過日このような記事を執筆・発表しました。
田中均元外務省アジア大洋州局長が、日朝首脳会談直前に米国高官に会談についての事前通告をしたことを認めた(高世仁とか家族会ほかの面々は、どんだけ馬鹿なのかと思う)あらためて引用しますと、
日朝首脳会談20年 田中均氏が語る 拉致被害者帰国 交渉決裂寸前で回避 | NHK政治マガジン
>対米極秘ブリーフィング
交渉は再開された。その後は、小泉訪朝を前提にして、どういう外交シナリオを組んでいくかという交渉が進んでいくことになる。
そして、小泉訪朝が事実上固まり、交渉が最終盤を迎えていた2002年8月下旬。田中は、来日していた当時のアメリカ・ブッシュ政権の幹部に対し、東京・虎ノ門のホテルオークラで、北朝鮮との交渉と小泉訪朝の計画について、極秘のブリーフィングを行った。
出席者は、アーミテージ国務副長官、ケリー国務次官補、国家安全保障会議のマイケル・グリーン日本担当部長、ベーカー駐日大使という面々だった。
「日朝平壌宣言のドラフト(草案)も含めて、自分の見通しも含めて、全て話をした。彼らはじっと聞いていました。みんな。物音ひとつせず、じーっと聞いていた。日本がアメリカのブリーフを受けることって、よくあることですよね。それも驚くようなことをブリーフを受けることはある。だけど、その逆っていうのはあんまりないですよ」
「アーミテージがすくっと立ち上がって、『俺に任せろ』と。『自分は今からこの近くのアメリカ大使館に戻って暗号電話でパウエル(国務長官)に直接、話をする』と。『ついては、その次の日、小泉総理大臣からブッシュ大統領に電話をしろ』と言ってくれた」
その翌日、日米電話首脳会談が行われた。田中は、総理大臣官邸の執務室で電話をかける小泉の隣にいた。
「ブッシュが言ったのはね、『小泉、お前が言うことについて、俺が反対するわけがない』って、こう言ったんですよ。総理には、『自分はアメリカの利益を絶対に害さない』ということを言ってもらった」
「同盟国といっても、それぞれ違う利益はあるわけですよ。日本は日本のアジェンダがある。で、拉致っていうのは、日本のアジェンダなんですよね。これは、日本自身が解決しなければいけない問題だ」
田中均氏がこういう証言をしたこと自体も意外ですが(長きにわたって彼は、このような発言を封印していたわけです)、NHKというきわめて国営放送的な色彩の強い公共放送がこのような報道をしたということのほうが、私にとっては意外ですね。bogus-simotukareさんも、
>それにしても「安倍が死に」、NHKがこうした「田中氏に好意的な報道をする」。拉致問題がまともな方向に行くことを期待したいところです。
とお書きになっています。引用は下の記事より。
今日の朝鮮・韓国ニュース(2022年9月9日分)(追記あり)
それで、これは多くの方がたぶん同意していただけるかと思いますが、安倍晋三が山上徹也容疑者に殺されなければ、この報道はなかったんじゃないんですかね。田中氏も取材に応じないかもですが、NHKはまったくこんな報道をする見込みがないでしょう。
あるいはこちらはどうか。外務省の斎木昭隆元事務次官が朝日新聞9月17日の記事で興味深い話をしていますね。有料会員限定記事ですのでよそ様からいただきます。こちらの記事から。
>元政府高官も実名で証言 それでも政府が「黙殺」する拉致被害者2人の「生存情報」
2022年10月13日17時57分
2人は、政府が北朝鮮からの拉致被害者として認定している神戸市の元ラーメン店員、田中実さん=失踪当時(28)=と、政府が「拉致の可能性が否定できない」としている金田龍光さん=同(26)=。2人が北朝鮮に入国したとの情報を日本政府が北朝鮮から伝えられていた、などと共同通信が2018年に報じていた。22年9月には、北朝鮮との交渉に携わってきた斎木昭隆・元外務事務次官も朝日新聞のインタビューに対して同様の発言をしている。ただ、政府答弁は「今後の対応に支障をきたすおそれがある」として「具体的内容や報道の一つ一つについてお答えすることは差し控えたい」。引き続き「ゼロ回答」を連発する状況が続いている。
としたうえで、斎木氏が
>北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りです。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした
と発言しています。簡潔な発言ですが、つまりは、共同通信の報道は正しかったということを認めたわけです。これもねえ、ご当人がすでに外務省を引退している(2016年外務省退官)ということは当然として、やっぱり安倍が死んだからそのような話をしたということじゃないですかね。安倍が現在存命だったとしてこのようなことを斎木氏が新聞の取材で話したか。朝日新聞は、NHKよりは安倍政権に批判的なメディアですが、それにしたって存命だとしたら報道しましたかね。そしてこの外相の答弁はどうしたものか。朝日新聞から引用します。
>元外務次官の拉致被害者「生存情報」証言、林外相は「答弁控える」
田嶋慶彦2022年10月13日 17時00分
北朝鮮による拉致被害者の田中実さんと知人の金田龍光さんについて、斎木昭隆・元外務事務次官が朝日新聞のインタビューに対し、北朝鮮側から生存情報が提供されたことを認めたことについて、林芳正外相は13日、「今後の対応に支障を来す恐れがあることから、具体的内容や報道の一つひとつに答えることは差し控えたい」と述べた。
林氏は、衆院外務委員会などの連合審査会で、立憲民主党の徳永久志氏の質問に答えた。
田中さんは政府が拉致被害者として認定し、金田さんは「拉致の可能性を排除できない」とされている。日朝は2014年、北朝鮮が拉致被害者らの調査を行い、随時通報することを盛り込んだ「ストックホルム合意」を結んだ。
当時、外務事務次官だった斎木氏は朝日新聞のインタビューに対し、北朝鮮から田中さんや金田さんの生存情報が提供されたと報じられていることについて、「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りだ。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取らなかった」と証言。インタビューは今年9月17日に朝日新聞デジタルで報じた。
徳永氏は13日の連合審査会で、「外交の中枢にいた方の証言は非常に重い」とただしたが、林氏は斎木氏の証言への言及は避けた。その上で、ストックホルム合意以降、北朝鮮から報告書は提出されていないなどと説明。拉致被害者としての認定の有無に関わらず、即時帰国、真相究明をめざすと強調した。(田嶋慶彦)
外相が事実無根であるといわない時点で、勝負あったですね。事実上認めたということです。
さて田中氏のほうは、彼を外務省から追い出した人物の1人は安倍晋三であるとすると、当然安倍にいい感情を持っているとは考えにくいものがありますが、斎木氏のほうは、彼が事務次官だったのは2013年から16年であり、まさに安倍政権時です。そして3年という役所の慣例を外れた長い期間事務次官を務めたわけで、つまりは安倍という人は、斎木氏をだいぶ買っていたということでしょう。つまり斎木氏は、安倍に恩義があるということです。で、斎木氏が安倍のことをどう考えているかは当方のような部外者が論じられるようなものではありませんが、このような発言をすれば、それは安倍晋三に対して少なくともプラスにはならないということを認識しないほど頭が悪いということもないでしょう。つまりは、安倍が死んだからこういう話をできるようになったということです。たぶん彼なりに、そのことを公表しないという方針への反発なのでしょう。
そう考えると、日本の言論の自由なんていうのもしれたものだと思いますね。けっきょく安倍晋三という1人の政治家が存命か死んだかで、こういった決定的な言論が封印されたり表に出るようになったのですから。安倍が死んだから封印が解禁されるなんて、これでは日本の民主主義や言論の自由というのもきわめてお粗末としかいいようがないでしょう。
ていうかさ、安倍晋三を絶賛する人たちは、こういう現状をどう考えているのか。安倍のことをやたら高く評価している人たちが、中国や北朝鮮の毛沢東(習近平でも可)や金一族を罵倒しているのは、実に馬鹿らしい光景としか思えませんね。といいますか、正直ここまで愚劣な光景も少ないのではないか。どんだけデタラメでダブスタでいい加減なんだか(呆れ)。
ところで必ずしも暗殺という非合法な話でなくても、ある人物が死んだらいろいろと事態が変化するということは確かにあります。スターリンが死んだり(1953年)、毛沢東が死んだ(1976年)あとは、スターリン批判が起きたり、四人組が逮捕されたわけです。死の直前まで実務をしていたスターリンはまだしも、毛は死の何年か前から体調を崩していて(1972年に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患していることが判明したとのこと)、75年以降はほぼ寝たきりの状態だったようですが、それでもやはりその死まで権威は絶大でした。スターリンが生きている間では「スターリン批判」なんかされるわけもないし(されたらクーデターでしょう)、毛がよいよいでも存命中の際は、四人組も逮捕には至りませんでした。
強権国家でなくても、イスラエルのイツハク・ラビン首相が暗殺された(1995)のちは、やはりイスラエルとパレスチナの関係もいろいろ変更を余儀なくされています。残念ながら、それは、彼の暗殺が大きな原因の一つであることは間違いないところです。そして似たようなことが、安倍暗殺でも起きたということです。
いわゆる1993年の政権交代時から、日本の国政も本格的な連立時代に突入していますが(それ以前もありましたが)、その後の長期内閣というと、小泉内閣と第二次安倍内閣が双璧ということになりますが、さすがに小泉氏が殺されるよりは安倍が殺される方が、言論の関係では影響が強いですよね。つまりは安倍晋三という人物は、いろいろな言論への圧力を有形無形に行ってきたわけであり、そういったことが彼の突然の死によって、もちろん限定されたものではあるとしてもNHKのようなメディアにいたるまで報道が積極的になったとなると、マスメディアへの批判も必要であることを認めるのはやぶさかでありませんが、ただ個々のマスコミを批判しても、残念ながら限界がありますね。けっきょく日本の社会が、そういった安倍らの圧力へきっちりと異を唱えなかったわけですから。あたりまえですが、安倍だって、あるいはそのたいこもちの産経新聞ほかだって、国民がそんなにうるさいことを言わないと見切っているからめちゃくちゃなことをする(した)わけで、最終的には国民が安倍晋三の暴挙に甘かったということです。私は、右翼や産経新聞や自民党はどんだけ安倍に甘いんだよとさんざん批判しましたし、その批判はもちろん正しいと考えていますが、つまりは最終的な安倍のバックに日本国民がいるわけですからね。さすがに積極的な支持ではないとしても、見て見ぬふりをしてきたことは確かでしょう。安倍のやってきたことは、私も期せずしてかかわってしまった森友から統計不正ほか、本来一発で首相辞任でしょう。
それでけっきょく安倍にさんざんえらそうな顔をさせたあげくに、紆余曲折の結果安倍は旧統一協会の関係で恨みを買って殺害されたわけで、まーったく世の中「塞翁が馬」とはこのことだといえますが、安倍にさんざんでかい顔をさせたことも、この暗殺の一因、要因であると私は考えています。まったく無関係でもないでしょう。それは、私たち日本国民の敗北であるなとあらためて考えさせられます。なんともはやです。