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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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そういう例を出すのなら、拉致問題だってやっぱり金(対価)次第じゃないか

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bogus-simotukareさんから興味深い記事を紹介してもらいました。このブログでも何回か批判的な記事を書いたことのあるジャーナリスト高世仁の記事です。

拘束されたカメラマンを右翼が救出

内容はかいつまんで引用します。

>(前略)
 かつて、安田さんと同じフリーランスのカメラマンがフィリピンの反政府武装勢力に拘束され、日本政府が全く動かないなか、純然たる民間の努力で救出された興味深いケースがある。

(中略)
 
 事件のあらましはこうだ。

 1985年1月、カメラマンの石川重弘さんがゲリラの撮影のため、フィリピンのホロ島に向かったところ、イスラム系反政府ゲリラ「モロ民族解放戦線」(MNLF)に拘束された。同行した現地ガイド2名は、MNLPにスパイと見なされ射殺された。

 MNLFは身代金約7000万円と重火器を要求。日本政府はこれに全く対応できず、外務省は石川さんの家族に「死んだと思われたし」と通知したという。(なお、当時の外相は安倍首相の父親、安倍晋太郎氏だった。)

 そのころ、ヤクザから足を洗った黒澤明氏がフィリピンを訪れた。山口組・一和会分裂を気に黒澤組を解散し引退した彼は、旧知のマニラ在住の貿易商、ヒロ山口から事件と日本政府が放置していることを聞いた。即座に救出を決意した黒澤氏は、野村秋介氏、遠藤誠氏らの協力を得て、救う会を作った。

 MNLF側の要求は、現金約7000万円と武器だったが、ヒロ山口のムスリムコネクションで直接交渉した結果、3000万円分の医療物資支援という条件で妥結し、石川さんは1年2か月ぶりに解放された。3000万円を工面したのは、山口組四代目直系組頭の後藤忠政氏とされている。黒澤氏や野村氏は表に立ちたくないと、日本船舶振興会の笹川良一会長が会見で挨拶することになったという。

 日本政府は当時からフリーのカメラマンなどを保護することに熱心ではなかったようだ。そこで、右翼人士とヤクザを中心とする民間のグループが、一肌脱いで、政府とは全く関わりなく救出することに成功したのである。

(後略)

高世の記事を読むと、いろいろ興味深いですね。

高世の指摘しているように、まさに安田事件と共通するところがありますね。拘禁が長期にわたったこと、金の支払いで決着がついたことです。金銭の支払いがなければ石川氏はたぶん釈放されなかった可能性が高い

これで思い出したのが、やはり80年代にフィリピンで起きた三井物産マニラ支店長誘拐事件です。1986年当時支店長だった若王子氏は、11月に誘拐、けっきょく翌年の3月に解放されますが、この時は、Wikipediaによると、

>この事件は政治的な背景はなく、身代金目的の誘拐事件と見られている(NPA中央の声明によると、末端のメンバーが勝手に行ったことで、人質と引き換えに1000万ドルの身代金が支払われたとのこと)。

なおこの際、イギリスの誘拐事件専門のコンサルティング会社を通じて交渉が行われたことと、人質と引き換えに身代金が払われたことを三井物産が発表したために、同様の事件を誘発することになるとして大きな非難を受けた。

つまり、それをどう評価するかはともかく、金の支払いはあったということです。こういった事件で金が絡まないで釈放してもらえた事例というのもあまり見かけませんね。イスラエルだって、岡本公三氏などは、金ではなくてもイスラエル兵士捕虜との交換でアラブ側に逃げられたわけです。エンテベ空港のような強硬措置を、イスラエルだっていつも取っているわけではない。

そう考えると、これは記事の趣旨とはまたちがいますが、そういったことがなくて解放されたらしい高遠菜穂子さんらの2004年の件は、相当運がいいということになります。彼女らも反省すべき点は多数でしょうが、ともかく運がよくなければあれほどスムーズな解放はなかったでしょう。この件ではちょっと面白い話がありますので、いま確認中ですが、確認が取れたら記事にします。取れなかったら記事にはしませんが、そのあたりはご了承ください。

でもさあ、こういう記事を書くのなら、やっぱり北朝鮮拉致被害者の帰国だって、金、対価なしの帰国の実現なんて主張はありえないんじゃないんですかね。何度も同じことを書きますけど、日本側の強硬姿勢(?)に北朝鮮側が折れて拉致被害者帰国が実現したなんて話に、なんの具体的な証拠などありはしません。家族会や巣食う会やその取り巻き連中が無責任にほざいているだけです。

さてさて、高世は2009年に次のような記事を書いています。

形を変えた拉致=「帰国運動」

>(前略)

きょう午後、ロシアのジャーナリストに拉致問題についてレクチャーすることを頼まれた。

(中略)

「ただ、いつになるか分らない全面解決までの間、並行して、可能なかぎり身柄を取り返す努力もすべきだと思う」

と私がいうと、彼は、「かつて西ドイツが東ドイツに対してやったような、お金による身柄引き渡しはできないのですか」と聞いてきた。

これは、いわゆる「政治犯の買い取り」と言われるもので、63年から東欧体制が崩壊した89年までの間に、西ドイツは、3万3755人の政治犯や離散家族など合わせて25万人を35億マルクを支払って東から引き取った。

(後略)

題名で分かるように、高世は、北朝鮮との問題では、西ドイツのこのような行為はそぐわない、できないという考えでいるようですが、その論拠は、

>私は拉致被害者の「買い取り」が可能なら試みるべきだと思う。しかし、北朝鮮が日本から拉致してきた人のリストを出してきて、一人10万ドルなどと取り引きを持ちかけてくるならともかく、「拉致問題は解決済みで、生存している被害者は一人もいない」と言い張るのだから、「買い取り」たくともできない。

などという巣食う会や家族会の代弁をするばかりです。これではどうしようもない。北朝鮮による拉致被害者が帰国できたのは、日本側が国交樹立と経済援助を、拉致被害者帰国を条件に約束したから実現したんだという基本的なことをなぜ認められないのか。そうしたら巣食う会や家族会と断絶するから、ですかね。だったら、石川氏の解放の話や、西ドイツが東ドイツに金を払った話を記事にするのも変な話ですが。けっきょく単なるダブスタじゃないですか。ジャーナリズムどころの話ではない。

bogus-simotukareさんの記事に、この西ドイツと東ドイツとの政治犯バーター取引について紹介した記事が2つ引用されていますので、よろしければお読みください。最初は、みすず書房HPの、この件に関する書籍についてのもの、もう1つは、その本を紹介したブログ記事です。

ガートン・アッシュ『ヨーロッパに架ける橋』
東西冷戦とドイツ外交[上・下] 杉浦茂樹訳

ヨーロッパに架ける橋

詳細は、直接リンク、あるいはbogus-simotukareさんの記事にも引用がされているので、それを読んでいただきたいのですが、はてはて、西ドイツと日本、どちらが合理的、かつ現実的な行動をして、しかも実績も残していますかね。議論するだけ野暮じゃないですかね。

だいたいこういった交渉事は、時代が変わればこちらも先方も考え方、対応の仕方が異なりますしね。北朝鮮だって、日本人を拉致した1970年代終わりから80年代半ばごろと現在ではだいぶ違うし、日本もそれは同じでしょう。たとえばやはり金日成が存命の時は、どんなに経済援助をちらつかされてもなかなか日本人拉致被害者を返すには至らなかったんじゃないんですかね。そう考えれば、かつて対話や交渉が成り立たなくても今は成り立つ可能性があるし、その反対も然りのわけです。南北間の関係を見れば、よくわかります。

なお個人的な意見を言いますと、先方には金を渡したくない(だから自分の身内が解放されるのは後でいい?)とかいう珍論は、私の知る限り北朝鮮拉致の被害者家族以外唱えた人たちを知りませんね。「拉致被害者家族はどうしようもない馬鹿だ」とか「拉致被害者家族も、もう内心では身内の生存をあきらめているからそういう無茶苦茶なことを言えるんだ」とかいろいろ解釈はできそうですが、蓮池透氏は、まだ家族会に在籍中からどんどん北朝鮮にも経済援助をして拉致被害者を返してもらうべきだという主張をしていたわけで、やはり彼は西ドイツ政府同様合理的な思考の持ち主だったのでしょう。そうなると、家族会は、彼に詫びを入れて仲間として受け入れることは絶対ないんだろうなと改めて思います。

さらにいうと、私も、遠藤弁護士はともかく、笹川や野村みたいな人物を好きではないし、また黒澤氏や後藤氏のようなほんとの暴力団とはかかわりあいたくないですが、しかし彼らが石川氏解放に尽力してくれたのなら、それはほかはともかくその点では大いに評価すべきだし石川氏の家族や関係者は感謝すべきだししているでしょう。ところが拉致問題はというと、荒木和博は、拉致被害者の帰国に動いてくれた金大中氏について、金大中なんか殺されていればよかったとかほざくし、あるいは外務省関係者が拉致被害者家族から罵倒される始末です。こんな異常事態はまともではありません。しかし日本では、そのような異常事態がもう16年も続いているのです。まったくどうしようもないとはこのことです。

つまりは、なにがなんであろうと北朝鮮に協力するのは嫌だ(そんなことするくらいなら、拉致された家族は返ってこなくていい(いずれ北朝鮮は滅亡するから、その時返ってくればいい?))ということでしょうが、そういうことを言っていたら、拉致被害者なんか絶対返ってきませんね。返ってくるわけがない。

なおこの記事は、bogus-simotukareさんの記事、頂いたコメントを参考にし、また私が氏のブログに投降したコメントも記事の一部にしています。あらためて感謝を申し上げます。


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