inti-solさんが非常に勉強になる記事を発表してくださいました。
つまり雨宮処凛が、昨年末に起きた大阪の北新地におけるビル放火殺人事件で、実行犯が生活保護の受給相談したにもかかわらず最終的な申請に至らず需給にならなかったことが、この事件の原因(あるいは遠因)ではないかという指摘をしたわけです。
もし生活保護を利用できていたら。大阪の放火事件についての新事実
それでinti-solさんは、
>では、もし受給していたらこのような事件を起こしていなかったのでしょうか?
本人も死んでしまい、「たられば」をいっても実際には分かりませんが、確かに生活保護を受けていれば事件を起こさなかった可能性は、ゼロではないでしょう。しかし総合的に考えて、その可能性が高いとも言えません。
とお書きになったうえで、京都アニメーション放火殺人事件の犯人である青葉真司被告(この記事では実名を表記します)を例に出しています。北新地の事件の犯人は、この京都の事件を参考にした形跡があり、青葉被告は生活保護受給者でした。inti-solさんは、
>生活保護で最低限度の生活を保障されても、このような凶行に走った容疑者がいる以上は、今回の犯人も「生活保護を受けていれば凶行に走らなかっただろう」とは言えません。
とお書きになっています。
>生活保護制度は金銭的貧困という「結果」を最低限度は解決しますが(充分な額、とは言わないにしても)、貧困に至る「原因」を解決するわけではありません。
お金がないという結果を解決すれば全体の問題が解決できるのは、社会性に、少なくとも致命的な問題は抱えていない人に限られます。社会性に大きな問題を抱えている人の中には、生活保護によって最低限度の生活かが保障されていても犯罪を犯す人が、どうしても出てくる。人間というのは社会的生物であり、社会的との接点を失っても「まとも」でいるのは難しいからです。
上の青葉被告のような犯罪者ではなくても、ある意味文字通り廃人のようになってしまい生活保護を受給する人というのも出てきます。それで私が思い出したのが、このブログで繰り返しご紹介している元予備校講師の佐藤忠志氏です。佐藤氏は、2019年9月某日(死亡日不明)に亡くなりましたが、その数か月前から生活保護を受給していました。本人の弁によると19年の5月からとのこと。そうだとすると佐藤氏は生活保護受給から半年も生きられなかったということになります。生活保護受給の前には、彼は近所に金を恵んでもらっていたそうです。その3年くらい前には、彼はリバースモーゲージのような形で自宅を売却して1億円の現金で高級車を購入、さすがに愛想をつかされて奥さんが家出したくらいです。で、死の直前に取材を受けた当時の佐藤氏の状況は、
>「電気代もガス代も払えなくてね。今年の5月から生活保護を受けていて、来週、保護費の7万8000円が入ってきたらそこから光熱費を払います。謝礼をもらうと保護を止められちゃうから……」
「(服は)着ない」という佐藤さんは、近くにあった椅子に腰を下ろすと、おもむろにタバコに火をつける。灰がポロポロと床に落ちるが、まったく気にする素振りはない。室内は思いのほか整理されているが、ところどころに吸殻や灰が落ち、黒くくすんでいる。
しばらく無言のままタバコを吸っていたが、「ついて来ていいよ」と言うと、階段に向かった。まだ68歳だったにもかかわらず、歩くのもやっとの様子だった。
壁に手をつき、一段一段ゆっくりと上がっていく。ようやく寝室にたどり着くと、ベッドに腰掛けた。枕元にあるのは近所のセブン-イレブンで売られているワンカップの焼酎と、吸殻で埋め尽くされた灰皿。近くには日本刀のカタログも置かれていた。ベッドはタバコの火種を落としてできた焦げ穴だらけだった。
「いま口にするのは焼酎とタバコくらい。アルコール度数が20度の焼酎が好みで朝も夜もこれを飲んでいます。タバコはケントの1ミリ。食事? ほとんど食べません」
話している途中で思い出したように枕元の焼酎を手に取り、あおり始める。しかし、なかなか喉を通らない。なんとか飲み込んだが、ゴホゴホと咳き込むとベッドの上でもだえてしまう。心配になり、「飲まないほうがいいのでは」と声をかけるものの、「大丈夫、大丈夫だから」と聞く耳を持ってくれない。
という始末です。この取材が、8月末だということなので、たぶん佐藤氏はこの後何週間かで亡くなったかと思われます(遺体が発見されたのが9月24日。すでに死後時間がたっていた状態だったとのこと)。
正直言って生活保護受給となった時点で彼は、アルコール依存症治療と禁煙してニコチン依存症を断つ必要もあったのでしょうが、すでに彼は死へまっしぐらの状況だったかと思います。
これもinti-solさんがお書きになっていることを引用いたしますと、北新地の事件の犯人は、
>犯した犯罪の中身、報じられている前科や様々な行動を総合して考えると、かなり「ヤバイ」人であることは間違いないでしょう。そして、そのヤバさが原因となって社会との接点を失って、疎外、孤立状態にあったとすれば、生活保護を受けてもそれが解消されるわけではなく、従って時期は違っても結局は同様の凶行に至った可能性は高い、と私は思います。
というわけです。青葉被告にしても佐藤氏にしても、明らかにまともな人間ではありませんでした。青葉被告は、単独犯行としては史上最も犠牲者数の多い殺人事件をしでかしてしまったし、DVをした可能性はありますがあからさまな重大な犯罪をした人物ではない佐藤氏は、しかしまったく生活力がない人物でした。おそらく彼は非常に強い発達障害をもっており、まともな生活をすることができずに、孤独死・困窮死をしてしまったのです。
さらに生活保護受給者ではありませんが、附属池田小事件の犯人である宅間守は、Wikipediaから引用すれば(注釈は削除)
>1981年末、18歳のときに航空自衛隊に入隊したが、1983年(昭和58年)1月に1年強で除隊処分を受けている。除隊の理由について、鑑定書は「家出した少女を下宿させ、性交渉した」ために懲罰を受けたと記述している。
>1993年(平成5年)、宅間は30歳のとき非常勤の地方公務員になり、伊丹市営バスの運転手やゴミ収集(1997年)、伊丹市立池尻小学校の用務員(1998年より)などを務めていたが、この間も市バスの運転を務めている最中に乗客の女性に「香水の匂いがきつい」ことを理由に言いがかりをつけてトラブルを起こし懲戒処分を受けている。小学校で用務員を勤めていた際には、ごみを収集場所に持ってきた児童に「入れ方が悪い」と大声で怒鳴ることもあり、児童が校長に、宅間を辞めさせるよう頼んだこともあったという。1998年(平成10年)10月には、別れた妻を殴った傷害容疑で逮捕されている。
1999年(平成11年)3月12日、池尻小学校の用務員を務めていた宅間は、小学校教諭等が飲む茶に精神安定剤を混入させる事件を起こし、同月14日に傷害容疑で伊丹警察署に逮捕され、翌15日に書類送検された。調べによると宅間は12日正午、技能員室で精神安定剤入りの数錠の錠剤を急須の茶に溶かして飲んだが、約40分後に昼食を摂るため部屋に入ってきた教員が同じ急須にポットの湯を注ぎ足すと、宅間は精神安定剤が混ざっていることを知っていたにも関わらず、そのまま教員らの湯呑みに茶を注いだ。約1時間半後になって、教員4人が目まいや口の痺れ、眠気などを訴えて、その後3日間入院した。
逮捕された宅間は調べに対し「妻から別れ話を切り出されたうえ、職場でもうまくいっておらず、視線を冷たく感じていた。教諭四人にうらみはないが、うっぷんをはらそうと、軽い気持ちでお茶を出してしまった」「先生達に無視され家族とも上手くいかず、人間関係による鬱憤を晴らしたかった」と話している。
校長は、宅間に怒鳴られた児童から苦情があったことを述べた上で「本人が家庭や仕事で悩んでいたようなので、何度か話し相手になって励ましてきたが残念」と述べている。14日に開いた臨時児童朝礼では、宅間の逮捕には触れなかったが「皆さんに心配をかけた」と頭を下げ、「命を大切に、明るく安全な学校を作りましょう」と話した。しかし宅間は「責任能力なし」として刑事処分は受けず、神戸地方検察庁により処分保留となった。その後、宅間は同年4月12日付で分限免職となり、精神保健福祉法に基づき、西宮市内の病院へ措置入院させられ(精神分裂病と診断)、本事件を起こすまで4回にわたり、入退院を繰り返した。また、同年11月には民家に忍び込んだとして住居侵入容疑で逮捕され、本事件直前の2001年(平成13年)2月には暴行・器物損壊容疑で書類送検されている。
というわけです。それにしても宅間の場合、自衛隊とか非常勤ではありますが地方公務員になったり(正直よく採用されたなと本気で驚いています)とかまともな職にも就いているのですが、未成年者との性行為や、お茶に精神安定剤を混入させるなどの非行で職を失っているわけです。あまりの非常識さに絶句しますが、その後の彼は、こんなものなど比較にならないほどのひどい犯罪をしてしまったわけです。inti-solさんは、私のコメントへの返しで、
>この人は、人格障害系の障害があることは裁判で認められていますが、人格障害は心神耗弱やまして心神喪失の対象とはならないので死刑になっています。
この犯人がこの犯行に及んでいなかった場合、やはりその後何年かのちには生活保護、ということになっていた可能性は高いと思います。
社会に相手にされず、仕事も長続きしないような人間が、他に収入を得る手段がなければ、最後にたどり着く先は生活保護しかありません。それ以外のすべてに相手にされなくなれば、他に選択肢はありません。
でも、そういう人は結局生活保護でも救うことはできないのでしょう。まさしく、お金があってももちろん、生活保護を受けている人間がそういう人ばかりだ、ということではありません。
とお書きになりました。そうだろうなとおもいます。金銭だけでは、遺憾ながら人を救うことができない(場合がある)わけです。青葉、宅間といった人たちもそうですし、佐藤氏もたぶん発達障害だけでなく亡くなる前には明らかに精神疾患にもなっていたのではないかと思いますが、そのあたりの真偽はさておき、まともでない人間というのは、金だけではしょうがないということなのでしょう。佐藤氏は、金がなくなったら人も近づかなくなり、さらに自分も他人を遠ざけたようですが、社会的との接点を失ったことが、彼の暴走をさらにひどくしたのでしょう。これもinti-solさんからのコメント返しを引用させていただきますと、
>結果的に家を買い取ってお金を全額渡してしまったことが、最後の破綻に結び付いたということなんでしょうね。本当にリバースモゲージを使えば、基本的には月に定額の貸付金という形になるので、一挙に全額を消費、ということはできません。
というのも、まさに致命的でした。家を買った人は、たぶん佐藤氏を支援するつもりもあったのでしょうが、この事態には、絶句にもほどがあったのではないか。
すみません、本日の記事は、ほとんどinti-solさんの記事と私へのコメントの返しの引用に終始してしまいました。inti-solさんに感謝を申し上げてこの記事を終えます。