前にこんな記事を書きました。
笠智衆と杉村春子、東野英治郎の年齢と役柄の関係を考えるその記事では、この3人が、まったく年齢がそぐわないのに親子をやりあっていたなんて話を書きましたが、今回はその続きということで。
午前十時の映画祭の2017年度版が発表となったの中で
>この映画については指摘したいことがありますので、また上映される頃記事にします。
と書いた件です。
「午前十時の映画祭」で、現在「招かれざる客」と「麦秋」をカップリングで上映しています。「結婚」がテーマですが、今日は「麦秋」についてです。小津安二郎監督の1951年の作品です。
上に掲載したこの映画のスチール写真をご覧ください。この映画を紹介する際はよく使われる写真です(同じフォトセッションの違う写真がいくつかあります)。この映画の主人公である家族の写真です。
それでこの映画の、子役は除いて(失礼。なお朝日新聞が、2014年にお2人についての記事を発表しています。これはあとでご紹介したいと思います)、前列左が、奥さん役の東山千栄子、右が昔の言葉で言えば「家長」である菅井一郎、後列は、左から同居している息子(長男)の笠智衆、真ん中が婚期を逃し(かかっ)ている娘(笠の妹)の原節子、右が長男夫人の三宅邦子です。このような写真を撮る際には、本来なら夫婦が隣り合うと思いますが、そのあたりは原節子ですからということでしょう。
さてこの映画は1951年10月3日に公開されましたが(だいたい小津の映画は、秋ごろ公開されることが多かったのです)、公開年の上の俳優たちの年齢を調べますと・・・。
東山:1890年生まれ。61歳。
菅井:1907年生まれ。44歳。
笠:1904年生まれ。47歳。
原:1920年生まれ。31歳。
三宅:1916年生まれ。35歳。
(以上、年齢については、1951年の誕生日時の満年齢ということでご了解ください)
つまり息子役の笠のほうが、父親役の菅井より3つも年上なわけです(苦笑)。
笠というと老けた役のイメージが強いですが、実年齢よりたぶん10歳くらい若い設定の役を演じています。原節子とは父娘の関係の印象が強いですが、この映画での設定はともかく、実際の年齢差は16歳ですから、親子というより年の離れた兄妹ということのほうが、ありうる年齢差かもしれません。
前の記事でご紹介した「東京物語」では、笠より2歳年下(1906年生まれ)の杉村春子が娘で、原と三宅が義理の娘(笠の息子の配偶者)、東山が笠夫人でした。うーん、年齢差に絶句します。
笠は、「東京物語」では実年齢より20歳くらい年上の役を演じて、その数年前の「麦秋」では実年齢より10歳くらい若い役だったわけで、すると数年のタイムラグを置いて、30年くらいの年齢差を同じ監督の映画で演じたわけですね。これもめったにないことだと思います。
なおWikipediaにもありますように、小津と脚本を書いた野田高梧はこの映画の脚本を気に入っていまして、
>『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う
とまで述べていたとのこと。最高の自信作ということなのでしょう。
というわけで、よろしければ「麦秋」はぜひ観にいってください。23日までの上映です。