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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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けっきょく断れない立場の人間(主に女性)が介護を押し付けられる

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拙ブログの常連コメンテイターであるnordhausensanさんから次のようなコメントをいただきました。

>神戸の介護祖母殺害事件で執行猶予判決 (nordhausen)2020-09-18 22:31:16https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20200918/2000035068.html

これも、本当に痛ましい事件ですよね。さて、私が気になったのは、この被告の女性がほぼ1人で祖母を介護し続けたというところでしょう。そもそも、なぜ彼女が祖母の介護をやらねばならなかった経緯が分かりませんが(大体、孫が祖父母を介護すること自体、異常なことでしょう)、介護施設に入所させるか、ホームヘルパーに依頼するとかできなかったのでしょうか。あるいは、両親やおじ、おばたちに頼むという選択肢もあったのでは、と思います(両親らと疎遠で、自分が介護をせざるを得ないという状況だった可能性もあります)。いずれにしても、この被告の女性は1人で物事を抱え込んでいき、精神的に追い詰められてしまったということなのでしょう。

なお、この記事では介護の担い手が若年化していることを取り上げています。こういう家族の介護を担う若者たちを、しばしばメディアでは美談として取り上げる傾向があります。しかし、個人的には、若者が高齢家族の介護を担うという状況は非常によろしくないと思いますし、社会の問題でもあります。せめて、介護の現場に公的支援を行った上で、介護施設への入所が叶わず家族が介護を担わざるを得ない場合でも、家族に対して公的支援も行う必要がありますし、介護の担い手を若年の家族に押し付けるような事態になってはいけ
ないと思いますね。

ご紹介いただいたNHKのサイトを引用してみます。

>関西 NEWS WEB
介護の祖母殺害で猶予つき判決
09月18日 16時40分

去年、神戸市で、22歳の幼稚園の元教諭が1人で介護していた90歳の祖母を殺害した罪に問われた裁判員裁判で、神戸地方裁判所は、介護と仕事で疲弊しきった末に衝動的に起こした犯行を強く非難できないとして、執行猶予のついた有罪判決を言い渡しました。

元幼稚園教諭の松原朱音被告(22)は去年10月、神戸市の自宅で介護していた祖母の愛子さん(当時90)の口や鼻を祖母の体を拭いていたタオルで押さえるなどして殺害したとして殺人の罪に問われました。
これまでの裁判員裁判で、松原被告が去年3月に短大を卒業して就職したあと、5月から認知症の愛子さんと同居し、平日の夜間と休日は1人で介護していたことが明らかにされ、弁護側は、「親族に何度も限界だと訴えたが、十分な助けを得られなかった」などとして、執行猶予のついた判決を求めていました。
18日の判決で、神戸地方裁判所の飯島健太郎 裁判長は、「強い殺意で口などをふさいだ行為は危険で、暴言をはき続ける祖母を黙らせたかったという動機は短絡的だ」と指摘しました。
一方で、「介護と仕事のストレスで心身ともにきわめて疲弊し、衝動的に犯行に至ったことを強く非難することはできない」と述べ、自首したことも考慮して、執行猶予5年をつけた懲役3年を言い渡しました。

【弁護士コメント】。
被告側の奥見はじめ弁護士は、18日の判決について「若い人が1人で認知症の方を介護するのが、いかに大変かということを裁判官と裁判員に理解していただけたと捉えている」とコメントしています。

【識者“介護する孫は孤立”】。
介護の問題に詳しい淑徳大学の結城康博 教授は「高齢化が進むなか介護殺人が起きているが、今回の被告のように若い人による事件はケースとしては少ない。被告は新社会人として勤め先でも、また家庭でもストレスがあってかなり精神的に追い詰められていたのではないか」と話しました。
そのうえで、「晩産化や晩婚化、離婚の増加などで家族の構成員が少なくなり、孫の世代にも介護の負担が生じている。周囲に介護をする同じ世代の人は少ないことから孤立しやすい。『孫が介護をしている』という現状を社会がしっかり認識して周囲が支援して家族などを介護する若い人の孤立を防ぐことが大切だ」と指摘しました。
さらに、「使命感が非常に強い、まじめな人ほど他人に頼ることができずに孤立し、追い詰められて、殺人を犯してしまう。介護殺人を防ぐために介護を受ける側だけなく、担う側への公的な支援も必要だ」と述べました。

【虐待増加 介護の担い手は若年化】。
急速に高齢化が進み介護が必要な人が増えるなか、高齢者が、一緒に住む家族などから虐待を受ける件数は増加傾向にあります。
厚生労働省によりますと、全国で高齢者が家族や親族などから虐待を受けた件数は、年々、増えていて、平成30年度は1万7249件で、5年前に比べて1518件増えています。
兵庫県内では、平成30年度に875件起きていて、このうち、虐待を受けた高齢者がどのように暮らしていたか調べたところ、▼「虐待した人とのみ同居していた人」が全体の53.5%だったのに対し、▼「虐待した人およびほかの家族も暮らしていた人」が30%、▼「別居していた人」が15.6%などとなっています。
さらに、高齢者に虐待をした人は、▼「息子」が36.3%で最も多く、▼次いで「夫」が24.8%、▼「娘」が18.1%などとなっていて、▼「孫」は2.4%でした。
ただ、高齢者が増えるなか、介護を担う若い人も増加していて、総務省の推計では、平成29年の時点で、家族を介護する15歳から29歳の人はおよそ21万人いるとしていて、5年前に比べて3万2000人ほど増えています。

記事によると、昨年の5月から被告人被告人の女性は祖母の介護をはじめ、10月に殺害に至っていますね。たった5か月ですか。介護殺人というのは、介護をはじめたての時期が危ないという話を聞いたことがあります。それが事実なのかどうかは、この記事執筆時点では断言できませんが、この事件に関してはそれが当てはまったようです。

それにしても記事によれば

>平日の夜間と休日は1人で介護していた

ですか。これでは、夜もろくに眠れないということになりかねないし、また休日も心も体も休まらないということになるでしょう。それで

>親族に何度も限界だと訴えたが、十分な助けを得られなかった

というのもねえ。nordhausenさんもお書きの通り、細かい状況はわかりませんからめったなことは言いませんが、もともとフルタイムであろう仕事を抱えている人(しかも新卒)がこのような態勢で祖母の介護を続けるということに根本的な問題があったのではないかと思いますね。他の親類があまり助けてくれなかったらしいというのも、その理由は不明ですが、つまりは体よく嫌な仕事を押し付けられたという側面があるはず。そう言っては身もふたもありませんが、そういうことでしょう。

それで記事にも指摘のあるように、

>使命感が非常に強い、まじめな人ほど他人に頼ることができずに孤立し、追い詰められて、殺人を犯してしまう。介護殺人を防ぐために介護を受ける側だけなく、担う側への公的な支援も必要だ

ということになっちゃうんでしょうねえ。過労死などでも、報じられるのはだいたいにおいて責任感が強く他人を頼ることが苦手なタイプです。世の中、だいたいにおいて介護も過重労働も、自殺とか突然死とかこの事件のような殺人をふくむ犯罪というレベルに行きつくまでには、当の本人が仕事や介護をやめるあるいは周りが見るに見かねるとかで、そこまでの最悪の状況にはならないで済むのですが、それで済まなければこのような事件になってしまうわけです。

というようなことを考えていたら、上の段落まで書いた後、次の記事を読みました。予想通り、いやそれを超えましたね。

>時計2020/9/19 05:30神戸新聞NEXT

仕事と介護で睡眠2時間 相次ぐ暴言、徘徊を我慢 祖母殺害へ至る過酷な日々

 自宅で介護中の祖母を殺害したとして、殺人罪に問われた神戸市須磨区の元幼稚園教諭の女(22)の裁判員裁判の判決が18日、神戸地裁であり、飯島健太郎裁判長は懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役4年)を言い渡した。介護と仕事の両立に心身をすり減らし、SOSは周囲に届かない-。裁判を通して見えたのは、若年世代による認知症介護の過酷さだった。被告の女は法廷で、介護で蓄積したストレスや心境の変化を詳細に語った。

 幼少期に両親が離婚し、小学1年で母が病死した被告。児童養護施設に入所後、祖父母に引き取られた。中学2年からは叔母の家族と暮らしていた。

 短大を卒業後、2019年春からは夢だった幼稚園教諭として働き始める。同時期、1人暮らしだった祖母の認知症が悪化した。

 「叔母さんは子どもがいる。家庭がある。父は病気。伯父さんは忙しい。昔からお世話になっていたし、私しかいない」。当時の被告はそう考えた。

 19年5月に同居を始めた。祖母は平日昼間はデイサービスに通い、平日の夕食の用意や通院の付き添いは叔母が担っていたという。平日夜と週末の介護は被告が1人でこなした。

 帰宅後、慣れない仕事で持ち帰った作業をしながら介護に追われる。祖母は認知症の影響で「お金を取ったやろ」「泥棒」と暴れることも。トイレの介助は約1時間おき。徘徊(はいかい)に付いて、1時間ほど歩いたこともあった。

 「想像以上に大変だった。睡眠は1日に2時間程度。寝ているのか、起きているのか、分からない状態だった」と被告。叔母に相談したが「認知症やから」などと返された。叔母は高齢者施設の入所に否定的だったといい、被告は「我慢するしかないのかなと思った」と振り返った。

    ◆   ◆

 事件が起きたのは19年10月8日。前夜、被告は自殺未遂を起こしている。

 「明日からまた介護と仕事なのか、と思って」

 翌朝、「体を拭いて」という祖母の声で目覚めた。お湯でぬらしたタオルで拭いていると、祖母が「あんたがおるから生きとっても楽しくない」などと怒鳴り始めた。謝っても、暴言はやまない。「今までやってきたことが全否定された気がした」。怒りが抑えられなくなった。

 「黙ってほしくて、タオルでおばあちゃんの口をふさいだ。途中、このまま死んでしまうかもと思った。でも、その時はそれでもいいと思ってしまった」。その後、警察に電話をした。

 精神鑑定をした医師は、被告は犯行当時、ストレスによる適応障害だったと述べた。それほど追い詰められていたが、SOSは周囲に届いていなかった。

 神戸地裁の飯島健太郎裁判長は18日、「当時21歳で社会経験に乏しかったことなどに照らせば、被告人が介護負担軽減策をとることは実際上困難だったと考えられる」と指摘した。(中島摩子、広畑千春、村上晃宏)

残念ながらこれは、孫が介護を断りにくい条件がそろっていますね。つまり孫も、引き取ってくれた叔母に対する負い目があったし、叔母の方も「引き取ってあげたんだから、彼女にはこれくらいの負担は我慢してほしい」くらいの考えがあったのでしょう。そしてここにはやはり、ジェンダー的な問題も見えますね。彼女が男性だったら、新卒の彼に、叔母もこのような介護をすることを要求したか。したかもしれませんが、たぶん女性に対するほど強い要求はしなかったのではないか。あるいは男性の方もこの女性のような精神的完全燃焼とでもいうような介護をしたかどうか。もっと早く、「お手上げ」の状態になっていたし、また周囲も、女性に対してよりは、「仕方ない」と考えてくれなかったか。たぶん考えたんじゃないんですかね。

殺された祖母も本当に気の毒だし、そこまで追いつめられた孫も本当に気の毒ですね。自殺未遂をする前に、「やってられん」となっていればよかったのですが、自殺未遂の時点で彼女は、一つの線を越えてしまったのかもです。その時点で彼女が祖母の介護を放棄したとして、それはとても他人が非難できるようなものではないですが、遺憾ながら悪い条件が重なるとこのような事態が起こりうるということなのでしょう。ここまでにいたる前にさまざまな分岐点があったはずで、どのようにしていればこの事態を防げたかというのは、おそらく検証はされているのかもですが、なるべくならそれをこのような事件が再び起きないようにするための道しるべにしないとですね。いろいろなパターンがあり、それを防ぐためには過去のどのような事例を見ればいいかということも、行政やケアマネージャーほかもいろいろ知識を共有しなければいけないし、私たちもそれを学べればなと思います。私たちも介護をする側、される側になりうるし、それは「金持ち」とか「有名人」「社会的地位」などとは本質的に関係がない。なかなか怖い世界です。

記事へのヒントとなるコメントをいただいたnordhausenさんに感謝を申し上げてこの記事を終えます。

 


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