日本をしばらくお留守にしていたら、ちょっと面白い報道がありました。bous-simotukareさんがコメント欄でご紹介してくださったNHKの記事(魚拓)を引用します。
>「尖閣は現状維持で合意」機密解除の英記録
12月31日 14時29分沖縄県の尖閣諸島を巡り、昭和57年、当時の鈴木善幸総理大臣がイギリスのサッチャー首相と会談した際、「中国との間で現状を維持することで合意し、問題は実質的に棚上げされたとサッチャー首相に伝えた」とイギリス側が記録していたことが明らかになりました。
これは昭和57年9月に当時の鈴木善幸総理大臣が来日したサッチャー首相と会談した際の内容をイギリス政府が記録したもので30日、機密解除されました。
それによりますと、鈴木総理大臣は沖縄県の尖閣諸島について、みずからが中国の当時の最高実力者※トウ小平氏と会談した経験を紹介し、「日中両政府は大きな共通の利益に基づいて協力し、詳細についての違いはひとまず触れないことで一致したと伝えた」としています。
そして、記録は「鈴木総理大臣は、その結果、問題を具体的に取り上げることなく現状を維持することで合意し、実質的に棚上げされたとサッチャー首相に伝えた」としています。
当時、サッチャー首相はイギリス領だった香港の将来の統治の在り方について中国側と本格的な話し合いに臨もうとしており、鈴木総理大臣は、トウ小平氏との直接対話を勧めたということです。
日本政府は尖閣諸島に関して、わが国固有の領土であり、解決すべき領有権問題は存在せず、中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もないという立場を一貫して示しています。
外務省幹部「『棚上げ』合意した事実ない」
これについて外務省幹部はNHKの取材に対し、「鈴木元総理大臣の発言は確認できていないが、尖閣諸島を巡って中国側と『棚上げ』することで合意したという事実はない。尖閣諸島は、歴史的にも国際法上もわが国固有の領土であるという日本政府の立場に変わりはない」としています。
※「登」に「おおざと」
記事の内容自体は、「やっぱり」「当然」「当たり前」「何をいまさら」程度のものですが、私が引っかかったのがこちらのくだり(外務省幹部のコメントについては、確信的に嘘をついているという以上の感想はありません)。
>日本政府は尖閣諸島に関して、わが国固有の領土であり、解決すべき領有権問題は存在せず、中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もないという立場を一貫して示しています。
一貫してそんなこと示してはいないでしょ(笑)。この件で棚上げ合意があったなんてことは、そんなこと国会においてですら政府が認めています。いいですか、前に引用した国会答弁の議事録を再度ご紹介しますよ。1979年5月30日の衆議院外務委員会での外相答弁です。中国副主席の名字は、文字化けするのでカタカナにします。
>園田国務大臣 (略)
少し長くなりますけれども、尖閣列島は御承知のとおりに中国とわが方は立場が違っております。わが方は歴史的、伝統的に日本固有の領土である、こういうことで、これは係争の事件ではない、こういう態度、中国の方は、いやそれは歴史的に見て中国の領土である、日本と中国の間の係争中の問題であるという差があるわけであります。そこで北京の友好条約締結のときに、トウ小平副主席と私との間で、私の方から話をしまして、尖閣列島に対するわが国の主張、立場を申し述べ、この前の漁船のような事件があっては困る、こういうことを言ったところ、向こうからは私の主張に反論なしに、この前のような事件は起こさない、何十年でもいまのままの状態でよろしい、こういうことで終わったわけです。
その後中国のトウ小平副主席が日本に来られたときに、共同会見のときにたな上げだという言葉を初めて使われ、わが方は依然としてわが方の領土であることは明白であるといういきさつがあるわけでありますけれども、少なくとも日本と中国の友好関係の現状からしまして、この前のような、漁船団のような事件は起こさない、二十年でも三十年でもいまのままでよろしいということは、わが方から言えば現在有効支配しているわけでありますから、ことさらに中国を刺激するような行動、これ見よがしに有効支配を誇示するようなことをやれば、やはり中国は国でありますから、自分の国であると言っているわけでありますから、これに対して異論を出さざるを得ないであろう。そうでない状態が続くことを私は念願しております。
したがって尖閣列島についてはわが国の領土ではあるけれども、こういういきさつがあるから刺激しないように、付近の漁民または住民の避難のため、安全のためにやむを得ざるものをつくるならば構わぬけれども、やれ灯台をつくるとか何をつくるとか、これ見よがしに、これは日本のものだ、これでも中国は文句を言わぬか、これでも文句はないかというような態度は慎むべきであるということを終始一貫議論をしてきた経緯があるわけであります。
この答弁を読んで、どこが
>尖閣諸島を巡って中国側と『棚上げ』することで合意したという事実はない。
>日本政府は尖閣諸島に関して、わが国固有の領土であり、解決すべき領有権問題は存在せず、中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もないという立場を一貫して示しています。
なんですか(笑)。そう主張するのなら、政府もその言い分をそのまま垂れ流すマスコミも、この答弁について説明してくださいよ(笑)。
それにしたって、政府は、inti-solさんがご指摘のように全部承知でうそをついているわけですが、マスコミはどうなんですかね。私みたいな完全な素人だって、ちょっと調べれば簡単に発見できちゃったような国会答弁の存在を知らないなんて、そんなことはないと思うけど(笑)。
私は詳しいことを知りませんが、各マスコミだって、資料集というかデータベースみたいなものを各々持っていて(地方紙なら中央の問題については、共同通信とかが提供しているはず)、それを記者は勉強したり適宜参照しているでしょう。そこには、この答弁については収録されていないんですかね? そんなことはないでしょうけど。これも、都合の悪いことはなかったことにする、歴史修正主義的対応なんでしょうか。万が一知らなかったとしても、私以外にも同じような指摘をしている人は大勢いるでしょう。調べれば、すぐにわかっちゃう程度の話。
ていいますか、私の知る限り、日中国交回復の過程について書かれた本には、だいたい「棚上げ合意がされた」という趣旨のことが記載されているように思います。尖閣諸島の問題は、台湾問題(一つの中国問題)などと並んで国交回復時の主要な争点だったのだから、それを双方の顔が立つように適宜処理するのは当然の話。
政府の言い分を無批判に垂れ流していたら単なる御用報道機関でしょう。この記事の場合、あたかも
>中国との間で「棚上げ」や「現状維持」で合意した事実もないという立場を一貫して示しています。
というふうに、客観的にもそうであるかのように報じています。NHKだって、現安倍政権下における産経新聞みたいに、完全に安倍御用達(産経新聞を自民党御用達ととらえるのは、必ずしも正しいとは思いません。河野洋平氏や福田康夫氏への憎しみの度合いは他のマスコミの比ではありません。実際安倍政権だって永遠じゃないしね。当たり前だけど。でも産経の本音としては、安倍には死ぬまで首相をしてほしいんじゃないんですかね。安倍以上の右翼が首相になる可能性はあっても、ここまで産経と癒着してくれる人間が首相になる可能性は低いでしょう。なにをあんな馬鹿でクズをそこまで支持しているのか知りませんが)としてわりきっている報道機関と評価されたら、さすがに(まともな)NHKの人はいい顔はしないでしょう。いくら予算を国会審議されている立場だからってさ。
余談ですが、英国政府側の思惑としても、棚上げを否定する日本側に対する何らかのメッセージはあるんですかね。
ところで上で紹介させていただいたinti-solさんの記事によると
>1978年10月26日の各新聞は、こぞって尖閣の棚上げ合意を報じているそうです。今になって、政府の尻馬に乗って「棚上げ合意なんてない」と主張している産経新聞は、当時「『尖閣』は棚上げ、解決、次世代に待つ」という見出しを掲げていたそうです。
とのこと。それなら調べて、縮刷版があればそれを拙ブログで紹介、なければ紙面そのものを紹介しても面白そうです。期待しないでお待ちください。
本日の記事は、inti-solさんの記事、bogus-simotukareさんからのコメントを参考にしました。感謝を申し上げます。