先日の記事より。
>「北方領土」を口にしない安倍首相、ロシアの優位あらわ
専門記者・藤田直央 2019年1月23日06時54分
解説 専門記者・藤田直央
平和条約締結交渉の行方が注目された、安倍晋三首相とプーチン大統領との25回目の日ロ首脳会談。終了後にあった日本時間23日未明の共同記者発表は、まず経済関係の発展をと訴えるプーチン氏のペースだった。安倍首相は、6月末に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議での首脳会談で決着を目指していたが、交渉の先行きには暗雲が漂う。
首相、先に切らされた経済カード ロシアとの領土交渉
「相互に受け入れ可能な解決策を目指す」。モスクワ・クレムリンでの共同記者発表で、北方領土問題の決着が前提となる平和条約締結について両首脳は言葉をそろえた。だが、戦後70年以上も北方領土を実効支配するロシアの優位が、双方の発言に露骨に表れた。
ホストとして先に発言したプーチン氏は、平和条約締結には「全面的な関係の発展が必要」と強調。その肝として「経済・貿易で日ロ関係は順調に発展しつつある」と述べた上で、「今後数年間で1・5倍、300億ドルの貿易高を目指そうと合意した」と語った。
そういうことですよね。けっきょく、予想通りですが、だいたいロシア側は、現段階「平和条約締結によって、2島なら返還する用意がある」なんて一言も言っていませんもんね。つまりはその程度の状況だということです。
それで面白いのが、首脳会談前の産経新聞の記事です。
> ロシアは第二次世界大戦の結果、北方領土はロシア領となったと主張するが、旧ソ連は第二次大戦末期に日ソ中立条約を一方的に破って参戦し、その後、北方四島は不法占拠された。この歴史的事実を曲げるロシアの主張を受け入れれば、国際社会で「法の支配」を重視してきた日本の信頼は失墜する。尖閣諸島(沖縄県石垣市)を自国の領土と主張する中国を利することにもなる。
なんてのは、産経の好きな枕詞ですからどうでもいいとして(尖閣と北方領土では現状も歴史的経緯も事情もまったく異なるので、関係ないにもほどがあります)、興味深いのはこちら。
>ロシアは在日米軍が島に展開する可能性も強く警戒する。米政府は「現時点で米国が(北方領土に)戦力を置く計画はない」(在日米軍トップのマルティネス司令官)が、日米安全保障条約は日本の施政権が及ぶ地域に米軍活動を認めるとしている。日本政府高官も「国と国との約束はどうなるかわからない。米国が嫌がらせで置くかもしれない」と話す。
おいおい
ですよね(苦笑)。だったら、まさにプーチンのいう米軍基地不設置の確約は絶対条件じゃないですか。繰り返しますが、領土を返した、それで自国至近の場所に敵対国家の軍事基地がおかれた、こんな馬鹿な話はない。それでは、安倍晋三が話した
>首相はインタビューで「在日米軍は日本や極東の平和と安全を守るために存在し、決してロシアに敵対的なものではない」と強調。「今までもプーチン氏に説明してきた。必ず理解いただけると思う」と述べた。説明の時期には触れなかった。
なんてばかばかしいにもほどがあるってものじゃないですか。なにをどうしたら、こういう記事が書かれるのか。いや、私みたいなアンチ安倍が書くのならいいですが、産経新聞みたいな自他ともに認める安倍御用新聞、安倍絶対支持新聞、安倍応援団がこんなことを書いてどうするのか(苦笑)。つまり産経からしても、この件でも安倍を支持しようという考えと、2島返還ではだめだという考え、あるいは北方領土をアンチロシアの道具として利用したいので返還不要という考えがあるということですが、現段階産経も、北方領土が返還されるなんて考えていないということですね。考えていれば、仮に反対するにしてもまた違った書き方になるでしょう。
だいたい上の記事を読んでも、産経の主張は「だから、絶対米国側の、基地不設置の確約を必要とする」なんていうものではないですね。本音で産経は、返還されてもぜひ米軍基地を置きたいと考えていそうです。いずれにせよ返還なんてないと考えていればこその記事です。
もう1つ。1月22日の産経抄より。会員記事なので、bogus-simotukareさんのブログから引用します。
>映画は、学生たちが大使館に押し入り、多数の外交官を人質にする場面で始まる。1979年11月にイスラム革命後のイランで起きた、米大使館占拠事件である。実は6人の職員が裏口から脱出して、カナダ大使公邸にかくまわれていた。
▼もし見つかれば、処刑の恐れがある。米中央情報局(CIA)で人質奪還を専門とする工作員は、奇想天外な脱出作戦を思いつく。イランを舞台にしたSF映画の製作をでっち上げ、6人をカナダ人スタッフに見せかけて出国させる、というのだ。
▼映画「アルゴ」は、アカデミー賞の作品賞などに輝いた。何より、脱出劇が実話だったことに驚かされる。6人を無事に帰国させ、映画の主人公のモデルとなったトニー・メンデスさんの訃報が、米国から届いた。78歳だった。
それでこのような落ちです。
>残念ながら「人質外交」を進める国は、今も後を絶たない。昨年12月にカナダ当局が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長を逮捕して以来、中国当局は在中カナダ人を相次いで拘束している。もともと副会長の逮捕は、対イラン制裁に違反した疑いで捜査してきた米当局の要請によるものだ。3カ国は水面下で、激しいせめぎ合いを続けているようだ。
▼中国では、日本人も人質となっている。合計8人がスパイ容疑で拘束され、このうち4人に実刑判決が下った。8人は、情報公開がないまま自由を奪われている。ただCIAのような諜報機関を持たない日本には、外国から人質を奪還する選択肢はない。
『アルゴ』の話は人質外交とはまた違いますが(人質になっているのではなくて、隠れているのですから)、それはともかく。
>ただCIAのような諜報機関を持たない日本には、外国から人質を奪還する選択肢はない。
産経って、自衛隊による北朝鮮による拉致被害者奪還を肯定する本を(自社から発売して)嬉々として紹介していたじゃないですか。
自衛隊による拉致被害者奪還という幼稚なデマを嬉々として流す巣食う会、産経新聞
上の記事で紹介した本は、2016年10月の発売のようです。上の記事で使った表現を繰り返せば、
てめえら、どんだけデタラメなんだよ!!!
ということになるでしょう。
もっとも、この筆者がその件について考慮に入れていたかどうかはわかりませんが、つまりは産経だって、自衛隊による北朝鮮による拉致被害者奪還なんてできっこないと考えているということです。当たり前ですが。
ほかにも昨年11月に米子市長が、拉致問題の関係で
>もし安倍内閣が軍事行動をするというのであれば、あるいは憲法を改正するというのであれば、全面的に支持をして、この拉致被害の回復、主権の侵害の回復に、私たちは国民として全力で当たりたい。全力で支援をし、そして支持したいと思っております
と発言し、その後撤回していますが、産経は、こちらの記事などではその点に触れていませんね。あるいは触れている記事もあるのかもですが、たぶん産経としても、この米子市長の発言は、よろしくない、安倍政権にも迷惑だという判断なのでしょう。少なくとも積極的に支持するようなものではないと考えているということです。これについては、さすがに政府側などからも、まずいという話になってこうなったのでしょうが、ともかくそんな程度のものだということです。産経だって、阿比留瑠比みたいな狂信者ばかりでは(当然)ない。
ただいずれにせよ、特に北方領土問題は、産経ですら安倍を支持しかねるところがあるくらい、かなりいろいろな意味で危ない橋であるということなのでしょうね。なお、この件については、bogus-simotukareさんが記事でご紹介していたこちらの記事がとても勉強になります。ぜひご一読を。
【断言】北方領土と平和条約交渉の行方、日ロ首脳会談でも専門家は「進展しない」
「安倍晋三首相は『地獄の1丁目』に立った」。岩下明裕・九州大教授はそう話した
今回の記事は、bogus-simotukareさんのご紹介した2つの記事を参考にさせていいただきました。感謝を申し上げます。