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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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民主主義国だからといったって、戦争、あるいは帝国主義、民族問題と無縁ではない(当たり前)

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安倍晋三が殺された後の記事としては変な気もしますが、これは参議院選挙当日に発表する予定ですので、予定通り発表します。

先日読んだ論説を読んで「おいおい」と思ったことを。

>駒木明義

(朝日新聞論説委員=ロシア、国際関係) 2022年7月2日15時0分 投稿

【視点】三権分立を原則とする民主主義国家が堂々と侵略を始めてしまったというのは、今回の戦争の際だった特徴の一つでしょう。

(以下会員限定)

いや、民主主義国家だろうがなんだろうが、戦争ってやろうと思えばできちゃいますからね。つまりは、行政が戦争を始めようと考えて、それを議会が議決すれば戦争は始められちゃいます。たとえばアヘン戦争はどうか。Wikipediaより。

>一方イギリス本国も外相パーマストン子爵の主導で対清開戦に傾いており、1839年10月1日にメルバーン子爵内閣の閣議において遠征軍派遣が決定した。「阿片の密輸」という開戦理由に対しては、清教徒的な考え方を持つ人々からの反発が強く、イギリス本国の庶民院でも、野党保守党のウィリアム・グラッドストン(後に自由党首相)らを中心に「不義の戦争」とする批判があったが、清に対しての出兵に関する予算案は賛成271票、反対262票の僅差で承認され、この議決を受けたイギリス海軍は、イギリス東洋艦隊を編成して派遣した。総司令官兼特命全権大使には、チャールズ・エリオットの従兄のジョージ・エリオット(英語版)が任命され、チャールズは副使となった。

上の引用中、注釈は削除しました(以下同じ)。つまりは、英国議会も僅差ではあるとしても戦争にOKを出したわけです。この時代はまだ、英国の庶民院(下院)は普通選挙ではありませんでしたが、ともかく議会の承認は受けたわけであり、首相が強権をもって独裁的に戦争を遂行したわけではない。

あるいはベトナム戦争の米国介入はどうか。

>穏健派のジョンソンは、前任者のケネディが増強した「軍事顧問団」の規模を維持するだけにとどめた。しかし就任から9か月後の1964年8月2日と8月4日に、ベトナム沖のトンキン湾で発生した北ベトナム海軍の魚雷艇によるアメリカ海軍の駆逐艦「マドックス」への魚雷攻撃(トンキン湾事件)が発生し、ジョンソンはこの報復として翌8月5日より北ベトナム軍の魚雷艇基地に対する大規模な軍事行動(ピアス・アロー作戦)を行った。

さらにこの軍事行動と合わせて、議会に北ベトナムからの武力攻撃に対する「いっさいの措置を取る」権限を大統領に与えるように求め、8月7日に上下両院でこの「トンキン湾決議」が民主党と共和党の議員の圧倒的な支持で承認されて、ジョンソン大統領は実質の戦時大権を得た。

というわけです。この後11月の大統領選挙でリンドン・ジョンソン大統領(民主党)は共和党候補のバリー・ゴールドウォーターに完勝、民主党も議会選挙で勝ったわけです。どっちみち野党の共和党も賛成したのだから同じことですが、つまりは米国民も、戦争を支持したわけです。もちろん戦争の遂行の是非だけが選挙の争点ではありませんが、ともかく米国民は全体として戦争に否定的な態度を取りませんでした。行政が戦争をしようと考えて議会がそれを追認したのだから、議会制民主主義国家である以上、民主主義的な手続きの上では何ら問題はないわけです。実際ノーム・チョムスキーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教員であるわけですが、

チョムスキー博士はベトナム戦争初期のころに触れ、マサチューセッツ工科大学の学生にキャンパスで吊し上げられたことがあると述懐した。学生らはもともと米軍の介入に賛成し博士は反対していたからだ。チョムスキー氏はケネディ元大統領にも批判的だった。ベトナムへの軍事介入に反対しなかったから。

— 辺見庸 (@yo_hemmi) August 23, 2021

ということがありました。こういっては何ですが、MITの学生なら、一般的米国人の中でも優秀だしいろいろなことを知っているはず。そういった学生たちでも介入に賛成していたのだから、当時の人間はだいたいにおいてベトナム介入に賛成していたということでしょう。

しかしこれらは、繰り返しますとなんら政治手続き上の問題はありません。おまけに民意も明らかにベトナムへの介入を支持していたのだから、まさに何の問題もない。これではどうしようもないにもほどがあるじゃないですか。

それでどうも駒木氏に限りませんが、日本では、外国ではどうだか知りませんが、戦争(特に侵略戦争)というのは、戦前の日本やナチスドイツ、あるいは旧ソ連のような民主主義のない国の専売特許だという迷信があるようですが、そんなことは本質的な問題ではない。「正義の戦争」とか「民主主義を守る戦争」とかを言い出せば、戦争はできちゃいます。民族問題同様、戦争と民主主義なんて、特に関係はない。

いま私は、

>民族問題同様

と書きましたが、まさに民族問題も同じです。英国では、長きにわたって北アイルランド紛争で激しい戦闘が行われていました。英国政府も、あまりの激しさに、インターンメントと呼ばれる起訴や裁判のない長期拘禁を認めるくらいのことをしたくらいです。あるいはスペインなどもかつて激しいテロを経験している(バスク紛争)。米国での様々な人種問題もいまさら私が書くまでもない。つまりは、民主主義国家であろうが、民族問題というのは生じるということです。日本の在日コリアン問題、アイヌ問題ほかもご同様。別に、ロシアや中華人民共和国のような強権国家ばかりで民族問題が生じているわけではありません。だいたい中東では段違いの民主主義国家であるイスラエルは、建国以来重大な民族問題が生じている国であり、またたいへん好戦的な国でした。昨今はさすがにかつてのような戦争をする時代でもありませんが、民族問題の解決には程遠い。

そもそもinti-solさんがご指摘のように

>ナショナリズムと帝国主義は、相反する概念ではありません。もちろん、民主主義とナショナリズムも同様ですし、民主主義と帝国主義もそうです。大英帝国がかつてやってきたことは帝国主義そのものですが、その間イギリスは一貫して民主主義国でした。

ということです。英国のライバルであるフランスも同じです。フランスの対アルジェリア独立阻止の戦争(アルジェリア戦争)なんてまさに帝国主義戦争です。なおフランスは、アルジェリアは植民地にあらず(フランスの一部である)という方針を貫いたので、これは実質内戦でもあったわけです。Wikipediaから引用すれば、

>1954年から1962年にかけて行われたフランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争。フランス本土と当時はフランス領(名目上は植民地ではなくフランス本国の一部とされた)であったアルジェリアの内戦であると同時に、アルジェリア地域内で完全なフランス市民権を付与されていたコロンと呼ばれるヨーロッパ系入植者と、対照的に抑圧されていたベルベル人やアラブ系住民などの先住民(indigene,アンディジェーヌ)との民族紛争及び親仏派と反仏派の先住民同士の紛争、かつフランス軍部とパリ中央政府との内戦でもある。

フランス政府では公式には戦争として認定されず、「アルジェリア事変」(évènements d'Algérie)や、「北アフリカにおける秩序維持作戦」と呼称されていたが、1999年10月になり法改正され正式にアルジェリア戦争(Guerre d'Algérie)と記されるようになった。

となります。そしてフランスは、当然ながら戦争当時普通選挙制度もある(少なくとも制度上は)非の打ちどころのない民主主義国家でした。

つまりは、bogus-simotukareさんもおっしゃるように

> 「プーチンが独裁によって、国内の反戦、厭戦世論を弾圧してること」は事実ですが「民主主義と平和主義」は対立概念ではなく「好戦的な民主主義」は当然「理屈上あり得る(そして実際にもある)」ので「(プーチン独裁色が強いとはいえ、一応)ロシアは民主主義なのに侵略ガー」と言いたいらしい、「侵略イコール独裁国家」と言いたいらしい駒木の物言いは明らかにおかしい。

ということでしかない。例を挙げれば強権国家である中華人民共和国が行った本格的な対外戦争って、建国直後の時期である朝鮮戦争への北朝鮮支援中越戦争くらいでしょう。あとはインドとソ連との国境紛争か。台湾との戦闘は、国共内戦の延長ですしね。朝鮮戦争と中越戦争も、朝鮮戦争に関しては、国連軍が中国に最悪攻め込む可能性が否定できなかったし(しかし中国側は、中国人民解放軍を「義勇兵」として派遣することとしました。公然と人民解放軍を攻め込むのはまずいと考えたわけです)、中越戦争はベトナム軍が非常に強かったせいもあり、短期間での介入となりました。つまりは中越戦争後に中国は、軍隊を急速に現代化することとしたわけです。

というわけで何を言いたいかというと、非民主主義国だろうが、そうそう戦争などできないということです。ドイツや日本が、第二次世界大戦後戦争をしていない背景としては、日本には憲法9条などがあるとかいろいろ理由はありますが、第二次世界大戦が、自分たちで戦争を起こしてそれでひどい大敗北を喫したというのが最大の理由ではないか。ソ連軍に完全にベルリンを占領されたとか、原爆を2つも落とされたとかされていては、さすがにそうそう戦争を再度するというわけにもいかないでしょう。

また現実問題として、戦争をするというコストがはるかに上がっていますからね。ベトナム戦争で米軍は、Wikipediaによれば、5万8,718人の戦死者が出たとのこと。現在では、このような数の戦死者を出す戦争を米国もできないでしょう。まああえて言えば、1970年代までは、民族自決などのためには、戦争もありという時代でした。それを米国やソ連などの大国が武力で抑圧・弾圧することもあった。それが、冷戦終結や、アパルトヘイトの平和的政権移譲など、そういう時代でもなくなった。しかし米国とかソ連の後継国家であるロシアなどは、まだ戦争をする国だということです。イスラエルなどもご同様。

いずれにせよ、民主主義と戦争とか帝国主義、民族問題は無関係です。関係ないことを議論してもしょうがないということです。なおこの記事は、引用させていただいたinti-solさんとbogus-simotukareさんの記事を参考にしました。お礼を申し上げます。


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