サッカーのオランダ代表のコーチであるダニー・ブリントは、ワールドカップ後にオランダ代表監督に就任するフース・ヒディンク氏のもとでもコーチを務め、ヒディンク氏が退任する2016年からはオランダ代表監督を務めることが内定しています。ずいぶん思い切った人事だなと思いますが、オランダサッカー協会としては、ファン・ハール、ヒディンクの2人から帝王学を徹底的に指導をしてもらい、そして代表監督として活躍してもらおうという心づもりなのでしょう。オランダの代表監督というのは、スーパースターと監督の実績で選出される人がいるのですが、ファン・バステン以降ファン・マルワイク→ファン・ハール→ヒディンクと、実績重視の代表監督が続いたので、ブリントはしばらくぶりのスーパースター系・・・ブリントはスーパースターというよりは地味系ですが、しかし選手・代表の実績のある人が選出されたことになります。
で、現在オランダ代表には、彼の息子がいます。父と同じくアヤックス・アムステルダムでプレーするダレイ・ブリントです。
顔がお父さんそっくりですね。父親似なんですね、きっと。
さて、ここで考えるのが、ブリント氏の息子への態度です。彼はまだ監督ではありませんが、コーチである以上いろいろ意見を言わなければいけない立場でもあるわけで、時には自分の息子に厳しい態度を取らざるを得ない場合もあるはずです。それができなければ代表のコーチにはならないでしょうが、いろいろと複雑な気持ちにならないわけではないでしょう。スポーツというのも実力の世界ですから、ましてや誰もが注目するサッカー代表で、実力のない人間をえこひいきするわけにもいきません。
代表監督とチームの選手が親子関係というので私が思い出すのが、1998年フランスワールドカップでのイタリア代表、チェーザレ・マルディーニ監督と息子のパオロ・マルディーニです。パオロはまさに、お父さんを上回るスーパースターですから、起用うんぬんが問題になるようなものではありませんが、これはこれですごい話ではあります。なおマルディーニ親子はACミランでも監督と選手の関係でした。
ところで昨日引き合いに出したヨハン・クライフは、息子のジョルディ・クライフもサッカー選手になり、オランダ代表にもなりましたが(これだけでもすごい話ですが)、やはり親が偉大過ぎたせいもあったでしょうか、選手としては大成するに至りませんでした。バルセロナFC在籍中に、監督・選手の関係でした。
日本でもプロ野球では、長嶋茂雄や野村克也が親子で監督・選手の関係でしたが、息子のほうがやや実力が伴わず活躍ができませんでした。親ほどのスーパースターとまでは言わずとも、それなりに活躍をさせたいのは親としてもやまやまでしょうが、なかなかそうもいきません。
で、ここで私が思い出すのが、プロ野球でなく高校・大学野球ですが、過日亡くなった原貢監督と選手だった原辰徳のことです。わりと知られている話で、原の親父は徹底的に息子をしごきました。他の選手なら1発殴るだけなのを息子には3発殴ったとか(体罰という観点からすれば、これはこれでまずい話ですが)、その種のエピソードには事欠きません。で、貢氏は息子に次のように話をしたそうです。この話は、息子も何かのインタビューで話をしていたのを聞いたことがあります。
>原監督は「進学時に『五分五分の力なら補欠だ。六分四分でも補欠。七分三分なら考える。おまえは耐えられるか』と聞かれた」と振り返る。チームでは誰よりも怒られ、他の選手に同情されるほどだったという。
実際には、もちろん原は他の選手より七分三分以上の実力がありますから原はレギュラーになりますが、それにしてもその厳しさたるや並大抵のものではなかったようです。
もちろん時代が違いますし、これはかなり特異な事例でしょうが、それにしてもそこまでいくこともないではないわけです。もっとも監督・選手の関係でなくて親が徹底的に指導するという例もあります。個人競技などではそのようなことがしやすいでしょう。球技でなくて、たとえばレスリングとかボクシングなどは、親、あるいは近い身内が指導している例がわりと見かけますね。気楽にできないスポーツだから、とかいう理由なのでしょうが、けっこう厳しい指導がされています。直接指導しているわけではないのかもしれませんが、柔道なんかでも親が柔道家というのも多いですね。また体操も、親がすごい選手という例が散見されます。
日本で、同じスポーツをして親を超えた例でいちばんすごいのが、やはりハンマー投げの室伏幸治でしょうか。彼の場合、お父さんもあまりに偉大な選手であるわけですが、その父親をはるかに凌駕してしまったのですから、これは驚異の一言につきます。
個人的な意見では、親が(指導者としての実績はともかくとして)選手としてあまりにすごいのなら、子どもはその道は継がないほうがいいんじゃないかな…なんて凡庸なことを考えますが、マルディーニや室伏のような例もありますから、ここはチャレンジしてみるのもいいかもしれません。ブリント親子は、2016年以降どうなるか、息子は代表にいられるか、代表で活躍できるか、期待していきたいと思います。