武満徹という人は、本来は現代音楽家ですが、映画音楽の作曲家としても不世出の人物でした。Wikipediaにも
>武満は多くの映画音楽を手がけているが、それらの仕事の中で普段は使い慣れない楽器や音響技術などを実験・試行する場としている。武満自身、無類の映画好きであることもよく知られ、映画に限らず演劇、テレビ番組の音楽も手がけた。
とあります。武満の担当した映画音楽については、こちらをご参照ください。なにしろ武満は、映画音楽をまとめて収録した複数のCDも出ています。こちらは、それを1つにまとめたもの。
Amazonの紹介から引用します。
>内容紹介
日本が世界に誇る音楽家、武満徹。早いもので2006年2月20日で没後10年を迎えます。
1990年~91年にかけてシリーズ発売された『武満徹の映画音楽1:~6:』には彼の手がけた映画音楽作品のうち主要な41曲が収録されています。どれも珠玉の名曲ばかり。映画をこよなく愛し、音楽によって映画に力強い表現力を吹き込んできた大作曲家の功績を讃えるべくCD-BOXセットとして復刻、没後10年目の命日に発売いたします。
◇ タイトル:『オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽』
◇ 商品構成:CD7枚組(特典盤1枚含む)
◇ 発売日:2006年2月20日
◇ 価格:\10,500(税込)
DISC-1 小林正樹 監督作品篇
1:怪談 2:切腹 3:燃える秋 4:からみ合い 5:日本の青春 6:化石
DISC-2 篠田正浩 監督作品篇
1:化石の森 2:沈黙 3:美しさと哀しみと 4:暗殺 5:異聞猿飛佐助 6:はなれ瞽女おりん
7:あかね雲
DISC-3 大島 渚・羽仁 進 監督作品篇
1: 愛の亡霊 2:東京戦争戦後秘話 3:夏の妹 4:儀式 5:不良少年 6:充たされた生活
DISC-4 勅使河原 宏 監督作品篇
1:他人の顔 2:サマー・ソルジャー 3:おとし穴 4:白い朝 5:砂の女 6:ホゼー・トレス
7:燃えつきた地図 8:利休
DISC-5 黒沢 明・成島東一郎・豊田四郎・成瀬巳喜男・今村昌平 監督作品篇
1:どですかでん 2:青幻記-遠い日の母は美しく- 3:四谷怪談 4:乱れ雲 5:黒い雨
DISC-6 市川 崑・中村 登・恩地日出夫 監督作品篇
1:京 2:太平洋ひとりぼっち 3:古都 4:二十一歳の父 5:紀ノ川 6:あこがれ 7:女体
8:素晴しい悪女 9:しあわせ
DISC-7(特典盤)
・武満徹が映画音楽制作について語り、映画に対する深い愛情が窺える貴重な対談他を収録!
1:けものみち(須川栄三 監督) 2:最後の審判(堀川弘通 監督)
3:錆びた炎(貞永方久 監督) 4:桜の森の満開の下(篠田正浩 監督)
5:対談『映画と私』 武満徹・秋山邦晴
「天平の甍」メイン・テーマ 「天平の甍」について
デビュー作「狂った果実」と音色への実験 「狂った果実」メイン・テーマ
「他人の顔」その録音風景 日本のヌーベルバーグの人たち
伝統音楽と「一音構造」 「切腹」より 映画音楽は演出された音楽
ミックスの重要性と作曲家の責任 「乾いた花」の録音エピソード
「乾いた花」のファースト・シーン 私の音楽と映画の関係
1990~91年にかけて発売された『オリジナル・サウンドトラックによる 武満 徹 映画音楽』
1:~6:(当時価格:各\2,500)に当時の全巻購入特典盤(貴重な対談音源ほか)1枚をプラスした7枚セットです。
武満の映画音楽の最初は、Wikipediaによれば、1955年の千葉泰樹監督『サラリーマン 目白三平』で、これは 芥川也寸志との共作でした。現在参照できるクレジットも、もっぱら芥川が出ています。遺作が、篠田正浩監督の『写楽』です。これが1995年の作品で、テレビも1955年から93年まで手がけています。武満は1996年2月20日に亡くなっているので、まさに死の直前まで映画音楽家であり続けたわけです。
そして武満がすごいのが、彼が音楽を引き受けた映画監督の幅広さです。私がタイトルにしたように、黒澤明から大島渚までの映画で音楽を担当しました。
黒澤作品で彼が音楽を担当したのが、『どですかでん』『乱』の2本です。『影武者』で黒澤映画常連の佐藤勝が途中で音楽を降りたので、黒澤は武満に代わりを打診しましたが、当時国外にいた武満はかわりに池辺晋一郎を黒澤に推薦、その後『乱』をのぞく黒澤作品を池辺は担当します。佐藤が『影武者』を降板したのは、黒澤が自分の音楽のイメージを佐藤に要求して納得しない佐藤が降りたということでした。これと同じことが『乱』であり、武満も降板直前まで行きましたが、なんとかそれは免れました。しかしその後武満が黒澤と一緒に仕事をすることはありませんでした。
大島作品は、初期は真鍋理一郎が作曲、1965年の『悦楽』を湯浅譲二が担当、その後はもっぱら林光が曲を手がけましたが、70年の『東京战争戦後秘話』から78年の『愛の亡霊 』までの音楽を担当しました(『愛のコリーダ 』は三木稔)。
『儀式』や『愛の亡霊』での荘重な音楽から、『東京战争戦後秘話』でのモダン・ジャズ、『夏の妹』でののんびりした曲調のポピュラー系(フュージョンぽい?)の音楽など、大島映画での武満の音楽も、どれも幅広くヴァラエティに富んでいます。そして言うまでもなく、黒澤と大島の2人の映画監督の主要スタッフとして働いた人は、あまりいません。映画の方向も、所属していた映画会社も、映画の制作のありかたもまるで違った監督でしたから、ある意味当然です。その中でも、音楽については、武満徹が、黒沢映画は2作だけですが、共通のスタッフとして活躍したわけです。
あまり長々と文章を書いてもしょうがないので詳細は上のCD解説の引用、Wikipediaほかをご参照していただくとして、彼は同時代に活躍した実に様々な映画監督の音楽を担当しました。これは、彼自身が部類の映画好きであるが故の部分もあるかと思いますが、ともかくすごいものです。武満徹のようなまさに戦後日本の作曲の第一人者が精力的に映画音楽を担当してくれたことは、日本映画界にとっても最高の強運だったのかもしれません。
それで前置きが長くなりましたが、渋谷の映画館「シネマヴェーラ渋谷」で武満徹の映画特集があります。詳細はこちら。上述の黒澤、大島監督の映画は今回上映されませんが、篠田正浩監督、羽仁進監督、吉田喜重監督、恩地日出夫監督、勅使河原宏監督ほか武満が常連で音楽を担当した監督たちの映画を観ることができます。特にドナルド・リチーの映画(「熱海ブルース』)を武満が作曲していたなんて当方知らなかったので、これは「え!」です。なおこの映画は、この記事を執筆時点(2022年3月2日21時50分ごろ)では、上にリンクした武満の作品リストには掲載されていません。
武満が作曲した映画の上映会自体は、わりと定期的に催されているとは思いますが、やはりこういった催しでないとなかなか鑑賞するチャンスのない映画もありますので、こういったチャンスは逃したくありません。私も、成島東一郎監督の『青幻記』などは、絶対鑑賞する所存です。3月26日から4月15日まで。上映スケジュールはこちら。なお3月26日に、武満の娘さんである武満真樹さんの、4月2日に、ピアニストの高橋アキさんがゲストのトークショーがあるとのこと。行けるかどうかはわかりませんが、楽しみです。こちらの記事も参照してください。