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水島新司も、けっきょく作品をやめるべき時にやめられなかったと思う

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漫画家の水島新司が引退するそうですね。記事を。

>「ドカベン」漫画家 水島新司さん 引退を発表
2020年12月1日 18時32分 

人気野球漫画「ドカベン」や「あぶさん」などの作品で知られる水島新司さんが、1日をもって漫画家を引退すると発表しました。

これは、水島新司さんが事務所を通じて発表したもので、この中で水島さんは「昭和33年(1958年)18歳で漫画家としてデビュー。今日まで63年間頑張って参りましたが、本日を以て引退することに決めました」とコメントし、漫画家を引退して今後は新たな作品の発表を行わないことを明らかにしました。

そのうえで「長年お世話になった出版関係者の皆様、漫画界、野球界、作画スタッフ、そしてなによりも作品を支えてくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。これからの漫画界、野球界の発展を心よりお祈り申し上げます」と記しています。

水島さんは、新潟市出身の81歳。

昭和40年代から野球をテーマにした作品の発表を始め、中でも、昭和47年に連載が始まった「ドカベン」は、おととしシリーズの連載が終了するまで、40年以上にわたって続いた代表作となり、単行本はシリーズ累計で205巻まで刊行されるなど、世代を超えて多くの読者に読み継がれてきました。

このほかにも、酒豪の強打者が主人公の「あぶさん」や「男どアホウ甲子園」「野球狂の詩」など、数々の人気作を発表しています。

事務所によりますと、水島さんは、おととし8月に「あぶさん」の読み切り作品を漫画雑誌に掲載したあとは、新作の発表はしていなかったということで、引退の理由については明らかにしていません。

(後略)

このあとちばてつやほかの談話がありますが、それは省略します。芸能人やスポーツ選手でなく漫画家(小説家などもそうでしょう)が「引退」を表明するというのもあまり聞かないような気がしますが、やはりスポーツ界を意識したんですかね。

上の記事にもあるように、すでに2年以上新作の発表はしていなかったようですね。私は特に彼のファンではないし野球もそんなに好きでもありませんが、彼の漫画もある程度は読んだことがあります。

さて、彼の漫画というとやはり「ドカベン」と「あぶさん」が双璧なんですかね? それで、この2本は、実にえんえんと連載が継続しました。

「ドカベン」が1972年から81年まで連載が続き、その続編が「大甲子園」、「ドカベン プロ野球編」、「ドカベン スーパースターズ編」、「ドカベン ドリームトーナメント編」と続きました。断続的にではありますが、最終的に連載が終了したのが2018年です。

それで「あぶさん」は、1973年から2014年まで連載が続きました。これがまさに同時代進行で主人公他も1年1年年を取っていくわけで、適当なところで連載を打ち切るべきだったのでしょうが、理由はともかくそれはできませんでした。Wikipediaから引用しますと、

>何度か作者が連載をやめようとしたが、思いとどまった事を上田利治に話したところ、「それが良い、あぶはパ・リーグの宝だから」と言われている。一方福岡に移転した1990年代以降は年齢[3]にもかかわらずキャリアハイに突入、三冠王などタイトル獲得や日本記録更新、60歳を越しても現役[4]かつ4番に座るなど現実離れした描写が顕著化するようになる[5]。ホークスが強豪チームになった2000年代以降は、セ・パ各球団の主力選手が景浦の一挙手一投足に感動し、「全部あぶさんのおかげです」「やっぱりあぶさんは凄い」と述べるワンパターンかつマンネリオチが乱発されるなど、南海時代から大きく作風が変化していった。こうした状況を水島ファンでもある伊集院光は、DH制導入や本拠地移転等での「連載を止めるタイミング」を見失い、(作風を変化させながら)連載を続けざるを得なかったのではないかと指摘している[6]

ということです(引用の太字も原文のまま)。なお注釈の[5]には,

>この描写は「ドカベン プロ野球編」など同時期の水島作品に共通して見られる傾向である。

とあります。

どういう事情で連載が続いたのか、あるいは水島が連載をやめなかったのかその理由は当方の知るところではありませんが、水島と出版社(秋田書店と小学館)の経済的な理由は当然としても、やはり水島に期待されていることが、この2本を継続するということに特化されちゃったという部分があったのだろうなと思います。出版社にも読者にも、そして水島の周囲からもです。上の引用の

>それが良い、あぶはパ・リーグの宝だから

というのは、やはり連載継続の大きな理由にはなったのだろうなと思います。

映画監督や俳優(「男はつらいよ」での山田洋次渥美清など)ばかりでなく、bogus-simotukareさんがコメントをくださったように

>「やはりドラえもんもそういう話があるか」という気がしますね。

つまり藤子・F・不二雄(藤本弘)も「ドラえもん」ばかり描いている、期待されることに嫌気を感じている部分もあったようですし、またこれとは逆ですが、「ど根性ガエル」で一世を風靡した吉沢やすみなど、その後は満足のいく作品を発表できず(「人気がない」という意味です。念のため)、精神的にも崩れてしまいました。

1回だって、「ど根性ガエル」のような作品を生み出せばすごいと思いますが、人生そのような過去の成功が取り返しのつかない重荷になることもあります。一般人からすれば「ぜいたく言うな」かもしれませんが、手塚治虫のような天才の中でも別格中の別格、天才の中の天才ならまだしも(もちろん彼も、いろいろ苦労はあったわけですが)、そうでなければやはり修羅場をくぐることもあるのでしょう。なお吉沢のWikipediaによると、手塚は吉沢の結婚式のあいさつで、

>「自分もいろんなキャラを作ったが平面ガエルは思いつかなかった。すごい発明」「ピョン吉を一生大事にしてください」等と賛辞を送ったという

のだそうですが、あいさつの中の

>ピョン吉を一生大事にしてください

というのは、ずばりキャラクタービジネスの件からしてもなかなか興味深い発言ですね。手塚は単に、作品のことだけを述べたのかもですが、1990年代にキャラクタービジネスがあたり、経済的に困窮していた吉沢はそれで助かりました。

水島の漫画も、肖像権の問題など、いまからするとかなり牧歌的だとかさすがに現在では通用しないとかいろいろ考えますが、やはり彼も、ある時点で特に「あぶさん」は打ち切るか主人公をコーチにするかしなければいけなかったのでしょうね。もちろん彼が連載を始めたときは、こんなに連載が続くなんて彼は考えなかったでしょうが、やはり晩節を汚したといったら言い過ぎかもですが、「長すぎた」を言われても仕方ない状況だったと思います。

野球はそんなに好きではないので今後彼の漫画を私が読み返すことはないでしょうが、それはともかく「お疲れさまでした」ともうしあげてこの記事を終えます。


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