地元の図書館で本をあさっていて、次のような本を見つけました。
「腹が減っては戦ができぬ」というのは、きわめて古典的な格言ですが、実際日本軍など、日中戦争中から第二次世界大戦に至るまで、糧秣を現地調達とか無茶苦茶なことをしたので、日本軍の戦死者の半分は、広義の餓死(体力低下による感染症の死や、本来なら死ぬこともない負傷による悪化などもふくむ)であるという研究もあるくらいです。この話は、以前にもしたことがあります。
最近読んだ本と今年文庫化された本から共通に感じたことその記事の中で藤原彰著『餓死(うえじに)した英霊たち』を紹介しましたが、平時では、日本軍も当然ながら基本的に兵隊にいいものを食べさせました。今の日本よりはるかに貧しかった当時、徴兵などで軍隊に行った兵士たちは、それまでの人生でもっとも充実した食生活を享受したわけです。
それは戦前の話ですが、現在の自衛隊も、なかなかいいものを出します。以前にこのような記事を書きました。
このような本で、さまざまなカレーを作ってみたいと思うその記事の中で、海上自衛隊の各艦や各基地での秘伝(?)あるいはそこまではいわずとも、独自の自慢レシピを紹介した本を取り上げました。『海上自衛隊のめちゃうまカレーレシピ48』です。
で、今回ご紹介する本では、たとえば日本海軍の「伊勢海老カレー」というのが紹介されています(p94~95)。これはさすがに(食費を払っている)士官向けのメニューですが、海軍のカレーというのは、原則畜肉(牛肉や鶏肉が基本でした)が具でしたが、アサリカレーなどもレシピがあり、期せずして(?)海軍のカレーというのは、シーフードカレーのはしり(?)みたいなところもあったのでしょう。Wikipedia「カレーライス」にも、
>徴兵期間を終えて除隊した兵士達が、軍隊生活で慣れ親しんだカレーライスを郷里の家庭などで作ったことも、カレーライスが広まることに大きく寄与した
とあります。カレーに限らず、軍隊で覚えた食事が、除隊後に一般社会に広まるというパターンは、世界中いろいろあるはず。
中には、独ソ戦のスターリングラードの戦いで、ドイツ軍兵士とソ連軍兵士が、死にかかっている馬を屠って、肉をタルタルステーキにして食べた(これは小説の話だそうですが、たぶん同じようなことがされたはず)という話もあります(p.70~71)。現在のタルタルステーキは、主として牛肉が使われますが、もともとは馬肉料理でした。これが欧州に伝わり牛肉になったわけです。ただし異説もありますので、詳細はWikipediaをご覧ください。
これは余談ですが、馬肉というのは、馬が反芻動物でないので、大腸菌O157のリスクも低いとされ、カンピロバクターの感染リスクも低いという説もあります。昨今大衆的な焼肉店では、牛肉のユッケはコストが高いので、馬肉ユッケを出しているところもあります。なお私は、馬肉に対する偏見があるので、馬肉ユッケは食べたことはありません(昔馬刺しを食べたことはある)。またユッケの本場の韓国では、済州島で馬肉が盛んです。ほかでは食べないらしい。私も済州島に行けば、韓国の全道を制覇したことになりますが、たぶん馬肉は食わないな。
それはともかく、一式陸上攻撃機に搭乗してブーゲンビル島に向う山本五十六を襲撃するためにP-38ライトニングで出動した米軍パイロットは、朝食にスパムとスクランブルエッグを食べて出撃した(p.88~89)とかいろいろ面白いエピソードがあります。沖縄でよく食される「ポーク玉子」とは、米軍の影響によるものです。私も沖縄に行った際は、ちょいちょいいただいておりますし、内地でポーク玉子のおにぎりを食べたこともあります。沖縄でも食べたな。
その沖縄戦などでも、米軍海兵隊は、出撃前の夕食にビーフステーキを出して、翌日の朝食に新鮮な卵が出た時点で、これは大規模作戦に投入されるなと覚悟したという話もあります。これはルール化された話ではなく、出撃前の兵隊には最大限いいものを出すというものでの提供だそうですが、やはり過酷な任務の前にはそれ相応の優遇があるというものなのでしょう(p.108~109)。
そういえば1905年に起きた戦艦ポチョムキンの反乱の原因は、これは有名な映画にも出てきますように、昼食のボルシチに腐った肉がでたということが引き金でした(もちろんそれ以前からいろいろあったわけですが)。やはりいいものを食わせないと、兵隊も動けません(p.54~55)。なおご存じの方も多いでしょうが、ボルシチは、その淵源はウクライナ料理とされています。またオデッサ(オデーサ)も現ウクライナ領。
ほかにも軍隊の食事というより、その関係の料理ということになりますが、チェスター・ニミッツは、大学に教員として派遣されていた時代、学生たちが自宅に遊びに来ると、ニミッツ夫人に学生たちへ「チキン・ヌードル・キャセロール」(鶏と麺をホワイトソースであえてオーヴンで焼いた料理)をふるまわせたという話もあります(p.24~25)。それに感激して軍隊をめざした学生もいた? ほかにもニミッツは、彼の娘のレシピにのっとって作られたビーフストロガノフを部下との会食時にふるまったというエピソードも紹介されていました(p.102~103)。なおこれらの料理は、具体的なレシピが明らかであるわけではないので、想像上のものであるということをお断りしておきます。
ほかにもデザート(パイ類、ドーナツ、フルーツポンチなど)も紹介されています。甘いものは、疲労したときに元気を出すための強い味方です。戦争中はもちろん平時でも、軍隊はきわめてストレスの激しいところですので、砂糖は必須のものです。
簡単なレシピもありますので、「面白そうだ」と思ったものは調理もできます。というわけで、単なる読み物として読んでもとても面白い本です。よろしければぜひどうぞ。