ここ最近また大島渚監督関係の記事をいろいろ書いていますが、つまりこれは、下の引用にもありますように、大島監督の作品が2023年に国立機関へ収蔵される予定であるということにより、主要作品の最後の大規模公開が行われるということに付随するものであり、この本もその一環ということになろうかと思います。記事を。
>「大島渚全映画秘蔵資料集成」発売! 大島作品をめぐる記念碑的な書籍が誕生
2021年2月18日 11:00
空前絶後のアーカイブ本が発売
日本を代表する映画監督・大島渚氏と、これまで手掛けてきた映画作品をめぐる記念碑的書籍ともいえる「大島渚全映画秘蔵資料集成」(国書刊行会)が、発売されることが明らかになった。
編著は、映画評論家で映画監督の樋口尚文氏。大島家、大島渚プロダクションの全面協力のもと、樋口氏が大島監督の書斎から保管庫、大島プロが管理する資料庫にいたるまで、膨大な量の資料を数カ月にわたり調査。初めて紹介する資料群を通して、大島監督の「創造」と「人間」の全貌に迫るもの。
500ページに及ぶという同書では、各所に秘蔵されていた写真、ノート類など製作時の資料図版を作品ごとに多数収録。そして、大島監督の映画製作過程、その人物像について時代背景を含めて詳細に解説していく。と同時に、大島監督本人の貴重な証言も時系列で並行して配し、激しくも豊穣な軌跡を立体的に浮き彫りにしていく。
松竹ヌーベルバーグを生み出し、「愛の亡霊」でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞するなど常に海外に目を向けていた大島監督。同書ではあらゆる年代を多角的に切り取っているが、「幻の企画と晩年」というパートでは、実現することが叶わなかった監督作「日本の黒幕」、製作が中止になった「ハリウッド・ゼン」、幻となったテオ・アンゲロプロス作品についても触れられるようで、興味は尽きない。
樋口氏は2002年にも「大島渚のすべて」を刊行しているが、大島監督との関係は17歳の頃までさかのぼる。高校生だった樋口氏が監督した自主映画「ゲリラになろうとした男」を、大島監督が激賞したことから交流がスタート。電通に勤務していた時代には遺作となった「御法度」のテレビスポット制作を担当しており、樋口氏でなければここまで踏み込むことは許されなかったといっても過言ではないほどの、唯一無二の“大島本”といえそうだ。
また、同書の刊行を記念し、東京・シネマヴェーラ渋谷で大島監督の特集上映「オーシマ、モン・アムール」が4月3~23日に開催されることが決定。さらに、デジタル修復された代表作「戦場のメリークリスマス」「愛のコリーダが4月16日から東京・ヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほかで2作連続公開される。大島監督作は2023年に国立機関に収蔵される予定のため、今回が最後の大規模全国公開となる。
「大島渚全映画秘蔵資料集成」は、4月に刊行予定。予価8800円(税別)。
■樋口尚文氏コメント
昨秋、長年着手せねばと思っていた故・大島渚監督が遺した厖大な資料の精査についに踏み切り、小山明子さん、大島渚プロダクションの大島新監督の全面的なご協力を得て、藤沢の大島邸の書斎、保管庫から大島プロの保管庫、さらに関係各所に通い詰めて、資料の分類と撮影を続けましたが、これだけでまるまる三か月を要し、さらにそのアーカイヴの分析・執筆作業が数か月を経てまだ続行中です。大島監督が遺した資料のボリュームは圧倒的で、私がぜひ知りたいと望んだ異色作の創造工程をつまびらかにする数々の手がかりや実に珍しく興味深い写真の数々など驚いた「発掘物」は枚挙にいとまがありません。本書はこの恐るべき質と量の資料群を念入りに蒐集保管していた大島監督ご自身の「アーカイヴ熱」を再現することにも留意しながら、この「映画」と「知」の巨人の足跡をいきいきと記録したいと考えています。
税別8800円ってことは、消費税10%で9680円なんですかね。何らかの理由で消費税を免除できる人がいたら、ぜひそっちで買いましょう。
いずれにせよこれは今まで出版された大島本のなかでも最高のものになりそうですね。大島監督関係の本も、監督自身の著作から研究者の批評本、家族である小山明子や子息の大島武と大島新両氏の著作、『愛のコリーダ』や『戦場のメリークリスマス』に特化した書籍、いろいろですが、おそらくこの本は、そういったものをすべて総合したようなものになるはず。大変高価な本ですから、正直普段なら図書館に入れてもらうのですが、これは私も、大島渚の映画を観ることに関しては人並み以上の努力をしているし、また興味と関心を持っていることを自称している人間ですから、これはやっぱり買わないわけにはいきませんね。というわけで買います。興味はあるが高すぎて買えない人は、可能でしたら地元の図書館にリクエストをしていただければ幸いです。あなたが読むだけでなく、他の人も読めるような態勢をつくることにご協力していただければ幸いです。私もすることにしよう。
それではこちらの記事も。
>大島監督の学生時代の数学のノートに始まり、助監督時代の日記、監督デビュー後のさまざまな企画メモ、撮影プランの紙片、はては製作中の契約書、領収書までを精査するなか、『愛のコリーダ』編集時のフランスの現像所から大島監督が持ち帰った幻のフィルム、『戦場のメリークリスマス』の巨大なアートのごときセットの建造過程や『マックス、モン・アムール』のマックスのボディ・スーツの制作工程にまつわる貴重資料などを続々と発掘。企画されたが、映画化にはいたらなかった東映やくざ映画『日本の黒幕』の制作メモ、早川雪洲とルドルフ・ヴァレンチノの確執を描く『ハリウッド・ゼン』の複数のシナリオ、テオ・アンゲロプロスが大島渚を撮ったカンヌ映画祭用の幻のフィルムなど、映画ファンなら目がくらむような垂涎の資料を濃厚な解説とともに収録している。
というわけで、これはなかなかすさまじいものが期待できそうですね。私がこの本を買ったら、まさに夢中になって読んでしまいそうです。
大島渚というのは芸術家でありドキュメンタリストでもありました。そもそも映画監督というのは、助監督を映画会社が採用した時代はだいたいにおいて文学部出身者がなることが多かったわけですが、大島は松竹での同期採用者の山田洋次と同様めずらしい法学部出身者でした(大島は京都大学、山田は東京大学)。おそらくそのせいもあって大島は大変な論客でもありました。晩年の大島氏は正直いろいろよろしくないところもあったかと思いますが、やはりある時期までの鋭さは永遠に時代に残るものだと思います。その業績と軌跡を追い続けるための最高の資料にこの本はなるのでしょう。私も、その業績と軌跡をこの本を読んで追っていくこととします。