で警告した。
習近平国家主席「(安全や主権に対する)全ての破壊活動は越えてはいけない一線で、絶対に許さない」
こうした習主席の言葉に対して、デモに参加した人は反発している。
デモ参加者「習主席の演説は我々香港人には理解できない」「(習主席は)香港に自由をもたらすという約束を守ってほしい」「我々が培ってきた香港の文化や価値観を壊さないでほしい」
習主席にとって、秋に重要な共産党大会を控える中、香港の安定は絶対条件。今回、当局は、デモ隊の動きを厳しく規制し、混乱を徹底して封じ込めた。1日のデモが始まったのも、習主席が香港を離れた後からで、中国の最高指導者がデモ隊の主張を直接目にする事はなかった。
最終更新:7/1(土) 17:55
で、上の記事を読んでいて、「おや」と思ったのがこちら。
>習主席の演説は我々香港人には理解できない
いや、それは習主席の発言は当然でしょう。かつて私は、胡均祷前国家主席がチベット自治区書記時代に記者会見で発した次の発言をご紹介しました。
>中国政府の立場は、一〇〇年、一〇〇〇年も変わらない。分離独立は認めない。認めるものは民族の罪人だ
中国の国家主席あるいは共産党や政府の幹部が、チベット自治区だろうが香港だろうが独立を許さないと発言するのは当然でしょう。善悪の問題ではありません。「独立も仕方ない」という趣旨の発言をするわけがない。こんなことを
>習主席の演説は我々香港人には理解できない
ということ自体私にはさっぱり理解できません。
あ、断っておきますが、私は香港の独立の現実性、妥当性、あるいは香港に対する中国の関与の妥当性、この件の今後の推移の予測について議論しているのではありませんよ。そうではなくて、中国政府が香港ほかの分離独立を許さないのは当然のことだということです。これはほかの国だっておなじでしょう。
現段階そのような主張に現実的な力があるわけではないですが、沖縄県が独立をするという運動が強くなった場合、日本政府がそれを許すかです。許さないでしょう。英国は、スコットランド独立に対して、好意的な態度をとっていますかね? 独立の是非を問う投票にしたって、あれは独立派は勝利しないだろうという見通しの下に行われたものでしょう。キャメロン首相(当時)は、このときの賭けにはなんとか勝ちましたが、EU離脱国民投票では、離脱派の勝利はないだろうという見通しが外れて敗北したわけです。スペインは、バスクやカタルーニャの独立志向に対して民族自決とかで独立を容易に認めますかね? 無理な相談でしょう。民主主義国家ならそのような要求にこたえるというものではない。
あるいは民主主義の闘志として世界的に評判の高いアウンサンスーチーは、ミャンマーの少数民族が独立を要求したからといっておいそれと応じますかね。これもできない相談でしょう。これは、アウンサンスーチーが個人的にどう考えているかといったこととは別の次元の話です。
旧ソ連、旧ユーゴ、旧チェコスロヴァキアにしたって、いずれも中央政府の力が国のつながりを保つだけの能力がなくなったから分離・分裂・分割・独立ということになったわけであって、中央政府が率先してどうぞどうぞ、ぜひ独立してくださいなんて訴えたとかいう話ではない。東ティモールや南スーダンだって似たようなものでしょう。
ある国が独立する、分割される、合併するなどというのは、植民地解放とか植民地宗主国の戦争での敗北(第二次大戦での日本がその典型)とか第一次世界大戦後のハプスブルク家崩壊とか、あるいは東欧の民主化のような事態でもないとそうそう容易にあるわけではありません。台湾だって、事実上の独立国ではありますが、現状正式な独立宣言なんてできる状況ではない。
そう考えれば、新中国が1949年に成立してからも、いろいろな事情はありながらも、じっと我慢で、1997年の新界の租借期限満了を待った中国が、香港の独立を許すわけもないでしょう。許さざるをえないくらい国の状況が傾いているわけでもない。そういうことを認識していなければ、妥当な判断も何もできないでしょう。
なお、上の独立の問題と共通しますが、そもそも論として民族問題というのは民主主義国家なら存在しないというものでもありません。議会制民主主義国であり議院内閣制の権化である英国だって、北アイルランド問題ではすさまじいテロが長きにわたって続いていたわけだし、インターンメントと呼ばれる人権侵害をともなう強権措置を発動したくらいです。上のスコットランド独立だって同じでしょう。スペインなどもしかり。民主主義がそれなりに整備されていればそのような問題は生じないということではない。
いずれにせよこのような問題は、中国特有の問題ではないということは最低認識しないと妥当な判断はできないと考えます。なおこの記事は、bogus-simotukareさんの記事に寄せたコメントを基にした部分があります。また氏のいろいろな記事も参考にしています。例によってお礼を申し上げます。