昨日NHK7時のニュースを見ていて興味深い報道がありました。NHKのHPより。
>日中平和友好条約40年 交渉記録した音声テープ見つかる
2018年8月12日 17時08分
40年前、日中平和友好条約の交渉に当たった元外交官が、条約交渉のもようをみずからの肉声で記録した音声テープが新たに見つかりました。この中には、両国がともに覇権を求めないとした内容を条約に盛り込むことについて、中国の当時の最高実力者、※トウ小平氏が「永遠に覇権を求めないよう中国を拘束するものだ」など、中国の大国化を見通すかのような発言をしたことなどが記録されています。
日中平和友好条約は、1972年の国交正常化を受けて交渉が行われ、ちょうど40年前の1978年8月12日に中国・北京で両国間で署名が行われました。
この条約交渉に参加していた、北京にある日本大使館の元公使、堂ノ脇光朗さんが、交渉のもようをみずからの肉声で記録した音声テープが新たに見つかりました。
堂ノ脇さんは3年前に亡くなり、音声テープは長らく埋もれていましたが、遺品の整理をしていた家族が見つけました。
カセットテープ9本に13時間余りに及ぶ録音は、堂ノ脇さんが、いわば「備忘録」のような形で個人的に録音したもので、条約交渉が大詰めを迎えた1978年1月から8月ごろまでのもようが記録されています。
このうち、署名の2日前の8月10日に、当時の園田外務大臣と中国の当時の最高実力者、※トウ小平氏との間で行われた会談では、両国がともに覇権を求めないとした内容を条約に盛り込むことについて、※トウ氏が「将来、中国が強くなったときでも永遠に覇権を求めないよう中国を拘束するものだ」など、中国の大国化を見通すかのような発言をしていたことがわかります。
また、当時も中国が領有権を主張していた沖縄県の尖閣諸島について、※トウ氏は、「この問題は、横に置いてゆっくりと討論したらよい。数年、数十年、百年置いてもかまわない」と述べ、条約交渉で取り上げることを控えるよう主張し、園田大臣が「日本の立場は承知のとおりだ」と述べるなど、生々しいやり取りが記録されています。
この音声テープについて、日中平和友好条約の交渉過程に詳しい桜美林大学の李恩民教授は、「記憶の新しいときに録音された音声テープは、公式記録や回顧録とは異なる新しい形の貴重な資料だ。文字で記録された外交記録と合わせれば、歴史の真相に迫ることができる」と話しています。
専門家「トウ氏の生々しい言葉 大変貴重」
中国政治に詳しい東京大学公共政策大学院院長の高原明生教授は、この音声テープについて、「これまでよく知られていなかった※トウ小平氏らの発言を語ったもので、大変貴重な記録だ」と話しています。
そして高原教授は、両国がともに覇権を求めないとした内容を条約に盛り込むことをめぐって、※トウ氏が「永遠に覇権を求めないよう中国を拘束するものだ」などと述べたことについて、「両国間でどんな紛争が起きても、武力や、武力による威嚇で問題を解決しないことが両国関係の基礎中の基礎であることを※トウ氏が生々しい言葉で強調していたことがわかる。実力をもって自分の意思を他者に押しつけてはならないと後世の指導者に対して言っていたとも理解できる発言だ」と指摘しています。
さらに高原教授は、中国艦船による日本の領海への侵入が依然として続いていることは条約の精神にそぐわないとして、「日中平和友好条約の締結から40年になることし、日中双方が改めて条約の内容に思いをはせ、日中関係の基礎を壊さないよう努力すべきだ」と話しています。
※トウは「登」に「おおざと」
いろいろと興味深い貴重な記録のようですが、このブログで取りあげている件がこちらです。
>当時も中国が領有権を主張していた沖縄県の尖閣諸島について、※トウ氏は、「この問題は、横に置いてゆっくりと討論したらよい。数年、数十年、百年置いてもかまわない」と述べ、条約交渉で取り上げることを控えるよう主張し、園田大臣が「日本の立場は承知のとおりだ」と述べる
尖閣諸島の棚上げ問題については、そのようなことは日本側は一切していないという誤った主張が今日でもされていますが、現実には、私がご紹介した1979年5月30日における衆議院外務委員会での外相答弁でわかるように、
>少し長くなりますけれども、尖閣列島は御承知のとおりに中国とわが方は立場が違っております。わが方は歴史的、伝統的に日本固有の領土である、こういうことで、これは係争の事件ではない、こういう態度、中国の方は、いやそれは歴史的に見て中国の領土である、日本と中国の間の係争中の問題であるという差があるわけであります。そこで北京の友好条約締結のときに、トウ小平副主席と私との間で、私の方から話をしまして、尖閣列島に対するわが国の主張、立場を申し述べ、この前の漁船のような事件があっては困る、こういうことを言ったところ、向こうからは私の主張に反論なしに、この前のような事件は起こさない、何十年でもいまのままの状態でよろしい、こういうことで終わったわけです。
その後中国のトウ小平副主席が日本に来られたときに、共同会見のときにたな上げだという言葉を初めて使われ、わが方は依然としてわが方の領土であることは明白であるといういきさつがあるわけでありますけれども、少なくとも日本と中国の友好関係の現状からしまして、この前のような、漁船団のような事件は起こさない、二十年でも三十年でもいまのままでよろしいということは、わが方から言えば現在有効支配しているわけでありますから、ことさらに中国を刺激するような行動、これ見よがしに有効支配を誇示するようなことをやれば、やはり中国は国でありますから、自分の国であると言っているわけでありますから、これに対して異論を出さざるを得ないであろう。そうでない状態が続くことを私は念願しております。
したがって尖閣列島についてはわが国の領土ではあるけれども、こういういきさつがあるから刺激しないように、付近の漁民または住民の避難のため、安全のためにやむを得ざるものをつくるならば構わぬけれども、やれ灯台をつくるとか何をつくるとか、これ見よがしに、これは日本のものだ、これでも中国は文句を言わぬか、これでも文句はないかというような態度は慎むべきであるということを終始一貫議論をしてきた経緯があるわけであります。
というわけであり、外相が棚上げを認めているわけです。議論の余地などありません。なおNHKの報道と同じく、中国国家副主席の名字は文字化けを防ぐためカタカナにしてあることをご了解ください。この件については私は、
尖閣問題で日中間で棚上げ合意があったなんてことは、国会でも答弁されている だから尖閣問題で中国と棚上げ合意をしたなんてことは、国会でも答弁されているんだってばの2つの記事で、上の外相答弁をご紹介しています。
ところで記事に出てくる堂之脇氏という人物は、Wikipediaによると、のちにナイジェリア大使やメキシコ大使などを務めまして、NHKも報じているように、2015年に亡くなっています。どういう理由で氏がこのような記録を残したのかはつまびらかでないですが、つまり事務方の外務官僚からも、そのような交渉があったことを示す記録が出てきたわけです。こんなことはとっくに決着のついている話ですが、やはり棚上げ合意はあったということです。
というわけで、この件を議論するにおかれましては、この棚上げ合意を支持する不支持であるというのはかまいませんが、そのようなものはなかったと主張するのはぜひやめていただきたいと私は思います。それでは実りのある議論ができません。棚上げがあったということを示すものはいろいろ出てきますが、日本側がそういうことを拒否して一切していないなんていう主張には、何ら論拠がありません。日本人拉致被害者の帰国に、日本側の圧力がきいたなんていう主張になんの論拠もないのと同じです。
よって自分と読者の便宜をはかるため、ブックマークに、この外務委員会の国会議事録を張り付けておくことにしました。そうすれば、容易に外相答弁が確認できるわけです。
それにしても堂之脇氏のご遺族も、よくこのようなものを表に出すことを決意されましたね。その真意はわかりませんが、おそらくはこれを公表することが日中関係に何らかのプラスになるのではという考えはあるのではないかと推察します。堂ノ脇光朗氏のご冥福を祈ってこの記事を終えます。