やや旧聞ですが、歴史修正主義関係に興味のある(とりあえず右翼左翼は問わず)界隈でちょっと話題になっている件を。コロナウイルスだなんだであまり世間の話題になっていないと思いますが、これはこれで興味深いと思います。
>「欠陥著しく多い」と指摘され、つくる会中学歴史教科書が検定不合格 撤回を要求
2020.2.21 16:05ライフ教育
来年度に採択される中学校の教科書検定(令和3年度使用)をめぐり、「新しい歴史教科書をつくる会」(高池勝彦会長)は21日、同会が推進する「新しい歴史教科書」(自由社)が文部科学省の検定で不合格になり、採択できなくなったと発表した。平成28年に改定された審査基準により「欠陥が著しく多い」と指摘されたという。つくる会は「初めから落とす意図を持っていたと断じざるを得ない」と強く反発。文科省に対し検定結果の撤回を求めている。
つくる会によると、新しい歴史教科書に付けられた検定意見で「欠陥箇所」と指摘されたのは405件。誤記や事実の間違いなどは比較的少なく、7割以上にあたる292件が「生徒に理解しがたい」「誤解するおそれがある」などの理由だった。
政治色をうかがわせるような指摘もあったといい、「中華人民共和国(共産党政権)成立」とする記述にも、カッコ内の共産党政権の語句に「誤解するおそれ」との検定意見が付いた。また、前回の検定で合格した記述なのに、欠陥とされたケースもあった。
自由社版の新しい歴史教科書は平成20年度以降、過去3回の検定を通過している。26年度の前回検定でも不合格になったが、再申請して合格した。しかし28年、「欠陥箇所数が著しく多い(ページ数の1・2倍以上)」場合は年度内に再申請できないと審査基準が改められ、約1・3倍の指摘があったため「一発不合格」となった。
同教科書の採択率は現状で1%以下だが、採択できなくなるのは今回が初めて。つくる会の高池会長は21日、「(今回の検定は)初めに結論ありきの異常なもので、容認できない」と強く批判した。
一方、文科省では「検定中にその内容を公表するのは禁止されている。つくる会はルールに違反しており、これから対応を検討したい」としている。
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教科書検定 教科書会社が編集した原稿段階の教科書を文部科学省が審査する制度。小・中・高校ごとにおおむね4年に1度行われ(1)学習指導要領に則しているか(2)範囲や表現は適切か-などを、文科省の教科書調査官が調査した後、さらに文科相の諮問機関である教科書検定調査審議会が審査する。不適切な記述などには検定意見が付く。審議会の委員は大学教授や小中高校の教員らが務め、審査に合格しないと教科書として認められない。
新しい歴史教科書をつくる会 自虐史観を排し、日本に誇りが持てる教科書で学べるようにすることを目的とし、藤岡信勝・東京大教授(当時)らが平成9年に設立。メンバーらが執筆陣となった扶桑社発行の歴史・公民教科書は13年の検定に初めて合格した。だが、編集方針の対立から18年にメンバーが分裂。つくる会のメンバーらが自由社の教科書を、新たに発足した「日本教育再生機構」のメンバーらが扶桑社やそれを継承した育鵬社の教科書を、それぞれ執筆した。つくる会が推進する教科書は、自由社で過去3回、扶桑社時代も含めれば過去5回、検定に合格している。
文科省の指摘にもあるように、
>検定中にその内容を公表するのは禁止されている。つくる会はルールに違反
なわけで、これ次回以降はもう教科書を出すのをやめるのかなあとか考えます。つくる会側のサイトによると、
>②<文科省の不当な検定制度を糾弾する緊急決起集会>(仮)の開催 (延期)
3月11日(水)18時30分 星陵会館大ホール
参加費1,000円(事前申し込み不要)
登壇者現在調整中
問い合わせ:緊急決起集会実行委員会 03-6912-0047
とあるので、この集会は延期になったようですが(上の引用では、線はgooの機能を用いて、私が引き直しました)、連中のサイトには、
>今回の資料をご覧の上、文科省にぜひ抗議の電話を入れてください。国民の皆さんの声が、文部科学省の不当な決定を覆す原動力となります。報道各社にも抗議や激励のメッセージを送ってください。
→文部科学省初等中等教育局教科書課 歴史担当(代表電話03-5253-4111)
とありますけど、こんな公然とした業務妨害の煽りをしてどうするんだよという気はします。文科省も激怒でしょう(苦笑)。
ていうか、この決定を不当とするのなら(って当然連中の立場ならそうなります)、法にのっとった異議申し立てをしたうえで、それでもだめなら行政訴訟を起こすしかないでしょうにねえ。したら家永訴訟みたいに左翼系と思われて嫌なのか(苦笑)。だいたい産経新聞の記事によれば
>「新しい歴史教科書をつくる会」は21日、文部科学省の姿勢を批判し、関係者の処分を求めた。
> 「私たちの検定は(不合格通告を受けた)昨年12月25日で終わっており、(ルールは)適用されるべきでない」「不正をただすために検定内容を公表するのは当事者の義務とすら言える」。文科省内で21日に開かれたつくる会の記者会見。藤岡信勝副会長は、全ての検定結果が公表されるまでは内容を明らかにしないとする同省規則を承知の上で不合格通知を公表したことを、こう正当化した。
同席した高池勝彦会長も「教科書調査官による職権乱用」「国家公務員法の規定にも反する」とし、関係者の処罰を求めた。
とまで主張しますが、そんなの文科省が関係者を処罰するわけないし(そもそも職権乱用とか国家公務員法の規定への違反とか、具体的にどう法的に理論づけるんですかね?)、まさかこんなことを正当化もできないでしょう。異議があるのならそれなりの手続きをしなければです。これは、この検定処分が正しいかどうか以前の話。
だいたいこの検定不合格は、首相である安倍晋三や文科相である萩生田光一がOKを出したから不合格になっているわけで、安倍や萩生田を批判しなければしょうがないでしょう。が、右翼の連中は安倍晋三には異常に甘い・・・というより、ここまでくると甘いというより安倍の批判をするのを怖がっている、嫌がっているというのが実情でしょうが、安倍とその側近である萩生田、あるいはかつての文科相である下村博文なども批判できないわけです。それでは批判も全く斬れ味がないし、大して面白くもありません。が、しかし自由社系のつくる会としては、まさにこれは怒りの極致でしょうね。よりによって連中があれだけ支持支援してきた安倍の首相時にここまでの仕打ちをされてはです。つまりは、安倍と萩生田ほかから、自由社系のつくる会の教科書は、斬って捨てられたということになりそうです。
さてさて、「つくる会」というのは内部分裂をして、現在産経新聞系列の扶桑社の子会社である育鵬社なる会社が、自由社とは別に教科書を発売しています。この教科書が検定に合格したかはこの記事を書いている現段階不明ですが、私は、安倍晋三は、自由社の教科書を発売させずに育鵬社の教科書に「つくる会」系の教科書を統合しようと考えているのではないかと予想しています。安倍の思惑は現段階わかりませんが、仮に育鵬社の教科書が検定合格すれば、右翼系の教科書を採択しようと考えるところは、育鵬社と自由社との比較ができませんから、育鵬社の教科書を採用しようかということになります。
上の記事に、
>同教科書の採択率は現状で1%以下
とあるくらいで、ほぼ相手にされていません。それに対して育鵬社のほうは、Wikipediaによれば2016年からの採択率は
>全国では歴史6.3%、公民5.7%
だそうで、少なくとも自由社よりはだいぶ上です。それで育鵬社と自由社のどちらかを選ぶとなれば、安倍晋三はやはり産経新聞系列の育鵬社を選ぶでしょう。安倍というのはそういう人間です。
が、それはともかく、安倍からしても、事実上「つくる会」系の教科書にあまり伸びしろはない、発展の展望が持てないということを認めているということでしょうね。これから伸びる可能性を感じていれば、たぶんさすがに教科書検定で自由社の教科書を不合格にするということにはならないでしょう。あえて言えば、安倍にとって自由社の教科書など迷惑なのでしょう。仲間である産経系列の商売の邪魔をするし、安倍が現在最大限の配慮をしている中国にたいしてもやはり自由社の教科書は迷惑だし。
いずれにせよ、育鵬社の教科書が検定不合格になる可能性は低いと私は思いますが、よりによって極右である安倍晋三が極右系の教科書を切って捨てたというのは、いくら育鵬社の教科書はあるとはいえ極右教科書運動の大きな曲がり角であることは間違いないと思います。この件については、私も今後を注視していきたいと思います。