先日、過日の記事で取り上げたこちらの本を読みました。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
この本には、「砂の器」などに出演した春田和秀さんらのインタビューが収録されていますが、彼(女)らはいわば職業的子役のわけです。事務所に所属し、さまざまな映画やドラマへの出演、広告などのモデルほかの仕事をするわけです。が、時にそのようなあり方を異とする子役もいます。
今年の「午前十時の映画祭」で、「泥の河」が公開されました。
小栗康平監督のデビュー作にして、現段階最高傑作でしょうが(といいますか、ややこの作品が抜けた出来なので、小栗監督のその後は、この映画の栄光を追っかけているようなものだといったらひどいですが、実際にはそのようなものでしょう)、この映画では3人の子役が印象に残ります。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
田村高廣、藤田弓子の夫婦の子どもである 、彼がこの映画の主人公です。そして近くの運河に係留している廓船の2人の子ども、姉の柴田真生子、弟の です。
この映画を観た後、この子役3人のその後をちょっと追ってみたのですが、この映画以外の何らかの芸能活動を確認できませんでした。2013年の朝日新聞の記事(引用は、こちらのブログさんから)によると
> 「泥の河」では、出会い、親しくなりながら、別れていく3人の子供たちが主役だ。大阪で行われたオーディションで、300人の中から選ばれた。
小栗康平監督は採用後、まず半月あまり、自分のアパートで3人と暮らした。生卵のおかずだけの朝食を食べ、銭湯に行き、夜は布団を並べて寝ながら話をした。
撮影では宿泊所に50日間寝泊まりし、両親が子供たちに会ったのは、「わずか5分か10分」で、電話も控えてもらったという。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
とあり、素人の子どもを小栗監督なりに鍛え上げてあの映画の撮影に臨んだようですね。またパンフレットで原作者の宮本輝が寄稿していて、試写を出演した子どもたちと一緒に観たとあります。つまりこの映画の撮影終了と同時に彼らは、映画界というか芸能界から去ったのでしょう。かなり素朴というか粗野な顔立ちの男の子たちはまだしも、姉役の柴田真生子はそっちの世界に進んでも可能性はあったのではなんて考えないでもありませんが、理由はともかく3人ともそのようなことはしなかったようです。
ただ、3人ともその後活動をしたとしても、なかなか「泥の河」を上回る活躍は難しかったかもなと思います。あれは、監督の小栗ばかりでなく、他のキャスト、スタッフともども奇跡の映画みたいなものでしょう。田村高廣も、自分の作品の中でも出色の出来だと考えていたとのこと。
なお、こちらの記事でも書きましたように、来年の1月に名古屋に行く用事ができましたので、ついでにこの映画のロケ地をちょっと観てきます。観たら記事にしますので、乞うご期待。
そう考えると、特にそれが芸能活動の最初で最後、唯一となった子役にとっては、本当に一期一会だなと思います。上の春田和秀などは、たくさんの芸能活動の中の最高の当たりが「砂の器」だったということですが、たった1回の芸能活動がとてつもないものになる、ということもあるわけです。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Image may be NSFW.
Clik here to view.
Image may be NSFW.
Clik here to view.
大島渚監督の「少年」では、主人公の少年の演技で映画が決まってしまうのですが、児童劇団を回っても一向に満足できる少年がいない。それで養護施設などを回り、ついに「すごい少年がいる」という連絡があって、あの阿部哲夫少年の出演にいたったわけです。そして彼も、映画の撮影終了後に施設に戻りました。なお弟を演じた木下剛志は、映画の進行を担当した木下俊美の息子で、翌年に山田洋次の「家族」に出演しています。数年前その木下俊美 様と連絡を取ることができました。剛志様もがんばっておられるご様子です。
なお以下一段落分余談です。
それですみません、これは真相は山田監督でないと分かりませんが、山田監督が木下を起用した背景には、やはり彼自身が「少年」を観ていたく刺激を受けたのではないですかね。そもそも「家族」自体、ロードムービーであるところなど、かなり「少年」と共通するところがあります。あの映画が「少年」を意識しなかったとは、私には思えない。
Image may be NSFW.
Clik here to view.
今年になってリバイバル公開された伊藤智生監督「ゴンドラ」では、やはり主人公の少女(上村佳子)は、不登校であり、監督と知り合って映画が作成されました。彼女も全くの素人でほかに芸能活動はしていないようです。監督ともすでに連絡はとっていないとのこと(監督本人にお伺いしました)。一般人として生活しているようです。
いまあげた人たちは、まさに映画の世界にぱっと現れて1作のみで去っていったわけです(木下剛志を除く)。この人たちは、やはり子役を続ける、職業俳優として生きていくというのは人生の選択肢になかったのだろうなと思います。あるいは活躍できたかもしれませんが、それは彼(女)らの望む人生ではなかったのでしょう。それなりの年齢の芸能人でも、最初にそれなりの話題作の大きな役を与えられてそれだけで芸能界を去ってしまう人もいます。適性とかいろいろあるのでしょうが、それは自分の意思です。子役も、大人や周囲に引きずられて(主体的に自分の意見を述べるのは、特に小学生あたりではなかなか難しいでしょう)現役を続ける人も少なくありませんが、強烈な印象を残して去っていった彼(女)らはむしろ幸せだったのだろうなと(勝手に)考えます。まさに一期一会の存在でした。
いま上げた人たちのうち、「泥の河」の3人と阿部哲夫さんについては、その後について私は知りませんが(「ゴンドラ」の方は、一般の勤め人をしているとのこと。映画のHPより)、彼(女)らがその後の人生もがんばっていることを祈念してこの記事を終えます。