昨日(6月26日)次のような判決が出ました。
>機動隊員溺死で埼玉県に賠償命令
06月26日 17時43分
7年前、埼玉県警の機動隊のプールで、訓練中に溺れて死亡した隊員の遺族が県などに損害賠償を求めた裁判で、さいたま地方裁判所は「隊員を水中に繰り返し沈めた結果、死亡したのは明らかだ」と述べ、県に9000万円余りの賠償を命じました。
平成24年、埼玉県警の機動隊のプールで、機動隊員の佐々木俊一巡査(当時26)が、訓練中に溺れて死亡しました。
巡査の遺族は、足の痛みを訴えて訓練の中断を訴えたのに認めず、制裁として水中に繰り返し沈められたのが原因だとして、県と訓練に関わった上司5人におよそ1億9000万円の損害賠償を求めていました。
26日の判決で、さいたま地方裁判所の谷口豊裁判長は、「ほかの隊員と比べて体力や技量が劣っていたのに、息継ぎの余裕を与えずに水中に繰り返し沈めた結果、死亡したのは明らかだ」として県に9000万円余りの支払いを命じました。
一方、上司については「当時、水に沈める行為は訓練中の隊員の行動によっては行われることがあり、明確に禁止されてはいなかった。訓練と無関係の制裁と断定できない」として請求を退けました。
佐々木さんの母親の千春さんは「上司の責任が認められず悔しいです。同じようなことが起きないようにしてほしいです」と話しています。
埼玉県警は「判決内容を十分に検討して適切に対応したい」としています。
この事件については、以前にも記事を書いていました。
これで「業務上過失致死」はおかしくないか上の記事は、この訓練(?)を指導した人物が業務上過失致死罪で有罪判決(禁固1年6か月、執行猶予3年)が出たということをご紹介していますが、日経新聞の記事によるとこの判決が確定して失職したとのこと(当たり前です)。
で、上の記事でもお母さまがおっしゃっているように、上司の責任が認められなかったのは「どうもなあ」ですね。裁判所は
>訓練と無関係の制裁と断定できない
としていますが、下のような記事を読むと、とてもそんな代物には思えませんね。前の記事でも引用した「週刊金曜日」の記事です。
>裁かれる埼玉県警機動隊の“殺人訓練”――何度もプールに沈め溺死に
2015年8月6日10:32AM
水深3メートルのプールの底まで繰り返し力ずくで沈め、動かなくなると引き上げて放置する。殺人、または拷問死というほかない残虐な事件が埼玉県警で起きた。
埼玉県警機動隊「水難救助隊」の新人隊員・佐々木俊一巡査(享年26)は、2012年6月29日、朝霞市の機動隊のプールで潜水「訓練」中、溺死した。遺族の調査で浮かんできたのは、「訓練」に名を借りたリンチだった。
俊一さんは機動隊員の暴行によって死亡したとして、母・千春さんら遺族が、今年6月28日、埼玉県や救難救助隊の巡査、巡査部長、警部補ら4人を相手取り、総額約1億9000万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟をさいたま地方裁判所に起こした。
「真相を知りたい。被告の警察官たちには正直な話をしてほしい」
翌29日、命日に開いた記者会見で遺族は涙ながらに語った。
遺族や弁護団(野本夏生弁護団長)によれば、主に警察から聞き取った事実をもとに判明した経緯は次のとおりである。
12年6月29日午後4時ごろ、基礎訓練に続き、「完装泳法」の訓練に移った。空気ボンベ、シュノーケル、足ヒレなど重量38キロの装備を身につけたまま、ボンベの空気を使わずシュノーケル呼吸のみで、潜ったり立ち泳ぎをする訓練だ。
俊一さんは変形性膝関節症で足が痛かった。訓練開始からまもなく、プールの浅い部分(水深1・2メートル)に移って足をつき、訓練中止を申し出た。痛みのせいで立ち泳ぎが続けられない。
だが、指揮官のI巡査部長は訓練続行を命じた。俊一さんはやむなく泳ぎ続けた。しかし、やはり痛い。とうとうプール内壁に取り付けられたはしごをつかんだ。そして中止させてほしいと訴えた。
するとプールサイドにいたN巡査部長が、俊一さんの顔を足で何度も踏み「佐々木、つかむんじゃねえよ」と怒鳴った。そして、「無理です」と繰り返す俊一さんを力ずくではしごから引きはがした。俊一さんはパニック状態に陥った。
続いて、水に入っていた指導員のW巡査が俊一さんをプールの深い部分に連れていき、背後から両肩に手を置き、体重をかけて水深3メートルの底まで沈めた。5、6秒かけて浮いてくるとまた同じ要領で沈めた。I巡査部長の指示だった。
俊一さんは水中メガネとシュノーケルを顔に着けたままはずすことは許されなかった。シュノーケルの管内や水中メガネの中に水が入り、呼吸ができなかったとみられる。
4回ほど沈められた結果、俊一さんは水中で動かなくなった。すると、そのまま10秒ほど放置され、ようやくプールサイドに引き上げられた。呼吸や心拍の確認はしなかった。人工呼吸もしていない。そればかりか「死んだふりか」などと言って往復びんたをした隊員もいた――。
119番通報は引き上げから8分後。俊一さんは病院に運ばれたが死亡が確認された。司法解剖の結果、死因は溺死。両肺に大量の水が入ったままだった。
【私的制裁の疑い】
埼玉県警によれば、繰り返し沈めた行為は、ボンベの空気が吸えなくなった場合の対処法を学ぶ訓練だったという。しかしI巡査部長は、事前に「佐々木をやりますよ」と不穏当な発言をしており、私的な制裁だった疑いは濃厚だ。
現在、W巡査が業務上過失致死罪で起訴されている。
もともと俊一さんは東入間署の地域課に所属し、交番勤務を主な仕事としていた。運動は苦手。水に潜って遊んだ経験もない。機動隊への異動を告げられたのは12年3月。自ら希望したわけではなく、とまどっていた。遺族によれば、訓練は辛そうだった。膝も機動隊に入ってから負傷した。事件直前には「死ぬかもしれない」と漏らしていた。意識を失ったこともあった。そして、辞めたい旨上司に相談していたという。辞意を伝えたことに対する見せしめ的な報復の可能性はある。
(三宅勝久・ジャーナリスト、7月24日号)
あるいはこの記事が根本的に間違っているのかもですが、個人的な意見を申し上げますと、そのようには思えません。
前の記事でもご紹介しましたように、かつて海上自衛隊で、かなりひどい不祥事がありました。
2008年に起きた海上自衛隊での集団暴行死事件についての興味深い報告書を見つけたこの件では、2013年に防衛省と遺族側とで和解が成立したとのことですが、しかし死亡の原因となった徒手訓練(つまり格闘訓練)が制裁目的だったという件については国(自衛隊)側が認めなかったとのこと。これも今回の判決と共通するところがありますね。これを制裁と認めてしまっては、いろいろなことが崩壊してしまうという認識があるのでしょう。
それにしても、自衛隊の方は和解で決着したのだから、埼玉県警の方もそうなれば、とはいかなかったんですかね。やはり個人の責任を追及したあたりで、和解になる余地がなかったのかもです。
お亡くなりになった佐々木俊一さんのご冥福を祈ってこの記事を終えます。