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Channel: ライプツィヒの夏(別題:怠け者の美学)
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基本的に、理数系の学問振興と政治体制・民主主義の程度は関係ないと思う

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中国共産党の幹部であった故プンツォク・ワンギャル(プンワン 本名については、いろいろな表記があります)についてすごい伝記を書いた阿部治平氏という方がいます。

もうひとつのチベット現代史

余談ですが、このプンワンという人がどれだけすごい人かと言えば、かのペマ・ギャルポ氏ですら

>…私は八〇年代に本当の意味でのチベット自治が実現する兆しが見えたとき、プンツォク・ワンゲルが初代首相にもっともふさわしいと思ったほどです。

とまで評価しているということからもうかがえるでしょう。

もっとも世の中、チベットサボーターを自称しているくせに、このプンワンを知らなかったと堂々とブログで語る手合いがいたことがあります。私なら、知らなかったら絶対そんな話は他人にしません。他人から馬鹿にされます。で、ご当人bogus-simotukareさんと私からやっぱり徹底的に馬鹿にされたのだから、お粗末にもほどがある、どうしようもないとはこのことです。

そんな話はどうでもいいですが、そのすごい伝記を書いた阿部氏のブログ記事に、「おや」というものがありました。つまり、中国では密告が横行しているという話の中ですが・・・。

>権力維持のために言論統制を強化すれば、密告の土壌は深まり拡大する。だが大学や研究所で、講義や研究さらには人格問題などで密告が行われれば、教育・研究の創造的発展はない。社会科学だけではない。科学・技術の分野でもこれでは定説を越えた新学説が生れにくい。伝統的芸術の革新もできない。実に中国にとって不幸な時代がやってきたといわなければならない。

そうですかねえ。文科系は、たしかに政治体制や民主主義の程度によって学問研究の自由が阻害されることはありますよ。戦前の滝川事件なんかはまさにそうでしょう。天皇機関説事件などもしかり。あるいは歴史研究なども、神話などの関係から研究の自由が阻害されることもあったわけです。しかし理数系の学問や科学技術などの問題は、直接はそういうこととはかかわらないんじゃないんですかね。いいとか悪いとかはともかく。

例えば旧ソ連は、米国に先駆けて宇宙ロケットや有人飛行を実現しましたよねえ。また、ナチス・ドイツが兵器とかの関係で、非常に優秀だったのも、私が書くまでもないでしょう。

それで、我が日本はどうですかね。戦前の日本にまともな民主主義なんかがあったわけではありませんが、しかしゼロ戦とか戦艦大和とか、すごいものをつくりましたし、また湯川秀樹中間子論を発表するなど、優れた自然科学者も輩出したわけです。繰り返しますが、いいとか悪いとかの問題ではなく、特に民主主義や政治体制などは関係ないでしょう。きっちりした教育システムがあり、研究者を養成するそれなりのシステムが確立してて、予算をつぎこめば、こと理数系に関してはそれなりの実績は出せるということです。ルイセンコ学説のようなものは、まさにきわめて例外じゃないですかね。あとにも先にも、現段階あれだけの出来事はないでしょう。

>実に中国にとって不幸な時代がやってきたといわなければならない。

そうなんですか? 失礼ながら、文革時代もそうですが、小平の時代などもふくめて、中国の研究環境は、少なくとも理系に関してははるかにめぐまれてきているんじゃないんですかね。留学した優秀な研究者も帰国しているし(もちろん帰ってこない人も大勢ですが)、大学のポストや政府の援助も今のほうが手厚いんじゃないんですかね。すくなくとも文化大革命の時代と比較して、今日のほうが研究について「不幸」なんて言っていたら、それは全くといっていいほど実態にそぐわないんじゃないんですかね。たとえば下のような記事はどうでしょうか。

>日本を抜いた中国の科学技術力~その知られざる実像

中国の科学技術力が日本を抜いたといっていいのかどうかは、私は論じるための知識がないので滅多なことをいえませんが、たとえば昨年話題になったインドネシアでの新幹線の導入で、中国が日本に勝ったなんてのは、まさに中国の鉄道技術が日本と勝負できるところに来ている、ということではないですかね。あれはダンピングがひどいとか、あんな契約は日本側が取らなくて良かったとかいう話もありますし、またそれは正しいのかもしれませんが、決してそんなにはるか以前というわけでもない時期でさえ、中国の鉄道が日本と張り合うなんてことはまず考えにくかったわけです。先日も記事にしましたように、今年の3月、中国の新幹線に乗りましたが、なかなか快適でした。下の記事をご覧になってください。

上海(あとちょっぴり蘇州)紀行(2016年3月)(4)

上で紹介した読売新聞の記事では、

>日中科学技術政策の決定的な違い 

 中国の科学技術の水準と研究現場のレベルが急速に上がってきた理由はどこにあるのか。ここで紹介したことからも、中国は常に世界一を目指し、大胆な国家目標を掲げることで現場の士気があがっていることが見て取れる。 

 中国は一貫して科学技術を最重要政策と位置付けてきた。沖村氏は「共産党・国務院・行政各部が一体となって政策立案し、実行する体制が出来上がっている」とし、「国務院直属のトップダウンで横断的政策を実行する組織、シンクタンクが充実している」と語っている。

 さらに沖村氏は「研究現場がチャレンジ精神で取り組むように、国家が指揮しているように見える。科学研究にはイデオロギー色がないので国際的にも公正に評価を受けられることが研究者にとっては最大の魅力であり、研究者の士気を高めている」と語っている。 

 科学技術創造立国を国是として掲げている日本において、国家としての科学技術政策と目標と将来戦略が、国民や研究現場にまで明確に伝わってこないことは政治、行政、学術現場の最大の課題である。

とあります。私が注目したいのが、

>科学研究にはイデオロギー色がないので国際的にも公正に評価を受けられることが研究者にとっては最大の魅力であり、研究者の士気を高めている

という指摘です。文科系の研究というのは、その時代の政治や国家体制の在り方と無関係ではあり得ませんが、理科系はそういうものでもないということです。たとえばナチス・ドイツの時代に優秀なユダヤ人の学者(アインシュタインとか)が国を去りましたが、あれはユダヤ人を弾圧したからであって、上にも書いたように、ナチス・ドイツは科学技術で極めて優秀だったわけです。

なんでそんなわかりきったことについて阿部氏が変な主張をするのか理解に苦しみますが、このような態度では、中国の本質には全然近づけないんじゃないんですかね。プンワンについてあんなすごい伝記を書いた優秀な方が、なぜこんな世迷言を書くのか、ちょっと信じられない気分です。

なおこの記事は、例によってbogus-simotukareさんの記事からヒントを得ました。感謝を申し上げます。


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