>新垣隆氏、“自身名義”初のCD発売 美人バイオリニストと全国ツアーも
オリコン 1月27日(火)5時0分配信
昨年2月、佐村河内守氏(51)のゴーストライターであることを告白したピアニストで作曲家の新垣隆氏(44)が、自身名義では初のCDを発売し、全国ツアーを行うことが26日、わかった。バイオリニストの礒絵里子(いそ・えりこ、42)とタッグを組み、自身の新曲2曲を含むアルバム『ロンド~珠玉のヴァイオリン名曲集』を3月11日に発売。同26日からコンサートツアーをスタートさせる。
(以下略)
この件に関しては、私も記事を書いていました。
けっきょく自称作曲家氏の存在がそれなりに重宝だったということなのだろう
いまにしてみれば、2014年というのは「フェイク」「うそ」「デタラメ」というのが一つのキーワードだった年かもしれませんね。「週刊文春」がこのゴーストライター問題を報じた2月13日号発売と新垣氏の記者会見が開かれたのが同じ2月6日ですから、ちょうど1年前です。それで例の「STAP細胞」についてかの小保方晴子が(といいますか理研が開いたのですが)記者会見を開いたのもほぼ同じ時期です。いままでにも旧石器捏造事件(2000年)など世間を騒がせるフェイク事件はいろいろありましたが、2014年のようにかなりの大物事件が2件もつづけざまに起こった年というのもめずらしいでしょう。
STAP細胞の件についてはこの記事ではふれないとして、作曲家のゴーストライターの件についていろいろ世間が驚かされたのは、単純にゴーストライターの問題だけではないはずです。付加的な問題でしょう。すなわち
大新聞、NHK、民放キー局がつづけざまにこの作曲家をとりあげてそれなりの知名度を得るにいたったこと
本人が実態とは異なる聴覚障害を自称して、それがこの人のセールスポイントになったこと
広島原爆や障害児との関係など、社会問題にも本人が積極的にコミットしたため、それも大きなセールスポイントになったこと
本人楽譜も読めないくらいの全く作曲家としての実態に欠けていたこと
などだと思われます。ふつう作曲家のゴーストライター(本来なら「ゴーストコンポーザー」というべきでしょう)問題というのは、それなりの力のある作曲家が他人に頼むというたぐいでしょうが、本人これといった作曲能力がなかったのを、全面的に他人に依存して作曲家として名を売ったのだから、これはある意味大したものです。他人の真似ができることではありません。
で、そのような虚像を作り上げたという点においては、これは本人の感覚と努力によります。つまり自分を売り出すために全聾を装ったり、原爆や障害者の問題、東日本大震災の復興にも関係したりと、実に自らの売り込みに積極的であり、しかも対応がうまい。彼は、自己プロデュースの能力にとても長けていたと思います。
それで、この件について詳細に記したのがこの本です。
佐村河内という人は、高校卒業後、京都で俳優見習いみたいなことをしたり(この経験は、作曲家を装うのにそれなりに役だったと思われます)、都内でロックシンガーもどきみたいなことをしたりしましたが、いっこうにうだつが上がらず、まともな職にも就いていませんでした。そうしたらひょんな偶然で、子どものころから音楽に特異な才能を見せ、桐朋学園大学で作曲の非常勤講師まで勤める人物(新垣氏)と知り合い、そして彼に作曲を依頼してそれを自分の名前で発表するという手法で、「時の人」と言っても過言でない地位になりました。最終的に、実にひょんな偶然で逆に追いつめられた立場になってしまうのですが、これだって佐村河内氏が新垣氏と友好的に手を切って次なる新垣氏を探せれば、まだこの虚像が続く可能性もじゅうぶんあったわけです。そして佐村河内氏がそれをめざしていたことも、上の本に記されています。
私も、彼の宣伝に大いに貢献したと思われるNHKスペシャルは途中まで見ましたが、どうも最後まで見る気がしなくて見るのをやめてしまいました。今にしてみれば、最後まで見ておけばよかったな。
この件では、佐村河内氏が作曲のことで復権することはないでしょうが、しかしここまで凄まじくなくても作曲の世界でもゴーストなんてありふれていますし、それらは業界内部などでささやかれていてもなかなか公にはなりませんよねえ。実際のところ、前の記事でも引用しましたように、記者会見で新垣氏は、Wikipediaの記述によれば、
>彼の申し出は一種の息抜きでした。あの程度の楽曲だったら、現代音楽の勉強をしている者だったら誰でもできる。どうせ売れるわけはない、という思いもありました
とおっしゃったとのこと。詳しいことは知りませんが、たぶん新垣氏の言うとおりそう考えると、どれだけ膨大な才能が膨大な楽曲を生み出し、そしてどれだけ膨大な傑作が埋もれているのかなと思います。実際、だれしも認めるように、新垣氏が同じ曲を発表しても、万が一にも佐村河内氏の売り上げには遠く及ばない、そもそもCD発売などされるわけがない、というのが実情ですから、新垣氏にとっても、自分の曲を大々的にいろいろな人たちに聞いてもらえるという意味で、奇妙な依存関係が成立してしまったわけです。
そう考えてみると、私「刑事コロンボ」で、スティーヴン・スピルバーグが監督をしたので知られる「構想の死角」を思い出してしまいました。あの作品では、エラリー・クイーンみたいな2人で1人の名義にて作品を出版している推理作家がいて、しかし実は1人が書いてもう1人はプロデュースなどを担当するというものです。それで別れ話を持ち出した書いているほうをプロデュース担当の方が殺害するというものでした。犯人役はジャック・キャシディで、彼はコロンボシリーズの犯人役の常連でした(3作品に出演)。これはフィクションですが、この件は、やはり作者とプロデュース役が違って、そして名義はプロデュースの人のみという構図だったということです。
そう考えると、新垣氏のコンサートというのもなかなか面白そうですね。この件がなければたぶん新垣氏のコンサートというのも実現不可能あるいは困難だったでしょうから。これはこれで興味深いというものです。もっともこれを「怪我の功名」といったらまずいかもしれませんが、記事をまた引用します。
>(前略)
礒とのデュオで全国10ヶ所以上を回るツアーの内容は「まだ詳しくは発表できません」としながらも「わかりやすいクラシックの解説と、初めての演奏形式にチャレンジする予定です」と新しい挑戦に向け、静かに闘志を燃やしている。
「コンサートで自分が大勢の前でしゃべるなどは想像もできないので、礒さんの言うとおりに頑張るしかないですね」と年下の“相方”を頼りにするが、気の合う2人のトークはボケとツッコミ満載。軽妙なトークを交え、クラシック音楽の魅力を紹介する。
ツアーは3月26日の宮城・石巻ビッグバン公演を皮切りに全国10ヶ所以上で開催。現時点で発表されているのは以下のとおり。
■新垣隆&礒絵里子コンサート
3月26日(木):宮城・石巻ビッグバン
3月30日(月):東京文化会館(小) ※昼・夜2回公演
5月22日(金):埼玉・川口リリア音楽ホール
6月14日(日):岐阜・飛騨市文化交流センター
7月16日(木):愛知県立芸術劇場(コンサートホール)
11月11日(水):東京・浜離宮朝日ホール
これはちょっと面白そうだから行ってみようかなという気もします。実際に行くかどうかはわかりませんが、行ったら記事を書きます。あ、コンサートには行かなくても、もちろんCDは買います。