7月末にこのような記事を書きました。
栗城史多という人の周囲についてどれだけ書けているかが問題だつまり2018年に遭難死した登山家の栗城史多氏について書かれた本が、「開高健ノンフィクション賞」を受賞したので、ぜひ読んでみたいということを書いた記事です。栗城氏については、彼が亡くなった際にも記事を書いています。
「どうもなあ」と言わざるを得ない遭難死それで、7月末の記事で私は、
>ほかにも企業から一般ファンにいたるまでいろいろなところから金を集めたりというのも引っ込みがつかなくなった理由でしょうが、そういった部分がどれくらい受賞作では書かれているかがポイントですね。栗城氏個人の問題だったら、いまさら本にする必要もないでしょう。彼が相当話を盛ったり実態にそぐわないことを宣伝してたことはわかっている。彼自身よりも、そういった負の部分を知ってか知らずか彼を取り上げたり資金援助をしていたマスコミや企業、ファン個人にいたるまで、どのように彼を祭り上げてそして引き返せないところまで追いやったかということをどれくらい論じられているか。それは本を読まないとわからないので、いちおう読んでみたいと思います。面白かったら記事にします。つまらなければ書きません。
と書きました。栗城氏絶賛本ならそのような本に価値はないでしょう。そしてそのような本だったらやはり「開高健ノンフィクション賞」は受賞しないでしょう。なぜ彼が、死ぬところまで追い込まれたのか、あるいは第三者が(その気でなくても)追い込んでいったかということがどれくらい書かれているかが、本のポイントだと思います。
それで先日「そういえばあの本そろそろ発売だろうな」と考えて、ちょっと検索してみました。そうしたら次のような記事が見つかりました。
>開高健ノンフィクション賞 受賞作リスト
第18回 2020年
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 』
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』河野 啓
河野 啓 登山家の栗城史多さんがエベレストで滑落死したのは、2018年5月のことだった。
北海道の民放局に勤める私(河野)は彼を2008、9年ごろに密着取材し、ドキュメンタリー番組を作った。山を舞台にする登山家なのに「マグロのような体を作りたい」と語るユニークな感性に惹かれた。彼がヒマラヤ山中で撮影した「ジャパニーズ・ガール」と呼ばれる遺体の謎を追ったりもした。当時、彼には婚約者がいて、私は彼女とも親交を結んでいた。
「デス・ゾーン(死の領域)」をゆく彼は、輝きに満ち溢れていた。自撮りした登山の映像をインターネットに流し、多くのファンを掴んでいった。世界最高峰への「単独無酸素」での登頂の様子を生中継すると宣言し、「夢を共有しましょう」と人々に呼びかけた。メディアは彼を「新時代の登山家」と称賛した。
しかし、私はある理由から交流を絶った。
一方で、栗城さんのエベレスト登頂も失敗を続ける。2012年には凍傷で両手の指9本を失った。私が取材から離れた10年ほどの間に、彼は大好きだったはずのネット界から「叩かれる」存在になっていた。
それでも登頂を目指し続けた栗城さんは、最後となった8回目の挑戦でエベレスト最難関の絶壁を選んだ。そして……。
栗城さんはなぜ登り続けたのか? 最期の瞬間に何があったのか? そして、どんな人生を送ろうとしていたのか? その答えを知りたくて、私は取材を再開した。
登山関係者、エベレストに向けて彼をサポートした「山の先輩」、幼馴染、大学時代の教授と仲間たち、彼の応援団長、講演の手ほどきをしたビジネスの師匠、そしてネパールのシェルパ……。
栗城さんは、彼が信奉していたある人物に意外な言葉を残していた。
そしてわかった。本当の「デス・ゾーン」は栗城さん自身の中にあった……。
なかなか興味を引きますね。それでAmazonで確認してみました。
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場>2020年 第18回 開高健ノンフィクション賞受賞作。
両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家・栗城史多(くりき のぶかず)氏。エベレスト登頂をインターネットで生中継することを掲げ、SNS時代の寵児と称賛を受けた。しかし、8度目の挑戦となった2018年5月21日、滑落死。35歳だった。
彼はなぜ凍傷で指を失ったあともエベレストに挑み続けたのか?
最後の挑戦に、登れるはずのない最難関のルートを選んだ理由は何だったのか?
滑落死は本当に事故だったのか? そして、彼は何者だったのか。
謎多き人気クライマーの心の内を、綿密な取材で解き明かす。
≪選考委員、大絶賛≫
私たちの社会が抱える深い闇に迫ろうとする著者の試みは、高く評価されるべきだ。
――姜尚中氏(政治学者)
栗城氏の姿は、社会的承認によってしか生を実感できない現代社会の人間の象徴に見える。
――田中優子氏(法政大学総長)
人一人の抱える心の闇や孤独。ノンフィクションであるとともに、文学でもある。
――藤沢 周氏(作家)
「デス・ゾーン」の所在を探り当てた著者。その仄暗い場所への旅は、読者をぐいぐいと引きつける。
――茂木健一郎氏(脳科学者)
ならば、栗城をトリックスターとして造形した主犯は誰か。河野自身だ。
――森 達也氏(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)
【著者略歴】
河野 啓(こうの さとし)
1963年愛媛県生まれ。北海道大学法学部卒業。1987年北海道放送入社。ディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。高校中退者や不登校の生徒を受け入れる北星学園余市高校を取材したシリーズ番組(『学校とは何か?』〈放送文化基金賞本賞〉、『ツッパリ教師の卒業式』〈日本民間放送連盟賞〉など)を担当。著書に『よみがえる高校』(集英社)、『北緯43度の雪 もうひとつの中国とオリンピック』(小学館。第18回小学館ノンフィクション大賞、第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞)。
著者である河野氏は、ヤンキー先生への失望もあってか(こちらに書いてあることは、そういうことであろうと私は理解しています)、北星学園余市高等学校への取材から遠のいたようですが、栗城氏についても取材から離れたようですね。細かい事情は本に書いてあるでしょうが、やはり彼の実情を知って失望したのでしょうね。このあたりも本を読んで確認したいと思います。
いずれにせよ栗城氏の遭難死は、ご当人だけの問題でもないでしょう。河野氏をふくめたマスコミが大げさに彼を持ち上げたのも確かだし、また企業から一般人にいたるまで、実に多くの人たちが彼を何らかの形で支援したわけです。先日三菱重工のジェット旅客機が、コロナにかこつけて撤退の理由の1つにあげられていましたが、その伝でいうと栗城氏も指を9本失った時点で「やめます」と宣言すればよかったのです。指を9本失った人物に「ぜひ初志貫徹してエヴェレストに登ってくれ」という人もあまりいないでしょうが、けっきょく彼は、そのような社会常識も通用しなかったわけであり、それはご当人の問題ですから仕方ありませんが、そのあたりがたぶん本のメイン、最高の力点で取材されているところだと思います。ここを私も楽しみにしたいと思います。
読んで面白ければ記事にしますが、つまらなければしませせんので、そのあたりはご了解ください。