年末年始の旅から日本に帰ってきて電車(京急)に乗ったら「おや」と思いました。オリンピックキャンペーンのポスターがべたべたはられていたからです。
それから間もなくして、例のレスリング競技を五輪種目から外すという方向になり、ポスターに笑顔の女子レスリング金メダリストなんか起用している場合でもなくなりましたが、どんなもんですかね。
東京都知事のイスラム圏への問題発言とかもどうかと思いますが、トルコ政府がPKKと和解を進めそうだという話もあります。もしそうなれば、イスタンブール開催への後押しになる可能性はあります。記事より。
>トルコ:クルド武装組織が停戦宣言 長期戦で疲弊
毎日新聞 2013年03月22日 東京朝刊
【エルサレム花岡洋二】トルコ・メディアによると、トルコからの分離・独立を目指し84年から武装闘争を続けてきた少数民族クルドの非合法組織「クルド労働者党(PKK)」のオジャラン党首は21日、声明で「停戦」を宣言した。市民を含め約4万人の死者を出した紛争が終結する本格的な和平合意への期待が高まっている。
PKKは99年や06年などにも一方的に「停戦」を宣言したが、政府側が応じなかった。政府は昨年10月以降、イスタンブール近郊の刑務所に収監中のオジャラン党首と和平に向けた交渉を続けており、今回の停戦宣言は実効性を伴うとみられる。エルドアン首相もクルド語のテレビ放送を解禁し、クルド人が多く住む南東部での公共事業を増やすなどして、和平への道筋を模索してきた。
報道によると、停戦宣言に基づき、PKKのメンバー数千人がトルコ領内から、拠点のあるイラク北部へ撤退する。今後、政府側と停戦合意の詳細について協議するとみられる。PKKは今後、独立要求を取り下げ、トルコ国内での政治や教育、文化にかかわる自治権の拡大を求めることになりそうだ。
AFP通信によると、エルドアン首相は「(PKK側が)軍事行動を取らなければ、軍も行動を起こさない」と話した。
停戦宣言は、トルコ南東部での長期の戦闘で、双方が疲弊したことが背景にある。PKKはイスタンブールなどで自爆攻撃を仕掛ける一方、昨年6月以降、トルコ軍がイラク北部のPKKの拠点を空爆するなど戦闘は激化していた。また、トルコ政府にとって紛争は、経済発展や民主化の進展を阻害する一因となっていた。
党の創設者でもあるオジャラン党首は99年に拘束され、国家反逆罪などに問われて死刑判決を受けたが、終身刑に減刑され服役中。トルコ、米国、欧州連合(EU)が「テロ組織」に指定している。クルド人は独自の国家を持たない世界最大の民族とも言われる。
現段階でトルコ政府とPKK側に包括和平が実現するかは未定ですが、もし実現すればこれはトルコ共和国の安全性についての大きなアピールになりますね。そうなると、イスタンブールでの五輪開催への大きな後押しになります。トルコ開催の問題点のひとつはクルド問題でしょう。この件が平和裏に解決するのならば(見通しが立てば)、イスタンブールでのオリンピック開催への大きな障壁が取り除かれるわけです。
私はオリンピック東京開催には反対の立場ですが、でもどうなんですかね。現段階では、イスタンブールがリードしているのでしょうが、東京がそれを逆転できる切り札みたいなものがあるのかどうか。第三国のIOC委員のアピールというと、日中関係が悪い昨今では、あんまり有利ではないかな。石原が都知事でなくなったのは有利でしょう。FIFAワールドカップもイスラム圏(カタール)で2022年に開かれることを考えれば、やはり順番はイスタンブールあたりが妥当なんですかね。
前にも書きましたように、たしかに2020年は東京招致へのチャンスみたいですね。これを逃すとしばらく東京が(というか日本が、東アジアが)オリンピック招致できる見込みはないみたいです。それは仕方ないとしか思えませんが、世の中「オリンピックが好きで好きで仕方ない」「さまざまな利権からオリンピックをよびたい」その他を考えている人がいますので、仕方ないでは話がすまないのですね。すむ話だけどね。
東京への招致の難関の一つは、やはり2018年の韓国・平昌での冬季オリンピック開催でしょう。この点あまりマスコミでも触れられていないような気がしますが(たぶんこれを議論すると、東京開催が非常に困難になるという結論にならざるを得ないからでしょう)、どうなんですかね。2018年→2020年の冬季・夏季のオリンピックが東アジアの地理的にも至近といっていい場所で開催されるのって、たぶん世界的にあんまりいい顔はされないよね(笑)。それは変だ、っていうもんじゃないんですか。
たしかJOCの幹部(竹田恒和さんだったと思う)が、この点について指摘されて「欧州ではやっている」と反論したと記憶しますが、欧州と東アジア(しかも日韓)を比較したってしょうがないだろ(笑)。たくさんの国々がある欧州と、また事実上4カ国(日本、韓国、朝鮮民主主義人民共和国、中華人民共和国)しかない(台湾でオリンピック開催はできない)東アジアでは比較の対象にもならんでしょう。さらになんだかんだと言ったって、白人というか欧米は、非白人への差別意識もある。欧州ならOKでも、東アジアでも可能というものではないでしょう。もちろんそんなことはJOCだって全部分かっている話です。
ほかにもやはり東日本大震災での原発事故のからみもあるし、招致成功の見込みは低いと思います。
ただ前の記事にも書いたように、石原が辞任したのでそれがプラスになる可能性はある(笑)。でもイスタンブールの可能性がいちばん高いでしょうね。またイスタンブールでやるほうが東京でやるよりいいでしょう。トルコでは当然過去開催されていないし、イスラム圏でも開催されていない。たぶんそうなるのでは。
バブル崩壊直後に(91年)開催決定した長野の時などよりはるかに今の日本は経済状態が悪いしまた夏季ははるかに金もかかりますしね。自他共に認める財政状態の悪い日本でオリンピックを開くというのは、ほかに金の使い道があるだろという以上の話ではないと思います。ましてや日本は、戦後3回オリンピックを開催している。戦後だけに話を限っても・・・。
夏季
英国(1948、2012)
フィンランド(1952)
オーストラリア(1956、2000)
イタリア(1960)
日本(1964)
メキシコ(1968)
西ドイツ(当時)(1972)
カナダ(1976)
ソ連(当時)(1980)
米国(1984、1996)
韓国(1988)
スペイン(1992)
ギリシャ(2004)
中国(2008)
冬季
スイス(1948)
ノルウェー(1952、1994)
イタリア(1956、2006)
米国(1960、1980、2002)
オーストリア(1964、1976)
フランス(1968、1992)
日本(1972、1998)
ユーゴスラヴィア(当時)(1984)
カナダ(1988、2010)
といったところで、冬季は開催できる国が少ないので同じ国の開催が目立ちますが、夏のオリンピックはねえ、日本で2回目を開くよりは他国が開くほうが意義があるでしょう。もちろん本気でオリンピックが大好きな人間にとっては、意義なんてなんの興味関心もないでしょうけど。別に石原慎太郎も意義を見出して東京開催を打ち出したわけじゃないしね(笑)。たんなる国威発揚のためのお祭りを求めただけでしょう。
それにしても冬季のオリンピックって、1948年から2010年まで17回開催されていて、うち10回欧州での開催です。これなら、冬季と夏季が同じ欧州で重なるのは当たり前です。分かりきった話ですけどね。欧州での同時開催は、1948年(スイス、英国)、1952年(ノルウェー、フィンランド)、1992年(フランス、スペイン)、で冬季大会の開催がずれ込んだので、その後は1994年の冬季大会がノルウェーのリレハンメルで開催、2004年のギリシャと2006年のイタリアが連続開催でしょうか。また2012年の英国と2014年のロシアも連続開催とはいえそうです。
さて、フィギュアスケート男女ペア選手でカナダ国籍のマーヴィン・トランが日本国籍取得をめざすという報道とペア解消による(事実上の)その断念が報じられました。私もこの件には興味があるので、記事を3つ(こちら、こちら、こちら)書きました。記事にも書いたように私は、トランの国籍取得ははじめから見込みは低いと思っていたので、その後の経緯は正直「やっぱり」以上のものではありませんが、ただその際に記事を引用・トラックバックさせていただいた方のこちらのくだりにちょっと違和感を覚えました。
>五輪は国を挙げて、国民が一つになって盛り上がり国を背負って戦う選手たちを応援する重要な大会です。五輪を国威掲揚のために利用する国も多く、日本も2020年開催の五輪を招致しようと活動していますが、それは五輪の影響力を理解しているからにほかなりません。
たとえそれが経済、景気といった要因での重要視だったとしても、北島康介選手や荒川静香さんなどが金メダルを取った時、バンクーバー五輪の浅田真央選手銀メダルの熱狂などを見ても、「アスリートが五輪で良い成績を残せば世界に日本をアピールできる」という事実は無視できないはずです。
スポーツはもはや「たかがスポーツ」と言って片づけられるものではなくなっています。是非国の為にも、彼の帰化を認めて欲しいと思います。
これは考え方の問題ですので、私はこう考える、いや、そうは考えないということですが、正直オリンピックといったって、そのためにそこまで便宜を図ってあげるのはどうよと思います。つまりは、この件は、
�この選手は、オリンピックで金メダルを取れる可能性がある
�だから日本国籍をとらせて日本に金メダルを取ってもらおう
ということです。それ自体は別にかまいませんが、そのために法律の特例措置を申請する、あるいはそれに期待するっていうのはどうよです。もともとマーヴィン・トランが本気で日本国籍取得を希望していたかどうかも怪しいものがありますが(本気で日本国籍取得を希望していたのなら、事前にもう少し準備をしていたんじゃありませんかね。そうとう無理な説得をしたんじゃないんですか)、どうしても日本国籍をとりたいというのならそれなりの準備を進めて国籍取得を申請してくれという以上の話ではないでしょう。いくら
>スポーツはもはや「たかがスポーツ」と言って片づけられるものではなくなっています。是非国の為にも、彼の帰化を認めて欲しいと思います。
といったって、日本の国籍法はそのような国籍取得を(事実上)認めていないのだから、このような期待はするべきでないし、それでもどうしてもと希望するのなら、なにかの特別法を制定するなどして、そのような場合に他よりも簡易な手続きで国籍取得を可能とするようにするしかないでしょう。
現実問題として、日本政府がそのような特別法の制定、あるいは法改正などをするとは考えにくいと思いますが、「スポーツ選手、とくにオリンピックで金メダルを取れる可能性のある選手には、国籍取得についても特段の便宜を図るべきだ」という考えは、オリンピックとかについての事大主義を感じます。そこまですることではありません。ややそれは傲慢な思考ではありませんかね?
もっともこれもあえて書きますと、私が読ませていただいた上で判断させていただきますと、この筆者の方も、本気でトランの日本国籍取得が可能であり高橋・トランペアがソチ五輪に出場できるとお考えではなかったようです。たぶんそれは承知で、あえて上のような記事をお書きになったのでしょう。
で、NHKその他テレビも産経新聞も、どうもオリンピック招致にたいする疑問や批判的視点はないですね(笑)。テレビがそうなのはだいたい想像つきますが、たとえば産経は、石原みたいな産経絶対支持の人間がオリンピック開催をうちださなければ、いまほどの賛成ぶりなのかよという疑問も生じます。NHKなんて公共放送なのだから、ある程度はオリンピック招致に批判的な視線も必要なんじゃないのと思いますが、でもそんなものはかけらもないですね。公共放送だからなのかもしれません。私は上に書いたように、東京開催の可能性は低いと考えますし、どちらにせよオリンピック開催には反対ですが、もし開催が決まったら決まったで、それならそんなに「オリンピックならなんでもあり」という態度や姿勢は困ると思います。すくなくとも、オリンピックだからといって、あまりに無理や無茶はすべきでないし、それならオリンピックなんか開催しないほうがずっとましという以上の話ではないでしょう。トルコならともかく、今の日本はそこまでしてオリンピックをありがたがる必要はありません。
参考:こちらの本は、なかなか面白い本です。図書館などにはわりと入っていると思いますので、興味がありましたらお読みになってください。
ゆれ動くスポーツ観―国家主義から個人主義へ