せんだって次のような本を読みました。
「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理著者は、写真家兼文筆家のインベカヲリ★という女性で、Amazonの内容紹介では、
>死刑という「安息」――
なぜ人を殺すことでしか、彼らの思いは遂げられなかったのか。
「死刑になるため」、「無期懲役になるため」と、
通り魔を行い、放火をし、見ず知らずの人を傷つける凶悪犯が後を絶えない。
彼らはなぜ、計画を実行し犯罪をおかすことができたのか。
我々と、あるいは彼らと同じ境遇にいる人々と、何か違うのか。
本各界の研究者、彼らを救済する人びとに上記の問いを投げかけ、
そのインタビューの中から「彼ら」の真の姿、そして求めているものを探る、ルポルタージュ。
【取材者】
秋葉原無差別殺傷事件犯人 加藤智大の友人 大友秀逸氏
宅間守・宮崎勤らの精神鑑定士 長谷川博一氏
東京拘置所・死刑囚の教誨師 ハビエル・ガラルダ氏
永山則夫の元身柄引受人候補 市原みちえ氏
10代少女毒物殺人事件 支援者 阿部恭子氏
元刑務官 坂本敏夫氏 など
とあります。全9章で、どれも面白かったのですが、本日ご紹介したいのは、上にある
>阿部恭子氏
に取材した章です。彼女は、
>第1章 加害者家族を救う人
阿部恭子
NPO法人WorldOpenHeart理事長
として冒頭に登場します。彼女を冒頭にしたのは、やはりこの本のために取材した人たちの中でも、彼女の話が特に貴重であるということでもあるのでしょう。彼女については、拙ブログでは2記事でそのお名前を取り上げています。
想像を絶する最悪の事態だと思う(加害者家族の死) 女性から男性へのDVというのも、いろいろ問題があるし、それがまた最悪の事態になることもある(宮崎家族3人殺害事件と岩手県の妻殺害事件)(追記あり)この記事では、私が「なるほどねえ」と思ったくだりを1つだけご紹介しますので、該当部分を引用します。上の拙記事でも紹介されている宮崎家族3人殺害事件と岩手県での殺人です。岩手の事件については、下にリンクした記事をご参照ください。
「お嬢様と召使」妻を殺害した“優しい夫”、本人が語った遺体を必死に隠し続けた悲しい理由
>阿部氏は、この二つの加害者家族を支援し、ある共通点に気づいたという。
「加害者家族は、本当に純朴な良い家族なんですよ。地域の人もすごく良い人たちだし。だから悪意を知らないんだよね、そこで育った彼らは。逆に言うと良い人すぎる。お嫁さんからの暴言とか、義母とかの暴言に歯向かえない。だから、暴言を吐くような義母が出てきたら、悪魔のように思うんだろうな。加害者も正義感が強くて、自業自得だろうという発想がどこかにあったのではないかと」
引用文中、「お嫁さん」とは岩手の事件、「義母」とは宮崎の事件のことを指しています。
で、これを読んで「なるほどねえ」と私は思いました。岩手の事件については、阿部さんの書いた文章以外私は情報を知らないので何とも言えないのですが、宮崎の事件については「そうかもな」と思える部分がありました。私は、以前、宮崎の事件の犯人で死刑が確定して現在福岡拘置所に在監している奥本章寛死刑囚の親については、報道されている姿を見たことがあるからです。このご両親は、態度といい、表情といい、人の良さを感じさせるのに十分でした。また、義母が罵倒したとされる故郷の周囲の住民も、いろいろこの夫婦を支援してくれるそうです。死刑囚の親となると、周囲から嫌がられて転居を余儀なくされることも多いかと思いますが、この事件についてはそのようなことはないようです。テレビ出演時の画像(スクリーンショット)がありますのでご紹介します。テレビに出たものですから、ここで私が紹介しても問題はないでしょう。出典は、こちらの動画から。2015年の報道です。死刑の確定は、2014年。
死刑が確定した後福岡拘置所に面会に行った奥本死刑囚の父親です。
地域の人たちからも、このような温かい言葉をもらえたわけです。
奥本死刑囚の地元では、彼や彼の家族をサポートする集会も開かれています。
先ほどの引用の続きで、著者(インベさん)の書いたくだりを引用します。
>傍から見れば、離婚して距離を取ればいいだけの話に思えるが、そこが「家族へのこだわり」の強さなのだろう。これ以上周りに迷惑をかけないために、最善の選択として、殺人に手を染めてしまうということだ。
前にも私も書いたように、岩手の事件も同じでしょうが、奥本死刑囚の話も、そういう暴言をぶつけられたら、もう同居は無理だと思います。奥本死刑囚が家を出るか、義母を追い出すかのどちらかでしょう。離婚するかどうかはその後としても、ともかく義母と奥本死刑囚の同居は継続できないでしょう。しかし奥本死刑囚は、家を出ることすらできず、まさに殺人という最悪の手段でそれを清算してしまったわけです。さらに引用しますと、
>しかし、悪者を成敗した結果、『宮崎家族三人殺害事件』の奥本は死刑判決を受けている。
「そんなに女性がみんな優しいわけないじゃないですか。ちょっと悪い女性に何回か騙されていたら多少は違うけどね。慣れてないんだよね、悪意に。だから最後に殺っちゃう。逃げるとか別れるとか浮気するとかさ、みんな適当にそうやってやり過ごして、殺しまではやらないと思うんだけどね」
なお、岩手の事件はそういうことはないのかもですが、奥本死刑囚は、出会い系サイトを利用していて、これが義母の𠮟責につながったようです。だから浮気はしていたといえばしていたわけですが、むしろそれが最終的に彼を追い込む1つの要因になったわけです。つい先日次のような記事を書きました。
詐欺というのは、現在から過去へ逆算していけば、だれも引っかからない(が、その場での判断を余儀なくされるのが厳しい)これはなんでもそうですが、この事件についても、義母にもいろいろ言い分はあるのでしょうし、それは考えないとしても、「こんな人間(義母)殺す価値もない」「さっさと逃げればいいじゃん」「こんなやつ追い出せ」「奥さんと子どもまで殺すことはない」など、現在から過去へ逆算して物事を考えれば、こんなことすることないという結論以外はありませんが、まさに彼はそういうことをしてしまったわけです。以前の拙記事でもご紹介したように、阿部さんは、地方に暮らしていることによって視野が狭くなりすぎていたのではないかという趣旨の指摘をしています。たぶん奥本死刑囚が東京などで世帯を持っていれば、義母との同居はなかったでしょうし、もっと気楽に離婚ほかの解決策もあったはず。しかしそういったところまで犯行時の彼は頭が回りませんでした。ほんと、加害者・被害者双方の家族(双方の家族も他人ではありません。家族間殺人は、残された遺族は、加害者遺族と被害者遺族同時になることになります)、その周囲にいたるまで、悲惨極まりない事件だっと思います。
なお上の本はおすすめですので、興味のある方はぜひお読みになってください。