今日は3月1日です。3月1日といえば、Wikipediaでの3月1日のできごとの中に、
というのがあります。今日はこの関係の記事を。
2019年は、この件から100年後でしたので、そういった関係もあってでしょう、櫻井よしこが次のような記事を発表しています。初出は、
＞『週刊ダイヤモンド』 2019年3月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1270
とのこと。
「 韓国の現政権は事実上の敵対勢力 日本はあらゆる面から備えるべきだ 」 | 櫻井よしこ オフィシャルサイト
＞韓国大統領の文在寅氏が、1919（大正8）年3月1日に起きた反日独立の「3・1運動」の100周年記念日を前に、2月26日、独立運動の活動家、金九の記念館で閣議を開いた。戦時を除き、政府庁舎以外での閣議開催は初めてだ。
文氏は、「国家的な意味を込め」た同閣議に先立ち、金九の墓をはじめ、日本の初代首相、伊藤博文公を暗殺した安重根や日本の要人2人を殺害し死刑になった尹奉吉ら、日本から見ればテロリストらの墓を続けて参拝したと、「産経新聞」が2月27日付で報じている。
のっけから「おいおい」ですね。金九にしても安重根にしても、少なくとも李承晩以来の韓国の政権で、彼ら（たぶん尹奉吉も）を否定的にとらえたことなんかないんじゃないんですかね。たとえば安重根の記念館は、日本右翼がやたら評価しているらしい朴正熙政権下の1970年に設立されています。そしてそれが今日まで続いているわけで、文大統領がどうこうという話ではない。また金九にいたっては、Wikipediaから引用すれば
＞1919年以来、上海で臨時政府に参加し、大韓民国臨時政府の警察本部長、内務大臣、大統領代理、国務領（大統領）などを務めた。1924年、満州の朴喜光（朝鮮語版）と通じ親日派暗殺、主要公館破壊などを指揮し、韓人愛国団を組織して李奉昌の桜田門事件、尹奉吉の上海天長節爆弾事件を指示した。1940年から1947年まで大韓民国臨時政府の主席であったが、南朝鮮単独選挙実施を巡って李承晩と対立し、1949年6月26日に暗殺された。
という人物です。それは、韓国政府が彼を高く評価するのは当然でしょう。だからこれまた朴正熙政権下で
＞1962年、建国勲章大韓民国勲章を追叙された
というわけです。尹奉吉だって
＞韓国政府は、1962年に建国勲章大韓民国章（1等級）を贈り、独立運動の義士として顕彰し、独立記念館に祀っている。安重根・金佐鎮・柳寛順とならんで韓国海軍の潜水艦の艦名ともされた。このように韓国では義士と称されており
というわけです。韓国でのこの人たちの評価は、文大統領だから高いとかそんなものではない。
だいたい三・一運動に限らず、この時代に平和的な独立運動なんかなかなかうまくいかなかったわけです。ちょうど同じ1919年にはじまったアイルランド独立戦争だって、映画にもなったマイケル・コリンズやのちにアイルランドの首相や大統領になったエイモン・デ・ヴァレラほかだって、まったくもってテロリストです。しかし現在、彼らもそうそうは非難されない。テロリストに対する厳しい態度で知られるイスラエルだって、首相だったメナヘム・ベギン（Wikipediaには、「元テロリスト」とあります）が所属していたイルグンなんて完全なテロ組織です。ベギンはリーダーを務めたし、また彼はコリンズを尊敬していました。しかし国家を樹立すれば完全にテロリストではなくなるわけです。正直、ある程度革命かそれに近い政権移譲が平穏に可能となったのは、89年の東欧の変革とか、91年から94年の南アフリカのアパルトヘイト廃止あたりからじゃないですかね。ベトナム戦争ほか、70年代あたりは、熱い戦争が当然の時代でもあった。第二次世界大戦後だって、ベトナムやインドネシア、アルジェリアなどは、宗主国との独立戦争を必要としたわけです。日本だって、明治維新などは戦争をしなければ実現できなかったし、またしばらくは西南戦争を頂点かつ最後とする内戦もあったわけです。西郷隆盛なんて幕府からすれば最高レベルに悪質な反逆者だし、明治政府からすれば内戦首謀者というもっとも悪逆な国家反逆者、テロリストであるはず。しかしNHKすらも「大河ドラマ」でとりあげる。なぜ？
話が飛びました。櫻井の記事を。
＞まず、文氏が直面する問題である。文氏は反日を意識する余り、日本を貶め、日本に協力した人々（たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前大統領）を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。また現在の大韓民国の起源を前述の100年前の反日独立運動に求め、そのときの政府は大韓民国臨時政府だとの立場をとる。
文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えている。だが、北朝鮮に求愛する文政権に対して、朝鮮労働党委員長の金正恩氏は全く異なる考えを持つ。
金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったりもしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919年も3・1運動も無意味だ。
これも「？」な記述ですね。
＞文氏は反日を意識する余り、日本を貶め、日本に協力した人々（たとえば朴正煕元大統領やその長女の朴槿恵前大統領）を貶め、「親日派」の清算に力を注ぐ。
朴正熙の対日協力なんて、そんなの韓国という国を成り立たせるための方便じゃないですか。韓国が経済的に強い国になれば、そんな「対日協力」などというものは必要なくなる。また朴槿恵って、いうほど日本に協力（？）していましたかね。いい悪いは別として、そんなにいうほどのこともないのでは。
＞文氏はそのうえで、北朝鮮との連邦政府構築に向けて走りたいと考えている。
櫻井がこの記事を書いた2019年の段階でも現在でも、そんな話は時期尚早でしょう（苦笑）。
＞北朝鮮に求愛する文政権
馬鹿なこと言っているんじゃない（呆れ）。
＞金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。従って、その日を祝ったりもしない。金氏にとって記念すべきは故金日成主席の樹立した朝鮮民主主義人民共和国の足跡である。祝うべき建国は1948年9月なのであり、1919年も3・1運動も無意味だ。
こういう話をもっともげに言われると、「北朝鮮も唯我独尊の国だからなあ」と思って信じそうになりますが、はて実際のところどうでしょうかね。2019年の朝鮮新報の記事です。
＞3.1独立運動に際して／平壌で報告会と討論会
2019.03.05 (13:17)
共和国
“国と自主権取り戻す愛国抗争”
3.1人民蜂起100周年を記念して、「3.1人民蜂起100周年記念平壌市報告会」が1日、平壌の人民文化宮殿で行われた。
最高人民会議常任委員会の楊亨燮副委員長、盧斗哲内閣副総理、朝鮮労働党中央委員会の崔輝副委員長、祖国平和統一委員会の李善権委員長、祖国統一民主主義戦線中央委員会の朴明哲議長兼書記局長、平壌市人民委員会のチャ・フィリム委員長、社会団体の活動家、平壌市内の勤労者たちがここに参加した。
最高人民会議常任委員会の金永大副委員長が報告を行った。
報告者は、3.1人民蜂起は日帝に奪われた国と民族の自主権を取り戻すための愛国抗争であったと指摘。「朝鮮民族の自主の精神と不屈の気概、愛国精神を誇示し、日帝の植民地統治に大きな打撃を与え、世界の被圧迫人民たちの民族解放闘争を大きく鼓舞した」と述べた。
また、「3.1人民蜂起は人民大衆が民族の自主権と国の独立を求める闘争で勝利するためには、卓越したリーダーと革命的党の領導の下、自らの力量を固め、正しい戦略戦術に沿って組織的な闘争を展開するべきであり、武装には武装で立ち向かわなければならないという教訓を残した」と指摘。民族の自主独立を願う朝鮮人民の願いが金日成主席によって実現されたと強調した。
報告は、「大東亜共栄圏」を実現しようと、朝鮮半島の平和と統一を悪らつに妨げている日本政府の反共和国敵視政策と再侵略策動を潰さなければならないとしながら、日本の過去清算を強く要求した。
2月28日には、3.1人民蜂起100周年に際した社会科学部門の討論会が平壌の人民文化宮殿で行われた。
上の記事での
＞報告者は、3.1人民蜂起は日帝に奪われた国と民族の自主権を取り戻すための愛国抗争であったと指摘。「朝鮮民族の自主の精神と不屈の気概、愛国精神を誇示し、日帝の植民地統治に大きな打撃を与え、世界の被圧迫人民たちの民族解放闘争を大きく鼓舞した」と述べた。
また、「3.1人民蜂起は人民大衆が民族の自主権と国の独立を求める闘争で勝利するためには、卓越したリーダーと革命的党の領導の下、自らの力量を固め、正しい戦略戦術に沿って組織的な闘争を展開するべきであり、武装には武装で立ち向かわなければならないという教訓を残した」と指摘。民族の自主独立を願う朝鮮人民の願いが金日成主席によって実現されたと強調した。
というくだりは、運動について明らかに肯定的な評価ですよね。時代的な限界ほかの指摘はあろうとも、一定の意義を認めているのは疑いのないところです。また最後の下りの2月28日の討論会についての記事もあります。同じく朝鮮新報の報道によれば
＞平壌で討論会／3.1人民蜂起100周年に際し
2019.03.06 (16:43)
【平壌発＝金淑美】3.1人民蜂起100周年に際して社会科学部門の討論会が２月28日、平壌の人民文化宮殿で行われた。社会科学院のリ・ヘジョン院長、関連部門の教員、研究者、記者らの参加の下、3.1人民蜂起の歴史的意義と教訓、日本の加害責任を示す5編の論文が発表された。
ですからね。少なくとも「無意味」ということはないでしょう。これ以降は、会員限定記事ですので私は読めませんが、bogus-simotukareさんの記事から引用します。
＞ 3.1人民蜂起100周年に際して社会科学部門の討論会が２月28日、平壌の人民文化宮殿で行われた。社会科学院のリ・ヘジョン院長、関連部門の教員、研究者、記者らの参加の下、3.1人民蜂起の歴史的意義と教訓、日本の加害責任を示す5編の論文が発表された。
金日成綜合大学歴史学部のチェ・スナム学部長は、3.1人民蜂起が朝鮮人民の反日民族解放闘争の歴史において特筆すべき民族的な壮挙であったことを、蜂起の規模と特徴、蜂起で発揮された人民の民族精神、蜂起が反日民族解放闘争に与えた影響などに対する分析を通して解説・論証した。
1919年3月1日に端を発する3.1人民蜂起は、平壌、京城（現在のソウル）、南浦、義州、宣川、元山など主要都市で大衆的な反日蜂起が沸き起こったのを契機とし朝鮮全土はもとより中国東北地方やロシアの沿海地方など朝鮮人の居住する地域に急速に波及した。チェ学部長は3.1人民蜂起は日帝の植民地支配に多大なる打撃を与えたに留まらず、朝鮮人民にとっては民族的覚醒を促し、闘争を通じて単純なデモ行動や分散的で非組織的な闘いでは民族的独立を成し遂げることはできないという貴重な教訓を得たと指摘。過酷な植民地支配に屈せず朝鮮人民が発揮した愛国精神を引き継ぎ、全民族的な運動で自主的な統一祖国を築く闘いに積極的に参加すべきだと強調した。
とあります。つまり北朝鮮は、限界を指摘しながらも、櫻井の言うように
＞金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。
ということはないわけです。意義をそれなりには認めている。
まあでもこれはある意味当たり前ですよね。これは、あるいは櫻井は違う意見なのかもですが、普通、ある国の先人の民族運動や革命運動は、だいたいにおいて後世の人間から否定はされないですよね。明治維新だって、明治以降の日本の歴史に批判的な左翼系の学者だって、それなりの評価をしています。これは、フランス革命のジャコバン派などに関しての問題、ロシア革命などに関係するフランス人やロシア人の評価も同じところはあるでしょう。中国共産党が支配する大陸中国でも、孫文の尊敬のされ方は別格です。今の台湾だって、非国民党政権とはいえ、孫文や蒋介石はやはり別格の存在です。米国だって、ワシントンの存在は今日にいたるまで格が違うでしょう。北朝鮮だって、よほどのことがない限り、
＞金氏は3・1運動の意義など全く認めていない。
なんてことはおかしいわけです。自分たちが朝鮮半島の正当な政権であると称するのであれば、そういう態度を取るというのは変な話です。たぶん櫻井は、その場しのぎでデタラメほざいているだけでしょうが（笑）。だいたい、こんなの仮に事実だとしたって「それ北朝鮮の話でしょ。韓国とは関係ないじゃん」でおしまいです。要は、bogus-simotukareさんがご指摘なように、
＞ 要するに「文大統領は北朝鮮の精神的奴隷だから苦悩してる」「精神的奴隷だからそのうち31運動否定を始めるんじゃないか」「精神的奴隷であることに耐えられなくなって北朝鮮を批判し始めるんじゃないか」とか言いたいんでしょうねえ。常日頃、文氏のことを従北派（北朝鮮シンパ、北朝鮮の手先）よばわりしてますから。
太陽政策ってのは「精神的奴隷」じゃないんですけど（苦笑）。
ということなんでしょうねえ。こういうデタラメほざく人間が
＞この北朝鮮の主張及び公式の立場と、自らのそれをどのように整合させていくのかが、文氏の問題だ。
なんて無様で無残にもほどがあります。デマ記事にもほどがある（笑）。いや、櫻井がいち狂信的右翼政治活動家だというだけなら別に知ったことじゃないけど、これが前首相である安倍晋三のブレーンであり、産経新聞などにも影響力がある人物であるとなると、あんまり笑ってばかりもいられません。まあ安倍ですら、櫻井の主張も適当にあしらっていた部分も多々ありましたが（中国との関係など）、でもやはり安倍も櫻井を切るにはいたりませんでした。たしかに安倍政権が復活して長続きした理由というのも、櫻井をはじめとする右翼連中が、安倍から期待を裏切られながらも最後まで支持し続けたことも大きなものですからね。それもどうかです。
なお上にも引用したbogus-simotukareさんの記事をこの記事のヒントとしました。また記事の一部を、参考にした記事に私が投稿したコメントを再利用しています。