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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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元K-1プロデューサーの本を読んで、「どうもなあ」と思ったこと

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過日図書館に行って本をあさり、次の5冊を借りました。

生活保護リアル

さいごの色街 飛田


私家版 差別語辞典 (新潮選書)

宝塚(ヅカ)読本 (文春文庫)(私が借りたのは、単行本)

平謝り

実に脈絡のない本の借り方ですが、それはともかく、最後の「平謝り」という本を読んで、「どうもなあ」と思うところがありました。引用してみます。著者は、もともとはベースボールマガジン社の編集者で、それが格闘技界に入って、プロデューサー、プロモーターみたいなことをした人です。格闘技の番組を地上波で流していた時代には、なにかというとテレビにでていました。

で、著者は、鳴物入りで宣伝できる大物をK-1にスカウトしようとして、元横綱のが脈がありそうだという情報を入手します。曙は、当時相撲協会で面白くもない仕事をしていて、経営している飲食店もうまくいっていませんでした。著者は、福岡の東関部屋の稽古場に行き、曙と接触、いい感触を得ます。その日早速、正道会館石井館長を福岡に呼び、曙説得を始めます。

>僕は石井館長を交えて、格闘技界のこと、曙をどうやって練習させ、スターにしようと思っているか、必死に口説きました。

(中略)

でも、ここで重要なことがあります。その時に僕が曙に言ったのは、

「横綱、やる気があるんだったら奥さんにだけ相談して決断して下さい。相撲関係者に相談したら絶対に反対されるに決まっています。賛成する人は一人もいませんよ。反対の意見を聞きたいんだったら相撲関係者に相談して下さい」

そうしたら、

「いや、相撲関係者には相談しません。家内と相談します」と、曙は言ってくれた。やったと、心の中で僕はガッツポーズをしました。

(中略)

東京のホテルに部屋を取って、祝杯のシャンパンをあらかじめ用意して、ちゃんとした契約書も用意して曙を待ちました。奥さんも呼んでもらって。曙に関しては十分脈があったので、この日はとにかく奥さん一本に絞って説得しようと思いました。

「奥さん、もう一度、横綱がスポットライトを浴びる舞台に立たせましょう。奥さんは横綱がOKなら、認めてくれる人ですよね」

「ええ・・・・・、まぁ私はこの人がよければ」

「じゃあ、新しい門出を祝して乾杯!」

ほとんど、考えさえる間を与えませんでした。

(中略)

今度は「夜逃げ」の話しを持ち出しました。

とにかく、僕は周りから引き止められることだけが怖かった。まず曙を相撲の世界から切り離すことに必死になりました。(中略)ちょうど東関部屋全体で出稽古に出る日があったので、その日を狙って荷物を持ち出してもらったのです。(引用者注:2003年)11月5日に帰京、その足で北の湖理事長に辞表を提出してもらい、曙の決心が揺らがないうちにすぐ翌日に記者会見を開きました。ここまでやれば、相撲協会ももう追って来られない。(p.122〜p.124)

・・・・(笑)。

>ほとんど、考えさえる間を与えませんでした

ねえ。

それは、考える暇を与えたら、「やっぱりやめた」という話になるのかもしれませんし、相撲界で相談したら誰だって反対するのは目に見えていますが、こういう話を自慢げに語られても「どうもなあ」ですよね。いや、結果論として、それで曙が現在充実した人生を送っているのなら別にかまわんけど、現状とてもそうとはいえんでしょう(笑)。

昔拙ブログで引用した記事を再引用します。その大晦日の試合でボブ・サップに負けた直後の奥さんの言葉です。

>(前略)

いやプロレス転向の話は何度もありましたが、本当のスポーツに思えなかった。横綱になった人にやらせたくなかった。何度もケンカして、離婚の話までしたんですよ。

 怖かったのは、ティーンエージャーが親から駄目、駄目と言われて反発するようにならないかでした。怒られるかもしれないけど、大将の頭の中は今でも18歳の男の子のように若いから。それにウチの奥さんが夢をつぶしたとか、オレはやりたかったのに奥さんのおかげでなにもできなかったなんて言われかねない。そんなこと聞きたくなかった。それで今回は彼に任せました。

 親方で協会に残って3年間、相撲を見ていて「オレが今現役だったらみんな倒せるよな」「オレの方が強い」なんて言ってました。でもチャンスがない。「そんなに自信があればやってみたら」って言いました。彼の生活を見て、この方がいいかなと思った。彼も「自信がなかったらこの道を選ばなかった」って。

 協会の給料では親方株(年寄名跡)を手に入れるのも難しかったことも関係しています。相撲には今も未練がありますね。

(中略)

この2カ月、あっという間でした。でも大将が幸せですからそれでいいですよ、私は。毎日顔を合わせて、つまらなそうな顔を見るのはこっちもつらい。暗い顔は見たくない。ヒザは心配だけど、ケガしたら仕方ない。彼の選んだ道だから。私は応援するだけです。

まあ気の毒ですね。曙みたいな人間と結婚しちゃったこと自体、たぶんに不幸のはじまりかも。もっとも曙自身後援会から奥さんとの結婚を猛反対され、それで結婚を強行したばかりに後援会解散→経済的な苦境、ということになったわけで、奥さんもそのあたりは相当気がとがめるものはあったのでしょうが。


谷川さんのような人は、基本的に他人のその後なんかろくに考えないのかもしれないし、別に曙に契約を強要したわけでもないのだから、それは谷川さんを批判するのは筋違いだろうし、曙に同情するのもどうかですが、まあしかし、頭の悪い人間を利用するのも、あんまりいいとはいえないよね。やはり世の中、曙のような人間には、相撲界とも身内とも一線を画した信用できる相談役みたいな人が必要なのかもしれませんね。弁護士でも会計士でもいいですが、小室哲哉とか米国の一部スポーツ選手とかがどうしようもない連中のいい食い物になるように、世の中他人に食い込んでひどい目にあわせる人間がごまんといるわけで、そういった連中からわが身を守ることも時と場合によっては必要でしょう。

読んでいて、人生とは何か、人間とは何か、なんてことまで考えさせられる本でした、って、他人に積極的にすすめる気もしませんが。


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